16

「月に最低一回は必ず顔を見せること。ケガをしないこと。無茶をしないこと。一人で危険な場所に行かないこと。何か困ったことが出来たら必ず私の元にくること。いいですね?」

そう条件をつけて、ルークの旅立ちを送った。勿論、べったりと離れないミュウを連れて彼は絶対に守ると答えて旅立って行った

はれて?恋人となった二人。今、どこにいるか分からないルークを、ジェイドは軍の仕事をしながら待っていた。本当は一緒に行くとわがままを言ってみた。軍の仕事に大して固執しているわけでもない。そんなことを言った日には、恐らくピオニーだけでなく、周りの臣下達にも物凄い勢いで辞職を止められるだろう。だが、ジェイドはそこはさして問題ではなかった

なのに、ルークにキッパリと拒否されたのだ

「ジェイドはマルクトにとって、必要な人間なんだから……絶対にダメだ。ちゃんと帰ってくるから、待っててくれよ」

ニコリと曇りがない笑顔で言われたら、苦笑して了承するしかない。ジェイドはズルイ、とよくルークは言うけれども、こちらにしたらルークの方がズルイと思う。自分をこんなにも虜にして、いいように振り回してくれるのだから

そして、相変わらずな軍の仕事をして、愛しい恋人を待つ日々が始まったのだ

「まるで旦那の帰りを待つ健気な奥さんみたいで、ジェイドには似合わないな!」

休憩だというのに、何が悲しくてガイやピオニーとお茶を飲まなければならないのだろうと思った矢先、ガイが爆笑しながらそう言い出した。それに反応したのは、いわずともピオニーである

「ぶっ、あはははははは!!た、確かにな!!んな健気、ジェイドとはもっとも縁遠い言葉なのにな!!ぶくく、ははははは!!」

ジェイドに指を差しながら腹を抱えて爆笑するピオニーに軽くイラっとくる。ガイもまた、涙目で笑っているのも癪に障る

「ほぉ、そうですかぁ。お二人とも、そんなにいたーい思いをご希望とは……なら、ご希望通りして差し上げます」

語尾にハートマークでも付きそうな言い方で、ジェイドはにこやかに笑う。不気味なくらいの笑顔に、先程まで爆笑していたガイとピオニーがピタリと止んだ。その表情は、これ以上ないくらい引きつっている。何か弁明をしようとしているが、もう遅い

「天光満つるところに我はあり、黄泉の門開くところに汝あり、出でよ神の雷。これで終わりです、インディグネイション!」
「ちょぉ―――、ま、ぎゃああああ!!」

ガイのみに当たるように発動した秘奥義。ピオニーには勿論、城にもちゃんと当たらないように計算されたので無事だ。プスプスと焦げて煙がガイから立っているが、ちゃんと生きてはいる。無事かどうかを聞かれたら、答えようがないけれども

「へーいか、何逃げようとしているのですかぁ?」
「い、いや……俺は用事を思い出してだな!」
「嫌ですね、これから陛下にはたーっぷりとお仕事をしていただきますから、ご安心を」

どこから出したのかは秘密として、ピオニーの目の前にどっさりと山積みになった書類を置く。ピオニーの最も嫌いな作業だが、そんなことは今関係がない。そう、これは希望を叶えてあげているだけなのだから

「それ、今日中にお願いしますね〜?」
「は!?これをか!?」
「勿論です。もしも、出来なかったなんて明日聞いたら……分かってますね?」

背中からゴゴゴと何か黒いものを排出し、ニコニコと笑顔で言うとピオニーは引きつった顔でコクコクと何度も頷いた。よろしい、とジェイドはさっさと帰宅しようと部屋を出て行く。自分はさっさと帰るジェイドに、ピオニーがあの鬼畜眼鏡と泣き叫ぶ。しっかりと聞こえていたジェイドは、これは明日も書類追加ですねと内心こっそりと決めたのだった

自分の家に着き、門を開けると、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえる。求めていた声は、幻聴なのだろうかと振り向くと、ルークが照れくさそうに立っていた

「えへへ、もう帰ってきちまった。月に一回じゃなくて、いいんだよな?ジェイド」

会いたくて会いたくて堪らなかったルークが目の前にいる。一瞬、自分が都合よく見ている幻覚ではないかと思ったが、はにかむように笑うルークを見て、本物なのだとようやく悟った

「―――――当然じゃないですか。おかえりなさい、ルーク」
「うんっ!ただいま、ジェイド!」

外だということも忘れて、ルークをきつく抱き締める。街の人に見られると焦るルーク。だがジェイドは構わなかった。例え、誰に見られてもいい。周りから何て言われようとも良かった

この愛おしい恋人を抱き締められるのなら

好きなことをする恋人を、待つ日々というのも悪くないかもしれない。だって今度は、必ず自分の元に帰ってくると信じているのだから

End
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