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"バッド・カンパニー"U

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 広瀬くんも無事に助ける事が出来た今、もうこの屋敷に用はない。早いところ脱出したいものだけれど、まあそう簡単に逃がしてくれる筈も無いだろう。ごく、と息を呑んだところで、階段の上辺りから、物音が聞こえて来た。やはり、何かが居るらしい。
 仗助くんが懐から取り出したライターで天井の方を照らすと、梁の上を小さな人影が駆け抜けたのが見えた。あれがスタンドなのだろうか。その小さな人影が隠れたのを確認すると、仗助くんは私と広瀬くんを自分の後ろに下がらせる。そして、再び人影が現れたのを見て、『クレイジー・ダイヤモンド』を出す。しかし、仗助くんは拳を叩き込む前に動きを止めた。

 梁の上に居たのは、一人では無かったらしい。ガシャガシャと物音を立てながら、先ほどの人影と全く同じフォルムのスタンドが、何十と現れたのである。皆一様に軍隊を思わせるようなフォルムで、まるで精巧なフィギュアのようだ。そのスタンド群は銃を構えると、此方に向かって一斉に射撃をして来た。

「うあああああああ なにーッ!?」
「じょ、仗助くんッ!!」
「!?いったい!?」

 仗助くんの右手と、その手に握られているライターに、あの見覚えのある無数の穴が空く。仗助くんが怯んだのを見てか、軍隊のようなスタンド群は背中に背負っていた落下傘を開き、床へと降りて来た。

「こ…こんなにいるなんて…!」
「億泰の顔につけられた無数の穴のキズはこいつらの あの小さいM16とかいうカービン・ライフルで撃ったものだったのかよ… こ…これが億泰の兄貴の『スタンド』か……」

 ミニチュアのような銃ではあるけれど、威力が本物だという事は分かっている。仗助くんは『クレイジー・ダイヤモンド』で降りて来たスタンドを二体殴ったが、どうやら二三体倒しただけではダメージにはならないようだ。床に降り立ったスタンドがまた射撃をして来る前に、此方も態勢を整えなければならない。
 逃げるように奥へと移動したが、スタンド群は「この館からは決して出さん!『極悪中隊』のこの戦場からはなあ〜っ」という声と共に、きっちりと足並みを揃えて追って来る。そして、「狙えェェェ〜〜筒!」の掛け声と共に、銃口が一斉に此方へと向いた。これは、まずい。

「あ…甘く…みてた…ぜ」
「撃てェーッ」
「ベ…『ベリーバトゥン』ッ!!」

 慌てて駆け込んだ部屋のドアを閉めると同時に触り、硬度を高める。ドアの外側からは銃弾が撃ち込まれる音が聞こえて来たが、木製のドアを岩石程の硬度まで引き上げたお陰で何とかぶち破られずには済んだようだ。しかし、窮地に陥っている事に違いはない。
 部屋の奥に窓を見付けたが、すっかり使われていないようで、木の板で固く閉ざされている。仗助くんは窓をぶち破って飛び降りようと提案したのだが、敵もそれを予想していたようで、窓付近の闇の中に、きらりと何かが煌めいたのが見えた。

 背後では『バッド・カンパニー』の軍隊達が蝶番を壊してドアを破ったようで、室内に光が差し込んで来る。そうして闇の中に見えたのは、何とも攻撃的なフォルムをした、数基の小さなヘリコプターだった。
 ヘリコプターに気を取られていると、突然、広瀬くんが「あぶないッ!戦車がいるよッ!」と言いながら私と仗助くんの腕を引いた。次の瞬間、下の方から飛んで来た戦車の弾が目の前を通過する。あ、危なかった…!息をついたのも束の間、今度はヘリコプターからミサイルのような物が飛んで来る。『クレイジー・ダイヤモンド』が全て叩き落としたところで、ふとある事に気が付いた。

「ひ、広瀬くん…あの戦車が見えたの…?」
「見えるのかこのスタンドが…康一おまえ まさか…あの『矢』で射られてスタンド使いに?」
「う…うん な…なんだかわけが…わからないけど 見…見えてるよ〜っ」

 広瀬くんの目は、確かにしっかりと床に並んでいる軍隊や戦車を捉えていた。確かに、矢に刺されてからかなりの時間経っていたし、酷く出血もしていたのに良く無事だったとは思ったけれど、まさかスタンド使いになってただなんて。そう思っていると、「ほう!なったのか?そのチビ?」と第三者の声が聞こえて来た。
 驚いて視線を遣れば、軍隊の向こう側で壁に寄りかかっている『学生服の男』――虹村形兆の姿を見付けた。どうやら広瀬くんのスタンドを確認する為にわざわざ出て来たらしい。仗助くんが後ろ手で抜いた古釘を投げて攻撃を仕掛けるが、それは本体に届く前に撃ち落とされてしまった。やはりそう簡単に手は出せないようだ。

「康一とかいう名だったなァ〜っ おまえ 予想に反して『スタンド』の素質があったようだな…どんなスタンド能力か 今…そこで発現させてみろ…!」

 虹村形兆はそのまま、「もしかするとおれの『探し求めている能力』を持つ者かもしれんからなぁーっ」と言葉を続けた。彼が『弓と矢』を使ってスタンド使いを増やしている理由は、今の言葉に何か関係がありそうだ。
 スタンド使いの素質があると分かったばかりで他は何も理解出来ていない広瀬くんは、焦ったように「何が何だか…さ…さっぱり…」と声を上げた。そりゃあそうだろう。私もあの時はそうだった。

 依然として虹村形兆は余裕たっぷりなようで、仗助くんにスタンドの出し方を広瀬くんへ教えるように言った。仗助くんにスタンドの出し方を耳打ちして貰ったものの、パニックになっている広瀬くんは上手くそれが出来ない。
 確かに、今までやった事のない事をいきなりやれと言われても無理なものだろう。しかし、虹村形兆は悠長に待っている気は無かったようだ。

「それじゃあわかるよーに…キッカケを与えてやるよォーッ グリーンベレー!やれッ!」

 彼の命令に応じるように、いつの間にか広瀬くんの身体を這い上がっていたらしい『バッド・カンパニー』の兵隊が、手にしたナイフで広瀬くんの顔を突き刺す。
 広瀬くんは悲鳴を上げながら尻餅を着いたのだけれど、それと同時、彼の身体から、不思議な文様が描かれた大きな卵が飛び出した。しかし、床に落ちたそれは、動く事も無く静かに横たわったままだ。

「このあとどーなんだよー この卵のようなものは どんな能力なんだ?」
「能力って…動かないよ…これで終わりだよ 期待してもらって悪いんだけどこれ以上何もできないよ」
「なに?これで終わりィ〜?」

 まさか、不思議な卵を生み出す能力――だなんて事はないだろう。しかし、広瀬くんにはここまでが精一杯のようだ。虹村形兆は痺れを切らしたのか、「もういい!知りたいことは…これで十分ッ!」と、軍隊に戦闘態勢を取るよう命令を下す。
 再び張り詰めた空気の中で、仗助くんが広瀬くんにスタンドの卵を引っ込めるように言う。しかしその方法も分からないようで、仗助くんは私に目配せをした。

 私は慌てて卵を抱え、もう片方の手で広瀬くんの腕を掴む。そのまま仗助くんから離れるように広瀬くんを連れて避難したのと同時、一斉に放たれた攻撃が仗助くんを襲った。

「はでにやる気ならよー しょーがねーなーっ グレートにおっぱじめよーじゃんかーっ」

 攻撃を叩き落とした仗助くんは、虹村形兆から目を離さないまま、爆風の中でそう話した。そんな彼に、虹村形兆は不敵に笑ったままで、攻撃の順序を話し始める。まず足を撃って逃げられなくして、次に腕をダメージを与えてガード不能にさせ、最後に脳みそを撒き散らせる――と。広瀬くんと固唾を呑んで見守っていると、男は「全隊ィィィィィィ突撃ィーッ」と叫んだ。
 虹村形兆の掛け声に応じ、再び一斉に攻撃が放たれる。仗助くんが『クレイジー・ダイヤモンド』で攻撃を叩き落としながら進んで行き、この調子で行けば軍隊も突破出来るかもしれないと思った時だった。

 仗助くんの足元で爆発が起き、大きくバランスが崩れる。どうやら足元に地雷が仕掛けられていたらしい。床に膝を着いた仗助くんに追い打ちを掛けるように、アパッチというヘリから、左右に二発ずつミサイルが放たれた。
 『クレイジー・ダイヤモンド』は右側から迫って来たミサイルは叩き壊したものの、左側から迫って来たミサイルには対応出来なかった。『クレイジー・ダイヤモンド』の左腕にミサイルが直撃し、仗助くんの左腕からも血が噴き出す。

「まず足!そして腕!予告どおりは気分がいい〜ッ 戦車7台 戦闘ヘリ アパッチ4機 歩兵57名ッ!そのダメージある腕で我がバッド・カンパニーの全ミサイル!全砲弾および一斉射撃を受けてはたして無事でいられるかなァーッ」
「じょ…仗助くんッ…!」
「おまえの負けだ東方仗助ーッ 全隊一斉射撃用意ーッ」

 仗助くんの周りを軍隊が取り囲む。絶体絶命のピンチだというのに、仗助くんは静かに身体を起こすと、腕を組んだまま、その場に胡座をかいて座り直してしまった。
 その表情から、焦りの色は読み取れない。そして、虹村形兆の掛け声で三度目の一斉射撃が行われたのと同時、仗助くんは動じないままで静かに口を開いた。

「おれの作戦はよー すでに終了したんだよー」
「エッ!?」

 『クレイジー・ダイヤモンド』の能力により、先ほど叩き壊されたアパッチのミサイルが直っていたのである。そして、そのミサイルは虹村形兆に向かって一直線に飛んで行く。慌てて撃ち落とせと命令を出そうとするが、間に合わない。
 ミサイルはそのまま虹村形兆に直撃した。そうして、彼が戦闘不能になった事によりスタンドが解除され、一斉射撃は仗助くんに当たる寸前で跡形も無く消え去ったのである。軍隊が消え、虹村形兆も意識を失い、漸く仗助くんも息を吐いたのだった。