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"サーフィス"U

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 どうやら間田敏和達は杜王駅で承太郎さんと落ち合う約束を取り付けたらしい。学校から駅までは徒歩で10分程度なので、その間にどうにかして間田敏和達を追い越して先に承太郎さんと落ち合わなければならないだろう。走って駅まで向かっている途中、道路を挟んで斜め前方に間田敏和達を見付けた。
 何か一悶着あったのか、『スタンド』が一人の男を羽交い締めにし、間田敏和が手にしているカッターを口元に突き付けている。仗助くんは足元に落ちていたガラス瓶を割ると、破片の一つを拾って間田敏和達に向かって投げた。『スタンド』がそれを右手でキャッチしたところで、間田敏和は漸く私達の存在に気が付いたらしい。

「間田ァア〜っ てめえ!」
「ひっ!東方仗助ッ!」

 一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、間田敏和はすぐに自分の前に立つ『スタンド』に仗助くんを操るよう指示を飛ばす。その直後、『スタンド』の右手に――正確には、右手に握っている『ガラス瓶の破片』に向かって、残りの破片が集まっていく。

「あっ!こ…このガラスの破片は!?」
「そのコピー野郎がガードして受けとった破片はよお おめーにブチ当てるためになげたんじゃあねーぜ もとの形になおすために投げたんだぜ」

 仗助くんがそう言い終えたのと同時、『スタンド』の右手を包み込むようにして、ガラス瓶が元の形に直る。『スタンド』の右手は切断され、ガラス瓶の中で木に戻った状態で取り残された。これで、一つ見分け方が楽になっただろう。
 操られる前にと仗助くんが物陰に隠れたので、私と広瀬くんも慌ててそれに倣う。間田敏和達はおそらく既に駅に着いているであろう承太郎さんを優先したらしく、私達を追う事なくそのまま駆けて行った。

 間田敏和達が去った後で、その場に残されているのは倒されたバイクと二人の男。仗助くんの姿で好き勝手にやっているのが良く分かった。私の横では広瀬くんが「あいつ…仗助くんの姿使ってやりたい放だいだよーッ」と憤慨している。しかし、当の仗助くんは壁に背を預けて、「間田…どお〜してくれっかなあ〜っ」と何とも落ち着いた様子で返した。

「やつらが行ったこの道が駅までのいちばんの近道だよ!踏み切りを越えたらもうやつら!駅前広場なんだよっ!承太郎さんが危ない!なんとかしなくちゃ!」
「いうとおりだ たしかにそーなんだよなあ〜」
「こ、このまま追い掛けただけじゃあ、絶対にあの二人を追い越せないよッ…!?」
「そうだよ!早く走って追おうよッ!」
「ン だからさあー おまえがいるじゃあねーかよー康一… おまえがよお〜」

 仗助くんは広瀬くんの肩を抱くと、不敵に笑う。どうやら何か考えがあるらしい。仗助くんは道路を渡って通りすがりに倒れていた二人の男を『クレイジー・ダイヤモンド』で治すと、何か耳打ちをし、そのまま走って行く。そして、私達もそれを追って走った。
 途中で広瀬くんが『エコーズ』を飛ばし、踏み切りの辺りに『音』を貼り付けた。駅前の踏み切りは開かずの踏み切りとして知られていて、一度閉まると1〜2分は開かない。『エコーズ』の貼り付けた『遮断警報の音』を聞いた間田敏和達は、それを回避しようと陸橋を渡る筈だ。

 私達が踏み切りに辿り着いた時、間田敏和達は仗助くんの思惑通り、踏み切り横の陸橋を渡っているところだった。それを確認して『エコーズ』が『音』を剥がせば、辺りは元の静けさを取り戻す。

「これなら先に着けるねッ…!」
「う、うん!さすが仗助くんだよッ!」

 私達の言葉にニッと笑った仗助くんは実に格好いい。そのまま目の前の踏み切りを渡って少し走ると、駅前広場に辿り着いた。前方にある建物前のベンチで新聞を読んでいるのは承太郎さんだ。周囲には間田敏和達の姿も無い。

「やったあ〜ッ!!間に合ったよ〜っ 間田にいっぱいくわせたねーッ 仗助くんッ!二星さんッ!」
「よう… なんかあったのか?」
「はあッ…よ、よかった…です、…じょ、承太郎さんが、無事でッ…」
「承太郎さんを電話でここに呼び出したのは…仗助くんじゃあなくて 仗助くんのにせ者なんですッ!」

 上がりきった息を整えながら事情を説明する。ぜえぜえと息をしつつ、広瀬くんに「ちょ、ちょっと飲み物買ってくるね…」と一言断って、建物内に見付けた自動販売機の方へ歩いて行く。日頃の運動不足を痛感しながら飲み物を買って、一息ついた頃だった。
 バゴォ、と何か重たい物を殴ったような音と、「ホガァーッ」という男の悲鳴。驚いて視線を遣ると、床に倒れている間田敏和と、数分前にその間田敏和に酷い目に遭わされて仗助くんに治して貰っていた二人の男が居た。

 どうやら、二人は間田敏和にお礼参りしに来たようだ。あの時仗助くんが耳打ちしていたのは、間田敏和の居場所だったのかもしれない。きょろきょろと辺りを見回してみると、広場に面した窓ガラスの近くに、大きな木製の人形がぽつんと不自然に置かれている。もしかしなくても、仗助くんに変身していた『スタンド』だろう。

「これからさっきのうらみバッチシ復讐させてもらうかんな!」
「ちょいと便所ン裏まで顔かせやてめーっ」
「うっうっ!うわああああああーっ」

 『スタンド』という後ろ盾が無くなった間田敏和は襟首を掴まれ、ずるずると建物の外まで引き摺られて行く。『スタンド』を悪用して散々好き勝手に振舞っていたのだから自業自得だろう。だけど、その怯えようを目にしてしまった所為か、何となく可哀想にも思えてしまった。
 悪用したのは勿論悪い事だけれど、でも、自分に他の人が出来ないような事が出来ると分かってしまったら、何かしらの行動を起こしてしまうのは仕方がないのかもしれない。少し逡巡してから、私は三人を追うように駆け出した。

 建物の陰でボコボコにされている間田敏和を見て、思わず表情を顰める。あれではもうきっと懲りただろう。私は隠れたまま『ベリーバトゥン』を飛ばし、触手の先で間田敏和の体に触れ、硬度を操作し、彼の肌を石のように硬くした。
 まだまだ怒りが収まっていないらしい男が、持っているヘルメットで間田敏和に殴りかかり、そして、「なッ、なんだあ!?」と驚いたような声を上げる。ヘルメットが、べこっと不自然に凹んでいたのだ。

「な、なんだってんだよ〜ッ!?」
「よく分かんねーが…このぐらいにしといてやるぜッ!」

 男が去って行ったのを確認して、私は未だ蹲ったままの間田敏和に駆け寄る。びく、と肩を震わせた間田敏和が、「お、お前は…!」と私を見て声を上げた。鞄の中からハンカチを取り出して彼に差し出すと、きょとんと目を丸くされる。

「……さ、さすがに、仗助くんも怪我を治してはくれないと思うので…あの、一応、救急車は呼んでおきますから…」
「え……あ…」
「だから、あの、これで懲りたとは思いますけど、…もう、絶対にスタンドを悪用したりしないで下さいね…!」

 もしも次にスタンドを悪用したとしたら、今度は流石に庇いきれないだろう。私が念を押すように言うと、間田敏和はこくこくと頷いた。それを見て、私は間田敏和の手にハンカチを握らせ、「そ、そこで大人しく待ってて下さいね…」と言い残し、その場を離れた。
 近くにあった公衆電話で救急車を呼んでから、仗助くん達の元へと戻った。「なんだか、ずいぶん遅かったね…」と不思議そうにしている広瀬くんに苦笑を返す。――数分後、到着した救急車に運ばれて行く間田敏和を、私は仗助くん達と共に見送ったのだった。