ぐったりとベッドに寝るルークとは正反対に、ユーリはすっきりした表情でいた。この体力の差は一体何なのだと、ルークはいつも思う。でも、ユーリに求められるのは恥ずかしいけど、嫌ではない。この間は一番、自分を求めてくれていると分かるから

「……あ」

すっかり忘れていたけど、ホワイトデーだからと作ってきたクッキーを思い出した。上着のポケットに隠していたのだけど、自分の服はどこにいったのだと辺りを見渡す

「もしかして、これ?」

そう言ってユーリが差し出してきたのは、まさに探していたクッキーの袋だった。何故、それをユーリが持っているのだろうか

「さっきキスした時に気付いた。これ、もしかして手作りか?」
「……う、うん」
「で?」
「……は?」

何が、で?なんだろう。そう思っていると、ユーリの瞳がわずかに揺れた。もしかして、誰に渡すつもりなのかと思っているのだろうか。99%は確信を持っていても、残りの1%が違っていたらと思っているのかもしれない

いつも、自分はユーリに不安を与えているのかな

「……ユーリは、料理も菓子も作るの上手いから……オレのは不味いかもしんないけど。ちゃんと教えてもらったし、味見もしたから、大丈夫だと思う……んだけど。先月の、お返し……一枚でいいから、食ってほしい……つーか……」

段々と自信を無くして、ルークはモゴモゴと喋ってしまった。だが、ユーリにはちゃんと届いたらしく、目を丸くしたかと思ったら、次には見惚れるくらいいい笑顔でサンキュと返ってきた

「お、見た目よりは美味い」
「……一言余計だっつーの!!!
「ははは、悪い悪い。ありがとな、ルーク。でも、次からはオレが教えるから」
「は?」

パクパクと次々食べていくユーリが、何故かお菓子も料理も自分以外には教わるなと言ってくる。意味が分からなくてクエスチョンマークを飛ばすルークに、ユーリは耳元で囁く

「内緒で用意してくれんのも勿論嬉しかったけど、やっぱお前に教えるのはオレだけの特権だし?それに、二人でいる口実にもなるだろ?だから、オレ以外に教わるの禁止」

簡単に言えばヤキモチ妬いてんだよ、と言うユーリに、ルークの方が照れてしまう。じゃあ次からはそうすると答えるルークに、ユーリは約束なと嬉しそうに答えた。そんなに嬉しそうにされたら、約束を破る気にはならなくなる

「じゃ、オレからはこれな」

ユーリが手にしていたのは、小さな箱。リボンで包んであるそれを開けると、中には様々な種類のカップケーキが入っていた。ブルーベリーやオレンジ、イチゴにホワイトチョコでコーティングされているものもある

自分とはデキが違いすぎて、何だか言葉を失う。そんなルークの頭をガシガシと撫でると、ユーリはそんな顔をさせる為に作ったんじゃないとフォローしてくれた

「あ、ありがと……」
「どーいたしまして。オレもたっぷり貰ったからな」
「え?」

クッキーしか作っていないけど、とキョトンとしているとユーリは不敵な笑顔を見せる。わざわざ耳元に近付いてくるから、嫌な予感がした

「そりゃ、腹一杯食ったからな、お前を」
「……っ!!ば、ばっかじゃねーの!!」

だからどうして、この男はこんな恥ずかしい台詞をこうも言えるのだ。それに一々過敏に反応してしまう自分が憎い

「身体、大丈夫か?もう少し休んだら、また街回るか。どんなとこ行きたい?」

あまり自由に出歩けないルークを気遣ってくれているのか。どこから情報を得たのかは知らないが、次々とこんなところがあると説明してくれる。興味がないわけではない。むしろ、一人では勿論、例え護衛がいたとしても好きな場所になんて連れて行ってくれるわけがない。だから、ずっと好きに街を歩いてみたかった

だけど、ルークは服を着ようとしているユーリの背中に抱き着く

「ルーク?」
「……いい」
「ん?」

小声で話すルークの口元にユーリは耳を近づける。精一杯の素直な気持ちを伝えたくて、もう一度言う

「ユーリといれるなら……どこにも……行かなくても……いい」

背中を向けてくれていて良かった。きっと真っ赤になるだろう顔を見られなくて済むから。だが、しばらく経ってもユーリから何も反応が返ってこない。わがまま言ったから嫌われてしまっただろうか、と恐る恐る顔を上げると、今度はルークの方が驚いた

「おま……っ!それ、反則だろ……っ!!」

左手で顔を抑えて、正面を向いているユーリの顔は耳まで真っ赤になっていた。ユーリがこんなに照れている姿なんて、かなり貴重なものじゃないかと思う。滅多に見ることなどないだろうその姿を、ついつい凝視していると、何故か次には火がついた瞳でルークは再びベッドに押し倒された

「お、おい……?」
「自分の発言には責任持てよ、お坊ちゃま。こんなに煽ってくれたんだ。勿論責任取ってくれるよな?」
「は?ちょっ、無理だっつーの!!腰痛いし、夕方には帰るんだろ!?歩けなくなるだろーが!!」
「その時は、背負ってやるよ。だから、お前はただ感じてろ」

ふざけるな、という文句が叫ぶ前に口を塞がれてしまった。せめてもの抵抗しようと胸元を押すが、全くビクともしない。ルークの抵抗など微塵にも気にしていないユーリによって、結局帰るギリギリの時間までに、好き勝手されてしまうのだった

ぐったりとしているルークが、ユーリに背負われながらバンエルティア号に帰ってきて、例の連中と一騒動があるのだが

それは、強い味方によって事無きを得るのだった

end
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