「ごめんねーお兄ちゃん。休みなのにわざわざ一緒に来てもらっちゃって。」

「気にすんなって。俺も、丁度明日から仕事始まるところだったしな。」

ここはジョウト地方、コガネにあるリニア乗り場。新学期や新年度が始まる直前の今の時期は、いつもよりも多くの人たちで賑わっている。

その人混みの中をほのぼのと話しながら歩く男女がいた。この2人は兄妹で、名を涼宮飛沫、雫という。これからいち社会人として働く際に、通勤の都合により実家のあるマサラから引っ越してきたのだ。

「今日は時間がなくてそのまま行くけど、弥生さんにもよろしくな。…雫も明後日から新社会人だぜ?気合い入れていけよー!」

27歳の飛沫は、現在タンバジムの運営補助と、ジム横にある道場で師範代を務めている。飛沫はジョウト地方のジム制覇の旅の途中でシジマと出会い、その腕と性根に惚れ込み弟子入りを志願した。

無事に全バッチを獲得した後はタンバでの生活を始め、シジマ宅に通いながら厳しい修行を積んだ。元々合気道を嗜んでいたため、飛沫の実力が周囲に認められるのにはさほど時間は掛からなかったという。

飛沫は武道の腕前を買われ、この春からは正式に道場師範代を名乗り、道場を取り仕切ることが許された。そこは地元の少年少女だけでなく、各地から強さを求めて通う人が絶えない歴史ある道場である。


飛沫は雫の髪をわしゃわしゃと撫でてから、ひとつのモンスターボールを放り投げた。軽い開閉音とともに現れたのは、大きな翼を持ったリザードンである。鮮やかな紅色のリザードンは、雫を少し見つめてから、勇気付けるように顔をすり寄せてきた。

「お兄ちゃんもスピネルさんもありがと。…もちろん一生懸命頑張るつもりだよ?本に関する仕事をするのは、ずっとあたしの夢だったんだから!」

雫はスピネルを撫で返しながら高らかに宣言する。期待と不安に胸を高鳴らせながら、新生活に臨もうとしていた彼女であった。



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