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 「ドラァッ!!」という雄叫びと共に勢い良く繰り出された拳に、男が反応出来る筈もない。振り向きざま、横っ面を思い切り殴り飛ばされた男は、壁際まで吹き飛んで行った。鈍い音と共に床に崩れ落ちた男の前に、仗助と承太郎が見下ろすように立ち塞がる。

「ぐ、ぐううッ…!?な、何で眠ってないんだッ…!!?」
「いや、なかなかに危なかったぜ……」

 承太郎が答えながら、仗助と共に手の平を男に見せる。何かで切ったような跡からは血が滴り落ちていて、男はハッとしたように目を見開いた。承太郎はベルトのバックルを、仗助は制服の飾りを手の平が切れるほど強く握り締める事で、その痛みにより何とか意識を保ったのだ。

「さて、話して貰うぜストーカーさんよォ〜ッ!てめー、アオバさんに何しやがった?」

 仗助に胸ぐらを捕まれ、強引に立たされた男は苦しそうに呻いた後で、観念したように「おとぎ話の『白雪姫』は、し、知ってるだろ……?」と声を上げる。唐突におとぎ話を持ち出され、仗助はぴくりと眉を動かしたが、男は構わずに話を続けた。

「ぼ、僕の『スノーホワイト』はまさに『白雪姫』……さっきも言ったが、『リンゴ』に触れた者は、深い眠りに落ちる……。君達は触れてからそう時間が経っていなかったから、痛みで耐えられていたが…アオバさんは、もう最終段階でね…例え僕が死のうが、もう能力は解かれないッ…!」
「な、なんだとッ!?」
「もっとも、僕がやられる前にアオバさんが死ぬ方が早いだろうね……確かめてみれば分かることだけど…」

 にやりと笑う男を揺さぶる仗助の横で、承太郎がアオバに近付く。口元に手を翳し、手を取って脈を測ったところで、承太郎は眉間にいっそう皺を寄せた。不可思議な事に、アオバは息をしておらず、脈もなかったのだ。
 承太郎は「どういう事だ」と低い声で尋ねる。男は身を捩って仗助の手から抜け出すと、壁に背を預け、からからと笑った。

「僕の『スノーホワイト』を解く方法はただ一つ……王子のキスさ!」
「キッ……!?て、テメーッ、こんな時にふざけてんじゃあねーッ!」
「僕は大真面目さ!キスをすれば眠っている者は目覚める。そして、キスをした者の願いを必ず一つ叶えてくれる!それが僕の『スノーホワイト』の真の能力さ!」

 男の言葉に、仗助はおとぎ話の白雪姫を脳裏に思い浮かべる。悪い魔女に騙され毒林檎を口にした白雪姫は眠りについたが、王子のキスによって息を吹き返す。男のスタンド、『スノーホワイト』はまさにその物語を形にしたような能力らしい。
 仗助はぐっと眉間に皺を寄せると、未だへらへらとしている男の横っ面を殴り飛ばした。意識を失って倒れ込んだ男を一瞥し、黙って見守っていた承太郎の横をすり抜け、アオバの横たわるベッドに近付く。

「……仗助」
「ストーカー野郎の話を丸っきり信じてる訳じゃあないんスけど、……今は試してみるしかねーっスよね、承太郎さん」

 承太郎の方を振り向かないまま、仗助が言葉を続ける。仗助の行動に検討がついた承太郎は、何も言わないまま、その様子を見守るように壁に背を預けた。

「……すんませんっス、アオバさん。アオバさんは嫌かもしんねーけど……」

 仗助は小さく声を掛けると、アオバの頬にそっと大きな手を添えた。嫌に鳴っている心臓を宥めるように、大きく深呼吸をし、顔を僅かに傾けて、ゆっくり顔を近付ける。そして、静かに唇を合わせた。
 触れるだけのキス。アオバから離れ、祈るようにその姿を見ていた時だった。アオバの胸が大きく上下し、呼吸が戻る。しっかり閉ざされていた瞼が微かに震えて、ゆるゆると持ち上がった。二三度瞬きをした後、自分の顔を見た事を確かめた仗助は、ほっとした表情のままで口を開く。

「…よく聞いて下さいね、アオバさん。俺の願いは――」


***


 意識がぐんと引っ張られる感覚に従って、目を開けた。何だか随分と眠っていたような気がする。ぱちぱちと目を瞬いていると、すぐ近くから「アオバさん!」と聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

「大丈夫っスか!?どっか痛いところとか、変なところないっスか!?」
「え、え、なに!?じょ、仗助くん……承太郎さん?えっ誰その人!?」
「……二人共落ち着け」

 身体を起こすや否や、随分と焦った様子で詰め寄って来た仗助くんに、こちらも状況が飲み込めずにパニックになる。何で仗助と承太郎さんが部屋に居るのか、そして床に倒れている男性は誰なのか。全く状況が掴めない。
 やれやれとばかりに息を吐いた承太郎さんが順を追って話してくれたところによると、床に倒れているのがストーカーで、私は危ないところだったらしい。確かに意識を失う前、この男性と話していたような気がする。何故か上手く思い出せないけれど。

「…何も覚えてないんスね?」
「え、ええと……そこの人と話したまではぼんやり覚えてるんだけど、それからは全然思い出せなくて……」
「……それなら良かったっス。アオバさんはそこのストーカーに眠らされてたんスよ」

 それなら良かった、とは。仗助の言葉に何となく引っかかったけれど、言及するよりも先に、承太郎さんに「念のため一通り検査を受けて貰いたいんだが」と声をかけられる。特に断る理由も無いので頷いて、仗助くんに支えられながらベッドから立ち上がった。
 因みに、ストーカーの男は承太郎さんからSPW財団に引き渡されるらしい。まあ色々と腑に落ちない点はあるけれど、とりあえずは解決だ。一段落ついて落ち着けた筈なのに、何か大事な事を忘れているような気がしてならないのは何故だろう。頭の端に何となくもやもやを残しつつ、私は仗助と承太郎さんに着いて部屋を出たのだった。