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保護者とケンカ

■ ■ ■

「だ、だからッ、何でそんな過保護なんですか!?」
「過保護じゃあないだろう!私は、ただヒヨリが心配なだけであってだね…」
「それが過保護だって言うんです!私だってもう成人してるし、子供じゃあないんですよ!自分できちんと判断して行動出来ますッ!」

 我慢出来ないとばかりに捲し立てれば、横からDIOさんが「…私からすれば赤子同然だがなァ」とぼそっと呟く。私はムッとして「DIOさんうるさい!」と声を荒げた。そりゃあ何百年も生きているDIOさんやカーズさんからすれば私なんてまだ子供のようなものかもしれないが、一般的に考えて、成人している私は大人である。自分で判断するし、行動もするのだ。そこをとやかく言われる筋合いはない。
 前々から思ってはいたけれど、荒木荘の面々――特に吉良さんやカーズさん――は私に対して過保護なところがある。私は此処で唯一の女だから色々と気遣ってくれているのだとは思うし、そこに関しては有り難い事だとも思う。けれど、限度ってものがあるだろう。

 発端は、バイト先の先輩から飲みに誘われた事だ。二つ上の彼にはバイトを始めてから数週間経ったけれど、色々と教えて貰っていて、とてもお世話になっている。歓迎も兼ねて飲みにでも行こう、と誘われてOKしたのが昨日の事。飲み会は明日なので、夜遅くなる事を伝えたのだけれど、男と二人きりで飲みに行くなんて危ないだの、飲み会でなくランチ程度にしろだのと、まるで口うるさい母親のような事を言われてしまったのだ。

「何かあってからじゃあ遅いから言っているんだ!」
「ただの飲み会です!何もないですよ!」
「…ヒヨリ。他にも従業員が居るのにわざわざ二人きりで行くんだろう。下心がないと言い切れるのか?」
「だからそんなの、…あーもうッ!いいです!吉良さんの分からず屋!!」
「どっちが分からず屋だ!この際だから言うが、ヒヨリ、君は危機感がなさすぎるぞ!」

 ヒートアップして来た口論に、さすがにまずいと思ったのか周囲から視線が集まるのが分かった。ああもう、面倒臭い。ただの飲み会なのにどうしてこうも心配されなくっちゃあならないのか。心配してくれるのは嬉しいけれど、行き過ぎると困る。

「もう放っといてくださ――」

 言葉の途中で詰まったのは、吉良さんに強い力で腕を掴まれたからだ。驚いて目を見開いた次の瞬間、吉良さんが一気に距離を詰めて来て、私を背後の壁に勢い良く押し付けた。ぐ、と息が漏れる。
 慌てて逃げようと吉良さんの胸を腕で押すが、びくともしない。両手首を纏めて掴まれてしまい、胸の辺りで押さえ込むようにして押し付けられる。足の間には吉良さんの足がぐっと入り込んで来て、もうすっかり身動きが取れない状態だ。

「な、何するんですかッ…!?」
「……分からないか、ヒヨリ。男が本気を出せば、君はこんなに簡単に押さえ込まれてしまうんだぞ」

 淡々と言う吉良さんは、どうも本気で怒っているらしい。今まで何度か怒られた事はあるけれど、こんなに冷たい瞳で見下されたのは初めてで、ぞわりと背筋が凍った。吉良さんがゆっくり近付いて来て、びくりと肩を震わせた私に構わず、耳元にそっと唇を寄せる。

「こうなった後は、何をされるだろうな?」

 初めて抱いた、恐怖。今まですっかり頭の中からすっぽ抜けていたけれど、吉良さんは普通のサラリーマンじゃあなくて、元来は殺人鬼と呼ばれるような存在だったのだ。それをまざまざと感じさせられたような気がして、息が詰まる。
 怖い。吉良さんが、怖い。じわ、と視界が滲み始めた頃だった。横から伸びて来た腕が、吉良さんの腕を掴む。

「…吉良、そこまでにしておけ。ヒヨリが本気で怯えているぞ」

 カーズさんの言葉にハッとしたような表情を浮かべた吉良さんが、私から離れる。その拍子に、私の目からぽろっと涙が零れた。吉良さんが私に何か声を掛けようとしたけれど、今は何も聞きたくなくて、私は逃げるように玄関まで走って行く。

「ヒヨリッ!!」

 背後から名前を呼ばれたけれど、振り返る事もしない。――そうして私は、家を飛び出した。


***


 走って走って、息が上がりきったところで漸く足を止める。勢いのままで出て来てしまった為、持っているのはポケットに突っ込んでいたスマホだけで、何となく駅まで来たは良いけれど、電車に乗る事すら出来ない。
 行く宛もないし、どうして良いのかも分からないけれど、とにかく一つ言えるのは暫くは荒木荘に戻りたくないという事。じん、と目頭が熱くなり、また泣きそうになって慌てて地面に視線を遣った時だった。

「……おい。何してる」
「………じょ、…じょうたろ、くんッ……」

 顔を上げた先には、承太郎くんが居た。見知った姿を見て安心したのか、ぼろ、と涙が溢れる。承太郎くんは驚いたように僅かに目を見開いた後で、「…やれやれだぜ」とお決まりの台詞を呟いた。

「何で泣いてる。荒木荘の奴らに何かされたか」
「…ち、違うの、…ちょっとケンカして、そのまま飛び出してきちゃって…」
「…家出か?」

 こく、と頷けば、承太郎くんが小さく息を吐く。スッと手を差し出され、私はゆるゆると顔を上げた。

「…来な。話を聞いてやる」

 小さく頷き、目の前の手におずおずと自分のそれを重ねると、ゆっくりと手を引かれる。私は無言のままで、承太郎くんに手を引かれるまま歩き出したのだった。