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『飛沫くん、夕飯の準備出来たよー。悪かったねえ、うちの子たちの相手させちゃって』

「いや構わないっすよ。ちびっこと遊ぶの嫌いじゃないですし、一宿一飯のお礼だと思ってくれれば!」

俺たちは遅い昼食を取った後、モカさんちにお世話になることに決まった。あ、モカさんって言うのは店で俺に話しかけてきた焦げ茶色の髪をした男性店員だ。今台所に立って夕飯の準備をしてくれてるのが、店のオーナーの畠中弥七(はたなか やしち)さんとココアさん。俺たちの寝床を整えてくれてるのが一美(ひとみ)さんだ。


因みに、弥七さんと一美さん、モカさんとココアさんがご夫婦らしい。それぞれ一人娘と双子の息子がいるので、それプラス三人分の食事の準備は中々大掛かりなものになっていた。ほんとは俺も手伝おうとしたんだけど、のんびりと断られて今に至る。だから今まで、双子イーブイのアールとグレイとスピネルのちびどもを遊ばせながら、広い客間で寛いでいたという訳だ。

両肩に双子を乗せたモカさんに連れられ、俺もダイニングキッチンに移動する。因みにスピネルは、ちゃっかり俺の頭によじ登って肩車状態だ。思わず苦笑を浮かべたけれど、コイツが楽しそうだからまぁいっか。

ダイニングキッチンに続く扉を開けると、美味しそうな匂いが俺たちを迎えてくれた。店でも厨房を取り仕切っている弥七さんの料理はやっぱり美味しくて。メニューはシンプルな和食なんだけど、俺は進む箸を止めることが出来なかった。



凄い勢いで食べ続ける俺を見て、となりに座る六花(りっか)ちゃんが心底面白そうに笑っている。

「ねー飛沫さんがっつきすぎでしょ!そんなに急がなくても、まだお代わりたくさんあるよ?」

「あ、いや悪い。だって弥七さんの料理マジ旨いんだもんよ。ほんと、六花ちゃんのお父さんてすげーのな」

俺が力を入れて熱弁すると、六花ちゃんは照れ臭そうに頬を掻いた。将来は弥七さんの後を継いで、あの喫茶店を切り盛りしていくのが彼女の夢らしい。親孝行ないい娘さんだ。

スピネルとカヤ、アールとグレイは一美さんお手製フーズを食べている。店では主に接客担当で厨房には入らないけど、人にもポケモンにも美味しいレシピを考えるのは一美さんの担当らしい。
そういえばさっきも、カヤが嬉しそうにシュークリームを食べてたっけ。その様子を思い出して、俺は頬の緩みを自覚した。


美味しい夕飯をご馳走になって、食後の和やかな一時を過ごす。満腹になったからか、小さなイーブイたちはココアさんの膝の上で丸くなっていた。優しく彼らを撫でるココアさんの眼差しとその髪の色を見て、俺は小さく首を傾げた。

「そう言えば、こいつらと色合いが同じですよね?ココアさんもモカさんも。」

『だってこの子たちは私たちの子どもですもの。…言ってなかったかしら?私とモカさんはイーブイなのよ』

そう穏やかに微笑むココアさんは、ポケモンの擬人化について教えてくれた。人間と一緒に暮らすポケモンは、自分の意思で人の姿を取れるようになるんだとか。


それにはいくつか条件があるんだけど、まだ擬人化出来ない双子は生まれて間もないってことが影響してるらしい。あと、本人(ポケ?)の好みもあるらしくて、ずっと原型のままで過ごす奴らもいる。両親の手持ちたちは多分こっちだ。皆レベルは高いけど、擬人化してるのを見たことがない。

「じゃあスピネルもカヤも、いつかは擬人化すんのかね?…まぁ本人の好みだから無理強いはしないけどな」

胡座をかいた上にスピネルを乗せて、傍らのカヤを手のひらで撫でる。ぐるぐると喉を鳴らす2匹は、だいぶ俺になついてくれてる、と思う。ポケモンが人間に擬人化を見せるのは信頼の証、と聞いたらつい期待を寄せてしまう。まぁ姿がどうであれ、信頼とか絆はこれからいくらでも作っていけばいいんだけれど。

この想いが伝わるように、俺は仲間たちに向かって満面の笑みを浮かべて見せた。


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