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柔らかな風が通り抜ける。
今日は晴天。
4月上旬、始業式。

「透、何で春休み連絡してくんなかったの?」
「あー、ばあちゃん入院しちゃってさ、親父の実家にずーっと居たんだよ」

甘い猫なで声で腕に絡み付いてくる女の子のキレイにセットされたふわふわの髪の毛に顔を埋めながら言い訳をすると、グロスで濡れた唇がツンと尖った。
宥めるように空いている手で頭を撫でると、すぐに機嫌を良くしたのか口角が上がる。

留年しない為、春休みを満喫する為に補習を受けないように必死で勉強したおかげで無事に進級できた。
とんだハプニングで春休みは満喫出来なかったが、補習なしで進級できただけ猛勉強の甲斐があったというものだ。

呪文のような校長の演説中、立ったまま寝るという特技を遺憾無く発揮してやり過ごし今に至る。

北校舎の横に建てられている体育館から同じ北校舎の3階にある教室に向かう短い距離で、既に10人を下らない人数の女子に声を掛けられ擦り寄られていた。

「えー! じゃあ女と遊んでないわけ? ヤバイじゃん!」
「ヤバイよー。マリちゃんあんまり胸くっつけてると学校でも狼になるからねー」
「やだもう!」

バシバシ叩きながら更に胸を押し付けてくる彼女に、牽制して更にって事はどうぞって事だよなと1人納得して、放課後どこのホテルに入ろうかなどと思案しながら教室に入ると、腕に絡み付いて離れない彼女が教室の後ろを見て呆れたように言った。

「また遠山、亀に餌あげてる」

それに釣られてそちらに視線をやると、高校男子にしては小柄な男が水槽の前で何かをしていた。

「遠山? てか亀いんの?」
「そう、アタシ1年の時も同じクラスだったんだけど、担任の孫が夏休みに亀拾ってきたけど世話出来ないとかって持ってきちゃって」
「ああ、あのじいちゃん先生?」

記憶を探って何とか1年の時の彼女の担任を思い出す。
昨年度で定年退職した温和な日本史の先生だった。
彼女は頷くだけで肯定した。

「誰も世話しなくてさ。遠山が1人で面倒見てんだよね」
「ふーん、優しいんじゃん」

素直な感想を言うと、彼女はまた遠山に視線を戻して困ったように笑った。

「多分ね、話した事ないけど」
「ないの?」
「話しかけた事はあるよ。でもアイツ、全っ然喋らないの。1人が好きなんじゃない?」

彼女が変わってるよね、と言ったと同時にチャイムと共に新しい担任が教室に入ってきて、彼女と別れて自分の席に座った。

今年の副担任は大卒5年目のありさちゃんだ。
男子からは可愛いと評判で、背が小さい割に出るとこ出てていい。
心の中でガッツポーズをして、今年1年楽しくなりそうだと嬉しくなった。

担任はガチムチで目にも入れたくないが、副担がありさちゃんだから我慢してやろう。


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