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"バッド・カンパニー"V

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「危なかったぜ…康一、ヒナ…早ーとこよー この家を出よーぜェー」

 ゆっくり立ち上がった仗助くんがふらついたのを見て、慌てて彼の身体に寄り添うようにして支える。仗助くんは少し驚いたような顔をしたけれど、すぐに「助かるぜ」と小さく笑ってくれた。
 仗助くんもこんな状態だし、虹村形兆が気を失っている間に家を出なければならない。私もそう思っていたのだけれど、何かを考えていたらしい広瀬くんが口を開いた。

「で…でも ぼ…ぼくを射った ゆ…『弓と矢』は…どっ どうするの?」
「そ…そういえば、確かに見てないね…どこかに隠したんじゃあないのかな…」
「探すのかよお〜?たしかこいつら『父親』がいるっつったのをよ 今…思い出したんだ おれけっこうダメージ大っきいからよおー 今 出会うのはごめんだぜーっ」

 「今はほっとこーぜェー」と付け加え、仗助くんは出口の方へ向いたけれど、広瀬くんは「そっ それは…だめだよっ!」と珍しく声を荒げた。驚いて仗助くんと共に振り返れば、広瀬くんは真剣な表情を浮かべている。

「ぼ…ぼくは仗助くんに傷を治してもらったから い…生きてるけど で…でもさっ!あの『弓と矢』で誰かがまた射られたら今度は死ぬかもしれないんだよっ!この町でっ!」
「…広瀬くん…」
「そ…そこにいてよ〜っ ぼくひとりで探してくっからさっ!そ…それにさっ!いっ!今…父親は この家にはいないと思うんだよ いるんならさーっ と…とっくに出てきているよ…」

 広瀬くんはそう言うと、上に続く階段の方へと歩いて行った。確かに、広瀬くんの話にも一理ある。今回は仗助くんが居たのと広瀬くんに素質があったから助かったけれど、次もそうとは限らない。素質がなければ死んでしまうだろう。だけど、今ならまだ、その芽を摘み取る事が出来るのだ。
 ちら、と仗助くんを窺うように見上げると、フッと笑みを向けられる。「しかたねーな」と呟いた仗助くんに頷いて、広瀬くんの背中を追った。

 階段は屋根裏部屋に繋がっているらしい。部屋のドアは僅かに開いていて、中からはガリガリと何かを引っ掻くような物音が聞こえて来る。何かが、いるようだ。もう引き返したくなるけれど、僅かに開いたドアの隙間から、部屋の奥の壁に弓と矢が掛けられているのが見えてしまった。

「あっ…あった!ゆ…『弓と矢』だ!『弓と矢』が奥のカベにかけられているよ!」

 もう目前だけれど、それでも足を踏み入れられない理由がもう一つあった。ドアの隙間から、鎖が見えたのだ。よくよく聞けば、部屋の中からは何かを引っ掻くような音の他に、鎖を引きずるような音もしている。
 屋内で犬か何かを飼っているのだと思いたいところではあるけれど、どうにもそんな雰囲気じゃあない。部屋の前で顔を見合わせていると、言い出しっぺの広瀬くんが「どーしよおー??」と汗をだらだらかいていた。

「やるしかねーんだよ…いいか康一…1・2の3でドアをおもいっきり蹴とばしてあけるんだ…おどかすんだぜ…それと同時におれが『弓と矢』んところ行って へし折っからよ」
「で、でも仗助くん…そんな怪我で…!」
「だからってヒナにやらせる訳にはいかねーだろォ〜?ヒナはなんかあった時は康一のフォローしてやってくれ」

 ぽん、と肩を叩かれ、私は小さく頷いた。緊迫した空気の中、仗助くんがカウントを始める。合図と共に広瀬くんがドアを蹴ろうとした、瞬間だった。中からぬっと伸びて来た何かが、広瀬くんの足首を掴んだ。
 おそらく腕なのだろうけれど、肌は緑がかった上にぼこぼこと隆起していて、およそ人間のものとは思えない。驚いている間にも、腕は広瀬くんを部屋の中に引き摺り込んでしまう。慌てて広瀬くんの腕を掴むが、力が恐ろしく強くて、引き戻せない。

「この手は…『スタンド』じゃあねえー モノホンだ…モノホンの肉体だぜこいつは!」
「ううっ…!ち、力が強い…!!」
「たっ 助けてェ〜」

 仗助くんが『クレイジー・ダイヤモンド』で腕に拳を叩き込む。それで怯んで離すと思ったのだろうが、予想に反して、腕は嫌な音と共に液体と柔らかな肉片を撒き散らしながら、切断されてしまった。液体が掛かって広瀬くんと共に顔を歪めていると、腕の持ち主は形容し難い悲鳴を上げながら部屋の奥へと逃げて行く。
 首に着いている首輪からは鎖が伸びているし、姿も人間のそれとはかけ離れてはいるけれど、服を着ているところや二足歩行をしているところからは何となく人間のようにも思える。呆然としていると、切断面から凄いスピードで腕が生え、瞬き一つした時にはもう腕は元のように治っていた。

「なっ なんだ…?この生き物は…?おれんちの近所にこんなのが住んでたなんて…」
「ついに見やがったなァー 見てはならねえものをよお〜」

 聞こえて来た声に慌てて振り返れば、下の部屋で気を失っていた筈の虹村形兆が居た。かなりダメージが大きいようで壁伝いに歩き、「そこにいんのがよぉ〜 おれたちのおやじだぜ」と言いながら、『弓と矢』に手を掛ける。虹村兄弟の父親だというその生き物は、男の足元にある大きな箱の横で此方に背を向けて蹲っていた。

「この『弓と矢』は…おやじのために必要な…ものだ…… おやじのために『スタンド使い』…を……みつけてやりたい この『弓と矢』は…断じて他のやつに…渡したり破壊させるわけには…いかん…!」

 虹村形兆は壁から外した『弓と矢』を握り締めると、そう言った。曰く、父親のそれは病気などではなく、食欲もあって健康そのものらしい。ただ、喋る事は出来ず、息子である虹村兄弟の事も分からないのだという。
 父親を『治す』スタンド使いを探していたのかと思ったが、どうもそうではないようだ。虹村形兆は「逆だ…」と言った。父親は再生能力が非常に高く、頭を潰しても、身体を粉微塵にしても、削り取っても、死なないのだという。

「なぜなら…10年前…おやじはあやつり人形にされるため…『DIO』っつう男の細胞を…頭にうめこまれてこーなっちまったんだからなあーっ」

 『DIO』――その名に聞き覚えのある私と仗助くんは思わず目を見開いた。確か、承太郎さんの知っている男の筈だ。「少し…おれの…過去のことを…しゃべってや…ろう」と苦しげに続けた虹村形兆は、涙を流しながら過去の事を話し始めたのだった。