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DIOと仲を深める

■ ■ ■

「あ、あのッ、お、お時間いいですか、…DIOさんッ…!」

 声のひっくり返った情けない言葉だったけれど、狭い室内には十分に行き届いてしまったようで、しんと室内が静まり返った。ちょうど室内に居た吉良さんは新聞を取り落とし、カーズさんは勢い良く此方を振り返り、ディアボロさんはPCのマウスを握り潰し、DIOさんは珍しく目を丸くしたまま固まっている。そんなに驚かなくても…。
 いち早く我に返ったらしい吉良さんが物凄い勢いで私に駆け寄って来て、がしっと両肩を掴む。あまりの勢いにびくりと肩を跳ねさせた私に、吉良さんは信じられないものを見たとばかりの表情で、「一体どうしたんだヒヨリ…!?」と尋ねて来た。私は視線を逸し、口を開く。

「そ、その…なんと言いますか、今まで私、DIOさんを一方的に避けていたじゃあないですか…。トラウマがあるからって言い訳していたけど、でも、よくよく考えれば、すごく失礼だったというか、申し訳なく思えて来たというか…」
「な、なにッ…!?」

 吉良さんが驚いた声を上げ、カーズさんとディアボロさんがガタッと立ち上がったのが吉良さんの肩越しに見えた。だから、そんなに驚かなくたっていいじゃあないか…。私がこうして行動を起こしたきっかけは、先日熱で倒れた時、廊下で蹲っていた私をDIOさんが運んでくれたのだという話を聞いた事だった。
 私はトラウマがあるからと一方的にDIOさんを避けていた訳で、吉良さんやカーズさん達とはかけ離れた態度を取ってしまっている。普通なら嫌われていてもおかしくないのに、DIOさんは私の事を放っておく事なく、わざわざ抱きかかえて布団まで運んでくれた。些細な事なのかもしれないけれど、少なくとも、それは私の中では大きな衝撃だったのだ。

 このままではいけない、と思った。トラウマをすぐに無くす事は流石に無理だろうが、それでも、せめておどおどしながら話したり、二人きりになるのを拒んだりする事は止めたい。これだけ一方的に避けておいて、今更何をと思われるかもしれないけれど、少しでも、DIOさんと普通に接したり、距離を縮めたり出来ればと思ったのだ。

「…やっぱりすぐには無理だとは思うし、すごく今更だとも思うんですけど、…私、DIOさんとも、な、仲良くなれたらなあって…思って…」

 俯きながらもごもごと話すと、再び室内がしんと静まり返ってしまった。せ、せっかく人がなけなしの勇気を振り絞ったというのにッ…!きゅ、と口を噤んでいると、背後からDIOさんに名前を呼ばれた。びく、と肩を震わせれば、もう一度名前を呼ばれる。ゆっくりと首だけで後ろを振り返れば、DIOさんが目を細め、此方を見ていた。

「…良い心がけじゃあないか。随分と時間は掛かったがな」
「……あ、あの、…ごめんなさい…」

 やっぱり、今更虫がよすぎるかな。視線を落としてしゅんとしていると、DIOさんが「おいで」といつになく柔らかい声で私を呼んだ。ぱっと顔を上げれば、DIOさんは座ったまま、片手を此方に差し出している。反射的に吉良さんに視線を戻すと、吉良さんは何だか複雑そうな表情を浮かべた後、漸く私の両肩から手を離した。
 私はごくりと息を呑み、ゆっくりとDIOさんに近付いて行く。差し出されている手にそっと手を伸ばし、恐る恐るながら、指先をちょんと触る。滑らかだけど、ひやりとした肌。そのままDIOさんの手に自分のそれを重ねると、DIOさんはニッと僅かに口端を吊り上げた。

「…上出来だヒヨリ」

 面と向かい、いつになく近い距離で名前を呼ばれ、半ば反射的に体が震える。これはもうクセのようなものだった。「でぃ、DIOさん…」と様子を窺うようにDIOさんを呼べば、DIOさんは「おいで」と再び柔らかく声を掛けてくれる。こく、と小さく頷き、DIOさんに促されるまま、彼の直ぐ目の前に腰を下ろした。少し足を動かせば、DIOさんの足に触れてしまうほどの距離だ。
 ばくばくと心臓が煩くて、胃も多少痛くなって来る。じんわりと背中に汗をかいているのも分かっているが、ここまで来たのだから引き下がる訳にもいかない。それでもいつものように小刻みに震えている私を見て、DIOさんは「震えているな」と小さく笑った。

「……、う、」
「そう怯えるな」
「……ご、ごめんなさい…反射で…」

 DIOさんが此方に手を伸ばしただけで、びくりとつい大袈裟に反応してしまい、何だか申し訳なくなる。「撫でるだけだ」という言葉と共に、私の頭にそっとDIOさんの大きな手が乗った。そのまま柔らかい手付きで頭を撫でられ、ふ、と小さく息を吐く。
 いつもなら、DIOさんは私が怯えるのを分かっていて、あえて意地の悪い事をしてくるけれど、今は違う。私の怖がるような事はしないし、極力怯えないように配慮をしながら協力してくれているのが分かる。驚いたというか、信じられないというか、…だけど、何だか少し嬉しいし、擽ったい気分だ。

「……あ、あの、DIOさん…」
「…ン?」

 恐る恐る顔を上げると、DIOさんの宝石のような赤い瞳と視線が合う。真正面から向き合うと、やはりまだ緊張してしまうようで、無意識の内に体に力が入った。ぐる、と胃が嫌な音を立てた気がするが、気のせいと言い聞かせ、ぐっと我慢する。私はDIOさんを見つめたまま、口を開いた。

「…正直まだちょっと怖いですけど、…で、でも、こうしてDIOさんときちんと向きあえて、何だかとっても嬉しいんです。…ありがとうございます、DIOさん」

 何とか言い切って、へにゃりと笑う。それから直ぐに視線を外し、最後まで言えた事にほっと息をついていると、「WRY…」と小さく声が降って来た。うりい…?目を瞬いていると、突然、背後から伸びて来た腕にお腹の辺りをホールドされ、思わず「ヒエッ!?」と悲鳴が漏れる。そのままずりずりと後方に引き摺られたかと思うと、がばっと後ろから誰かに抱き着かれた。
 ドッドッと激しく脈打つ胸を宥めつつ、何が起きたのかと目を瞬く。目の前に居た筈のDIOさんは随分と距離が遠くなっている。ゆるゆると頭上を見上げると、私をがっちりと捕まえてしまっているカーズさんが、いかにも不機嫌そうな表情でDIOさんを睨み付けていた。

「…いつまでヒヨリと遊んでいるのだ、DIO。貴様にヒヨリは渡さんからな」

 カーズさんから恐ろしいオーラが出ているような気がして、思わず冷や汗をかく。「か、カーズさん…?」と声を掛けようと口を開いたのだが、それより早く、頭に吉良さんの手が乗り、ディアボロさんが私の袖を掴んだ。思わず目を丸くしていると、DIOさんがぎゅっと眉間に皺を寄せ、怖い表情で「貴様らなァ…」と低く唸った。
 何だか良く分からないけれど、怖い。胃がめっちゃ痛い。ぐるるる、と胃の辺りから、今度は聞き逃せないくらいの妙な音がして、私は思わず「ウッ…」と呻き声を漏らして口元を押さえた。それに気が付いてくれた吉良さんが、慌ててカーズさんの腕の中から私を助け出してくれたので吐きはしなかったけれど、DIOさんとの仲を深めるには、何だかかなり大変そうだと思ってしまったのだった。