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”サーフィス”T

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 どうやら私達の通うぶどうヶ丘高校に、スタンド使いと思われる人物が居るらしい。情報源は、つい先日広瀬くんに返り討ちにされて仲良く(?)なった玉美さんだ。名前は間田敏和、この学校の3年C組に在籍している生徒らしい。
 彼がスタンド使いではないかと思われる理由は、とある事件があったからだと玉美さんは言った。間田敏和は親友と些細な事で喧嘩したらしいのだけれど、その晩、何を思ったのかその親友は自宅で自分の左目をシャープペンシルで抉ったのだという。

 目を抉ったという親友も、自分が何故そんな事をしたのか分からないのだというから奇妙な話だ。間田敏和が何らかの『スタンド』で、口喧嘩したその親友の左目を抉り取ったのかもしれない。
 杞憂で終わるのならそれが一番だけれど、もしも『スタンド』の仕業だったとしたら、放っておく訳にはいかないだろう。玉美さん曰くその間田敏和はまだ下校していないというので、校内を探すのが早そうだ。その場で玉美さんと別れ、私達三人は来た道を戻って3年C組の教室へと向かった。


***


 結果から言うと、教室に間田敏和の姿は無かった。既に教室を出て校舎内を歩いているのかもしれない。次に向かったのはロッカールームだ。仗助くんは間田敏和のロッカーを見つけると、『クレイジー・ダイヤモンド』で扉を引っ剥がした。

「誰か来たらよ〜教えてくれよな…康一、ヒナ… ちと こいつのロッカー調べてどんなやつかみっからよー」
「先に言ってからこわしてよ〜っ」
「び、びっくりした……」

 驚いて煩い心臓を宥めながら、広瀬くんと共に出入り口に立って外を警戒する。ロッカーの中には外履きがあったようで、間田敏和はまだ下校していないようだった。その他にも色々と物が入っているらしく、仗助くんが容赦なく中の物を漁る音が聞こえて来る。
 それからすぐ、仗助くんが何かに驚いたような声を上げた。広瀬くんがどうしたのかと尋ねれば、仗助くんは「いや…ロッカーの奥によォ〜でっけえ人形が入ってんだ」と答える。スタイルクロッキー用の大きな人形らしいけれど、そんな物をロッカーに入れておくのだろうか。美術部だとしても部室に置いておきそうなものなのに。

「ロッカーん中に『弓と矢』がないんなら早いとこ出した物しまってロッカー直してよ もし こんなとこ誰かに見られたらぼくら大問題になるよ」
「ああ…わかったよ〜… しかし怪しい人形……」
「じょ…仗助くん!広瀬くん!だ、誰かこっちに来るよッ…!」

 廊下の先に生徒の姿を見付け、慌てて仗助くんの方を振り向いて、私と広瀬くんは目を見開いた。間田敏和のロッカーの中から、『仗助くん』が出て来たのである。しかし、その『仗助くん』の目の前には、仗助くんが立っている。まるで鏡に向かい合っているような光景だけれど、鏡などではない事は直ぐに理解出来た。

「な…な…なんだ?なんで〜?」
「じょ…仗助くんが、ふ、二人ッ…!?」
「さわったらおれになりやがった…グレートだぜ…いい度胸じゃあねーか!おれになるとはよ〜おもしれェ」

 ただ一つ、スタンドだと思われる『仗助くん』に方には額の中央に小さなネジのような物が見られるが、それ以外は全く見分けが付かないほど精巧に姿が写し取られている。更には、「『パーマン』よ〜知ってんだろ?」と話したスタンドは、喋り方も声も仗助くんのそれとそっくりだった。

「『パーマン』に出てくるよー コピーロボットって ありゃ便利だよなあ〜 いたらいいよなあーって思うよなあー」
「おい康一…こいつ 何言ってんだ?『パーマン』て何だよ?」
「…おまえ『パーマン』知らねーのか?『パーマン』知らねーやつがよおーこの日本にいたのかよォー グレート!」

 仗助くんと『仗助くん』が会話をしている光景に、何だか頭がおかしくなりそうだ。仗助くんが「うるせーなァー!おれに化けてよー何するつもりだてめーッ」と怒鳴った瞬間、スタンドが突然右腕を振り上げた。そしてそれと同時、向かい合う仗助くんが、同じように左腕を振り上げる。
 スタンドは不敵な笑みを浮かべ、「おれの方はよーいなきゃいいなって思うコピー人形さ…」と言葉を続けた。まるで鏡に写っているように、スタンドと仗助くんの動きがシンクロしている。

「コピーされた者は必ず この人形と同じポーズを取ってしまう……つまり!『あやつる人形』ってことさっ!」

 スタンドが右腕を後ろに大きく薙ぎ、ロッカーの扉を破壊する。それに倣う形で、仗助くんの左腕も後ろに勢い良く薙いだ。その先には、広瀬くんが居る。仗助くんが「こ…康一!ど…どけッ!」と声を荒げるけれど、一瞬遅かった。
 仗助くんの肘が広瀬くんの顔に思い切り当たり、広瀬くんはそのまま背後に吹き飛んで入り口のドアもろとも倒れ込んだ。骨の折れるような嫌な音がしたのが気にかかる。慌てて広瀬くんに駆け寄ると、彼は倒れたまま動かない。

「ひ…広瀬くんッ…!」
「…康一……こ…こーいうのってよーイチバンムカつくんだよなあ〜 自分では直接 手をくださず 他人を利用してやるっつーかよォー政治の黒幕的っつーかよォー 最高にブチのめしたいと思うぜッ!」

 激昂した仗助くんが『クレイジー・ダイヤモンド』を出して殴りかかるものの、スタンドは既に射程距離外になるよう絶妙に距離を保っていた。仗助くんは足元に落ちていたシャープペンシルを拾い、スタンドに投げ付ける。しかし、スタンドはそれをキャッチすると、仗助くんに投げ返した。
 仗助くんの手にシャープペンシルが握られた事を確認し、スタンドは手を動かした。シャープペンシルを握った仗助くんの手も連動して動き、ペン先が顔に近付いて行く。

「おれの目的をよお〜言ってやろう…空条承太郎をこの町から追いだすことだ…よそ者のくせによぉ〜おれたちのことを探りやがって 場合によっちゃあ死んでもらう」

 どうやら間田敏和は、仗助くんをコピーしたスタンドで承太郎さんに近付くのが狙いらしい。仗助くんに取って代わる為に、この場で彼を再起不能にしようとしているようだ。スタンドの後ろで、いつの間にかロッカーの陰に隠れるようにして佇んでいたのは本体である間田敏和だろう。
 そんな中、視界の端で広瀬くんがぴくりと動いた気がして視線を落とすと、彼はうっすら目を開けて、『エコーズ』を出していた。おそらく仗助くんはあの時、広瀬くんを攻撃すると同時に、『クレイジー・ダイヤモンド』で治していたのだろう。ドアにぶち当たったダメージこそあるけれど、とりあえず広瀬くんは大丈夫そうだ。それに、彼は怪我をしながらも、仗助くんを助けようと策を講じている。

 広瀬くんとそっと目を合わせた後で、、私は仗助くんの元へ駆け出した。仗助くんはスタンドに手を操られ、自分の右目の直ぐ真下にシャープペンシルの先を突き刺している。きっと間田敏和の親友の件も、こうしてスタンドで操って左目を抉らせたのだろう。だけど、仗助くんにはさせない。

「仗助くんッ…!」

 手を伸ばして仗助くんの手とシャープペンシルを掴み、どうにか抜き取ろうとしてみるけれど、強く握られている為に上手く行かない。スタンドは「無駄だぜ…ケガしたくねーならどいてな」と言うと、再び腕を薙いだ。
 広瀬くんの時のように殴り飛ばされるかと思って反射的に目を瞑ったが、突き飛ばされる程度だった。後ろによろけて尻餅をついた私を見て、仗助くんが焦ったように「ヒナ!お前はそのまま離れてろッ!」と言い、私をその場に留めさせた。

 そうこうしている間にも、シャープペンシルを押し込む力は段々と強くなって行っているらしい。肌にペン先が食い込んでいるのが見えて、私は「じょ…仗助くん…!」と彼の名前を呼んだ。

「ジタバタしても…!観念するっきゃあねーんだよ仗助ェアッ!」
「うぐえッ!」

 嫌な音と共に、仗助くんが床に崩れ落ちた。慌てて仗助くんに駆け寄るけれど、彼はうつ伏せに倒れこんだままで動かない。それを見て漸く此方に出て来た間田敏和は、「つぶれたか?気持ち良い音がしたなあ…」とニヤニヤ笑いながら仗助くんと私を見下ろした。

「ひ、ひどい…なんて事するのッ!」
「フン 神経切れてなきゃあまた見えるようになるよ…運がよけりゃあだけど お前も同じような目に会いたくなければ、このまま大人しくしてろってことさ」
「おれもさすがに女子にゃあ手ェ上げたくないっスからねェ〜 このまま…この姿で承太郎に近づいて仕留めるまで、ここにいろよなあ〜」

 間田敏和とスタンドは、そのまま私達を置いて外へと歩いて行く。私の横を通り過ぎる時――スタンドの頭部に、効果音のような不思議な文字が張り付いているのを、私は見逃さなかった。先程の『音』は『エコーズ』のスタンド能力だったようだ。
 私達以外誰も居なくなった頃、仗助くんがゆっくりと起き上がった。右目の下には多少の跡は残っているものの、大きな傷は無い。

 あの時――仗助くんの手に触れた際、私は自分の手の下でこっそりと『ベリーバトゥン』でシャープペンシルに触れていた。そして、ペン先だけを柔らかくしておいたのだ。傷が無くて本当に良かった。ほっと息を吐いて、仗助くんと共に広瀬くんの元へ向かう。

「…康一、ヒナ …あ…ありがとよ…おまえらがいなかったら あのまま目をえぐられちまってたとこだったぜ…」
「吹っ飛ばされる瞬間 き…君が骨折したところクレイジー・ダイヤモンドで治してくれたからだよ…」

 仗助くんが再度広瀬くんの怪我を治した所で、私達は校舎を出た。間田敏和達が承太郎さんに接触する前にそれを阻まなければならない。校舎外の公衆電話で承太郎さんに連絡を取ろうとしたのだけれど、どうやら間田敏和達に先を越されたようで、承太郎さんは既にホテルの部屋を出た後だった。

「も、もしかして…どこかで落ち合う約束を取り付けたのかな…!」
「す…するとコピーのやつを追うしかないよ!」
「ああ 野郎が承太郎さんに出会う前にやっつけねーとやばいゼ!」

 これはまずい状況になって来た。元から計画していたのか定かではないけれど、間田敏和の行動には無駄が無く、迅速だ。私達は慌てて学校の門を潜り、間田敏和と『スタンド』を追い掛けるのだった。