「すっげー真剣だな、クー」
「うっせぇ!あいつにぎゃふんって言わせてやるんだよ!」

いつになく真剣にチョコを作っているクーに、ルーは一体どうしたのだと聞く。いつもなら面倒だと決してお菓子作りなんてしないというのに。アニスから教わりながら、不器用な手つきで作るさまはまさしく真剣そのものだ。

ルーもまた、彼氏であるジェイドに作るためにティアに教わっているけど。ファブレ家のキッチンはかなり広々としているから、多少の人間がいても全く問題はない。ジェイドと恋人になってから、何事も飄々と作ってしまう彼の為に下手な物は作れないと料理上手なティアやアニスにお願いをしてこうしてバレンタインデーに向けたチョコを作っているのだ。だが、毎年面倒だからとその辺の店で買ってきていたクーが今年は手作りを希望するなんて、本当にどうしたのだか。気になるのは当然だろう。

「だって、あいつ無理だっつったんだぜ」
「あいつ…ユーリ兄のことか?」
「だあああっ!!ムカツク奴の名前出すんじゃねぇぇっ!!」

ムカツク奴って。中学の時から、クーは幼馴染でもあり家族として育ってきた兄のような存在である四つ年上のユーリと恋人になった。それまでに色々なことがあったのだけど、まあそこは今はいいだろう。幼少期からクーが可愛くていつも苛めていたユーリと、それをまともにとって自分は嫌われているのだと思っていたクーがようやく結ばれてもう三年ぐらいは経つのだろうか。喧嘩をしょっちゅうしているらしいが、今でもその仲は続いている。すでにパティシエになるからと専門学校に通うユーリは一人暮らしをする為にこの家を出てしまっているけど。毎日のように電話やラインで連絡をとっているようだし、週末は必ずユーリの家に行っているようだ。面倒事が大嫌いなクーが、自発的に。ま、そういう自分も同じく週末には隣家にあった実家からとっくの昔に自立してしまったジェイドが一人暮らしをしているマンションへと足しげく通っているけど。

ルーにとってもユーリは家族であり、大切な兄だ。それ以上もそれ以下の感情はない。向こうも同じだろう。だから二人が恋人になった時は、本当に嬉しかったことを今でも覚えている。だって可愛い妹には幸せになってほしいから。

「あんにゃろ、バレンタインのこと忘れていた俺に催促してきたんだぞ!!」
「別にカレカノなんだから、普通のことじゃねーの?」
「“たまには店のやつじゃなくて手作りのが食いたい。ああ、お前には期待するだけ無駄だっけか”なんて、ほざいていた奴が普通なのか!?あぁ!?」

しかも鼻で笑いやがったんだぞ、と憤慨するクー。これが漫画だったら、メラメラと背中から燃えている炎が描かれるだろうな、とルーは思ってしまった。

「ぜってぇ見返してやるっ!!ふはははは、ユーリのヤローに俺だってやればできるってこと証明してやるんだからなっ!!」

やる気に満ちているクーには悪いが、ルーもアニスもティアも苦笑するしかなかった。だって、ねぇ。

「…ユーリ兄ってさ、クーの扱い本当にうまいよな」
「ま、根が単純だからね〜。そこも可愛いんだろうけどさ」
「ふふ、そうね。だからこそ手作りが欲しかったんじゃないかしら」

にしても、ユーリの策略にまんまと引っかかるとはクーらしいといえばらしい。なんて、自分もジェイドに似たようなことを最初の頃は言われていたから、やっぱり双子なんだなとしみじみと感じた。

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