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どこか浮かない表情をするアッシュとルークの肩に、母はそっと手を置いた。二人を慰めるように、まるで兄弟喧嘩をした二人の息子を労わるような仕草であった

「あなたが一人で決めてしまって、アッシュは寂しいのよ。やっと兄弟が仲良く出来るかと思っていたのにね」
「なっ!?母上、俺はそんなこと……」
「あら、アッシュ。照れなくていいのよ。わたくしも、寂しいもの」

母には勝てないのか、アッシュは髪と同じくらい顔を真っ赤にして押し黙った。口をパクパクと動かして、何かを言い返したいのに言い返せないでいた。そんなアッシュの様子を見てナタリアがクスクスと笑っている

「ルーク、一つ約束してほしいの」
「約束、ですか?」
「えぇ、ルークが例えどこに行っても、どんな場所を旅してもいいわ。でも、あなたの故郷も実家もここなのだから、いつでも帰ってきなさい。そして、年に最低一回は顔を見せてちょうだい」

あぁ、そういえば。三年前、自分がレプリカであることを卑屈になって考えていたとき、母にそんなことを言われたのを思い出す。屋敷の人間に、レプリカや化け物として見られていた時、部屋に閉じこもっていたルークに、母は旅立つことを提案してきた。帰ってきていいのかと聞けば、当たり前だと返ってきた。あの頃とは、旅立つ理由が違うけれども、母は自分の居場所を空けておいてくれているのだ

ちゃんと、帰る場所を用意してくれている

「―――はい、約束します」

穏やかな表情で答えたルークを、母は満足そうに見つめた。渋る父とアッシュを、母が一喝するなんて貴重な光景を見れたのは、いいことなのか悪いことなのか

「ルーク。わたくしも、あなたに負けませんわ。必ず、この国を良くしてみせます。だから、時々は城にも寄って下さい。顔を見せなかったら承知しませんわよ」
「はは、こえーな。分かった、約束な」


母とナタリア二人と約束を交わして、インゴベルト陛下にも挨拶をした。無事に帰ってきてくれたと喜んでくれた陛下にも、ルーク生存のことは秘密にしてもらうことにした。アッシュがルークとして生きることは、そのままでいいと返事をした。アッシュは未だに渋っていたが、ルークはそれが人々の希望に繋がるのならそれで構わなかった。ある意味、そのおかげでルークは自由に生きることが出来るのだから

「おい、勝手にくたばるんじゃねぇぞ。いいか、てめぇが無残に死にやがったら、俺がおまえをぶっ殺しにいってやるからな!!」

そんな滅茶苦茶なことを、とナタリアは呆れていた。が、ルークは目をパチパチと動かすと、腹を抱えて爆笑してしまう。何を笑っているのだと怒るアッシュに、ルークは笑いながら謝る

「お前こそ、書類に埋もれて泣き言吐くんじゃねーぞ。オレの幼馴染、今度泣かせたら殴りに行ってやるからな。覚悟しとけ」

そう言い合う二人は、穏やかな表情で笑う。そして、ルークは左手をアッシュは右手を出して拳をぶつけ合う。口では素直になれないから、これが二人流の挨拶みたいなものかもしれない

アッシュとナタリアと別れたルークは、待ち合わせ場所の港へと向かう。ジェイド達に送られてピオニーに挨拶に行こうとしていた。が、そこには予想外の人がいた

「へ、ピオニー陛下!?」
「よー、ルーク久しぶりだな。また会えて嬉しいぜ」
「い、いえ……こちらこそ。っていうか、何故ここに!?」

港にジェイドやティア達と共にいたのはピオニーであった。護衛も周りにあまりいなさそうだが、一体どういうことなのだろうか

ルークの疑問が伝わったのか、ジェイドが呆れた表情で溜め息を吐いた。その様子からろくなことではないことが、ひしひしと伝わってくる

「私が乗ってきた艦に潜り込んでいたのですよ。あぁ、護衛はちゃんと艦にいますよ。今は邪魔だからと陛下が追い出したのです。全く、陛下がここに来るのなら私は何の為に来たのでしょうねぇ」
「いいじゃねーか、細かいことをグチグチ言うな。そのおかげでルークと再会出来たんだろ?なら、俺のおかげじゃねーか。感謝してもいいんだぞ、可愛くないジェイド」

そんな二人の会話に、誰も口を挟めない。二年経っても相変わらずだなとルークは妙に感心してしまう

新しいマルクトの艦に乗り、早々に出発をした。ティアやアニスは、別の船でダアトに帰るらしく、ここでお別れすることになった。今まで一緒にいたミュウと離れるのを惜しんでいたティアだが、ルークに自分達にも時には顔を見せに来てと言ってダアトへと帰っていった。勿論アニスにも、フローリアンと待っているからと言われたのだ

ジェイドとガイ、そしてピオニーと共に広い船室でお茶を飲むことになろうとは。人生って本当に分からないものである

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