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「いつだって傍に連れて、自分のモノだって見せびらかしているじゃない。こいつはオレのだから近付くんじゃねぇ、ってね」
「な、は!?んなわけ」
「それにいつだってクールで冷静で、あまり感情を表に出さない彼が唯一それを出すのは決まってあなたが関わっている時だけよ?もう周りにとってはお決まりになってきていると思うわ。そうでしょ?」
確かに、とエステルはしみじみと言った。ルーも思わず頷いてしまう。ユーリはいつだってクールだった。ルーもそれなりに付き合いは長いとは思うけど、彼が取り乱しているところを見たことがない。ただしクーが関わっていなければ、の話だけど。クーに何かがあったり、知らない男と楽しげに話していたりとか。ユーリに対して本気でキレているときなんかはいつもの彼はどこへと飛んでいったのだろうかと思うくらいに動揺を見せていた。それくらいユーリにとっての唯一の弱点は、クーなのだ。クーは全くその自覚も自信もないけれども。
三人の話を聞いて、顔を真っ赤に染めるクー。嬉しくて嬉しくてたまらないくせに、それを見せないように顔を背ける。そんな彼女にジュディスはクスクスと笑った。
「本当に可愛い子ね。ユーリにはもったいないわ。私が奪っちゃおうかしら?」
妖艶に微笑みながら迫っていくジュディス。するとまるでこの様子をどこかで見ていたかのようなタイミングで、クーのスマホに着信のお知らせが入った。
「な、なんだよ」
『いやな、何となく今電話しとかないといけない衝動にかられてな。まずかったか?』
「べ、別に……んなことねーけど…」
本当にどこかに盗聴器でもしかけているのではないかという抜群のタイミングだ。まあ、ある意味そんな予感だけで電話をしてくるユーリが凄いけど。
『今日、何時頃うちに来るんだ?』
「きょ、今日行くなんて言ってねーだろ!」
『今日は少し早く帰れそうだから、どこかで食事でもしねーかと思ってさ』
「勝手に決めんな!まだ何も言ってねーだろっ!!」
ああ、これが可愛くないんだよな、とクーは落ち込む。ちらりとエステルを見るといつの間に書いたのか。紙とペンを持って、“今が素直になるチャンスですよ”と字を見せてきた。彼女ぐらいに素直になれれば、苦労をしないのに。そうしたら、きっとユーリだってもう少し。もう少しだけ優しくしてくれるかもしれない。けど、可愛くなくて素直じゃない性格のクーは、女の子らしく甘えることが出来ないのだ。恥ずかしくて照れくさくて。自分らしくないと思ってしまう。
どんどんと落ち込んでいくクーの耳に届いたのは、いつになく優しい声で囁く大好きなユーリの言葉だった。
『オレが会いたいから』
「…っ!」
『ダメか、クー』
ああ、ズルイ。本当にズルイ男だ。そうやっていつだってこちらの気持ちを見透かしてきて、クーの心をいつの間にか救ってしまう。さりげなく、まるで何てことないというように。でも、そんなズルイ男が好きで好きでしょうがないのだ。
「…ダメ…なんて言ってねーだろ…」
素直になるってどうしてこうも難しいのだろうか。少なくてもクーにとっては、何よりも試練なのだ。ついつい憎まれ口をたたいてしまう自分だからこそ、最大の難関になってしまう。けど、たまには自分だって素直にユーリに甘えたい。そんなこと恥ずかしくて口には出せないけど。
『クー』
「そ、それに!今日はどっかで食うんじゃなくて……ユーリが作ったやつがいい……」
だんだんと小さくなっていく声だけど、ユーリにはしっかりと届いたらしい。息を呑む音が聞こえてくる。どうやら驚いているようだ。
『…そっか。何が食いたい?』
「……ユーリが作ったものなら、何でもいい」
そう返すとどこか嬉しそうな声へと変わっていったのは気のせいだろうか。じゃあ買い物付き合えよ、と言い残して電話を切った。少しは素直になれただろうか。彼に少しでも伝わればいいのだけど。
ユーリとの電話に、幸せそうにとろんとした顔で笑うクーを見て、ルーは無性に自分の恋人に会いたくなった。今もまだ仕事中であろうジェイドに、メッセージを送る。今日泊まってもいいかな、と。仕事で忙しいだろうからすぐに返事が来るとは思っていないルーはポケットにスマホを戻そうとすると、すぐに返信が届いた。“ルーだけはいつでもOKですよ。少し遅くなるかもしれませんが、それでも良ければ”と申し訳なさそうに送ってくるジェイドに、ルーは家で待っているからと返した。
ああ、早く会いたいな〜。そう、双子は互いの恋人を想いながらチョコ作りを再開するのであった。
end
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