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波紋戦士に助けられる

■ ■ ■

 大規模なセールを行うという事で、吉良さん、カーズさん、ディエゴくんと共に、大型ショッピングモールへと繰り出した。久々にご飯の買い出しでない買い物に来たので、どうも浮かれてしまっていたらしい。気が付いた時には、あんなに目立つ三人をすっかり見失っていた。――そして。

「ね、いいじゃん行こうよォ〜!俺達と一緒だったら退屈しないよ?」
「お姉さんを一人にさせるヤツより楽しませる自信あるからさァ、遊ぼうぜ〜!」
「い、いえ、あの、本当に大丈夫なので…お、お構い無く……」

 一人できょろきょろとしていたのがいけなかったのか、いかにもチャラそうな二人組の男に絡まれてしまった。逃がさないとばかりに両脇を固められてしまい、上手く躱す事が出来ず、どうしたものかと悩んでいるところだ。
 いっそスタンドを使って逃げようかとも思い始めた頃、痺れを切らしたのか、男の一人が私の手首を掴んだ。ぎょっとしている内にも、男は「ほら、早く行こうぜ!」と私の手をぐいぐい引いて行こうとする。純粋な力比べでは勝ち目がない。やはり少々反則技ではあるけれど、スタンドを使おうとした瞬間だった。

「はーい、お兄さん達そこまでねェ〜」
「いでででッ!!?」

 突然、視界の端から手がぬっと現れ、私の腕を掴んでいる男の手を掴んだ。相当力を込めて握られたのか、男は情けない悲鳴と共にパッと私の腕を離す。引っ張られていた力が無くなって思わず後ろによろけると、ぽす、と何かに受け止められた。
 慌てて首だけで振り向いたのと同時、支えるように肩をそっと抱かれた。金糸の髪を持ち、目元に特徴的なあざのような物がある男の人だ。私よりも随分と背が高くて見下される形になっているけれど、怖いという感情が湧き上がらないのは、彼が私を安心させるように柔らかい笑みを浮かべているからなのだろう。

「大丈夫かい?」
「え、…あ、は、はいッ…!」

 やばい、とんでもないイケメンだ。少し微笑みかけられただけでも顔が熱くなるのが分かる。わたわたとしていると、「く、くそ、何なんだよ!覚えてろよ!」と漫画のような捨て台詞を吐いて、しつこかったあの二人組の男が逃げて行ったのが見えた。

「何だよ、根性ねェの〜!ちょっと腕捻っただけで情けねーなァ〜」

 ふんと鼻を鳴らした彼が、あの男達を追い払ってくれたようだ。茶色がかった黒髪で、太い眉毛が凛々しくて男らしい。此方の男の人も、私の背後に居る男の人と同様に体格が良いし、また違ったベクトルでとても顔立ちが整っている。
 ぼけっとしていると、黒髪の男の人の方が私の顔を覗き込み、「んで、アンタ大丈夫だった?」と尋ねて来る。そこで漸くハッと我に返り、私は二人に向かい合うように立って、頭を下げた。

「あ、ありがとうございます、本当に助かりましたッ…!」
「顔を上げてくれ、可愛いシニョリーナ。困っている女性を助けるのは、男として当然の事だよ」
「おーい、シーザーちゃァん?実際に助けたの俺なんですけどォ〜?」

 シーザー、と呼ばれた男の人は、黒髪の男の人の言葉を華麗にスルーし、私の手をそっと包み込むように握った。先ほど掴まれていた手首が少し赤みを帯びているのに気が付いて、彼は「赤くなっているじゃあないか…可哀想に」と労るように私の手首を指先で撫でる。

「痛くはないかい?おまじないを掛けてあげよう」
「へ、あ、…ッ!!?」

 ごく自然な動作で手を持ち上げられたかと思うと、赤くなっている場所に唇を落とされる。ちゅ、と軽いリップ音の後に離れた彼は、はくはくと口を開閉させている私を見て、フッと小さく笑ってみせた。や、やばい、やばいぞこのイケメン…。
 思い切り動揺している私を見かねたのか、黒髪の男の人が呆れたように息を吐き、「はいはいそこまでねン」と私とシーザーさんを引き剥がしてくれた。助かった、と思わず息を吐く。男の人はそんな私を見て、口を開いた。

「大丈夫だとは思うけどよ、さっきの奴らが帰って来るかもしんねーし、用事が済んでんなら早いところ帰った方が良いんじゃあねーの?」
「あ、…ええと、それが…一緒に来た人と逸れちゃって……」
「なるほど。…それじゃあ、俺達が探すのを手伝ってあげよう。こんな可愛いシニョリーナを一人にしておくのは心配だからね」

 息を吐くように口説かれて、思わず顔が熱くなる。シーザーさんとやらは、色々と危険な人のようだ。心臓に悪い。密かに黒髪の男の人の方にすすすと寄れば、それに気が付いたらしい男の人は「シーザーちゃんたら、警戒されてやんの〜」なんて言って、ニヤリと笑みを深めた。
 助けて貰った上に合流するのを手伝って貰うなんて、と一度は断ったのだけれど、二人の申し出――主にシーザーさんの――によって、結局お言葉に甘える事となった。吉良さん達は色々な意味で目立つから、そう時間は掛からない筈だ。そういう訳で、私は二人と共に歩き始めた。

「…そういや、まだ名前を聞いてなかったな。俺はジョセフ・ジョースターで、そっちのスケコマシがシーザーね。せっかくだし、名前教えてくれよ」
「誰がスケコマシだ!」
「あ、えっと、ヒヨリって言います。四谷ヒヨリ…です」
「……ン?四谷ヒヨリ?…アンタがあの四谷ヒヨリなのか!?」

 あのって、どの?ぎょっとしたように私を見るジョセフさんに、シーザーさんも驚いたように私とジョセフさんに視線を交互に遣る。念の為に言っておくけれど、私は二人とは初対面だ。だというのに、何故かジョセフさんは私の事を知っているような反応をしている。
 「あ、あの、何処かでお会いしましたっけ…?」と恐る恐る尋ねてみると、ジョセフさんは少し落ち着いたのか、「い、いや、そういう訳じゃあねーんだけどォ…」と返した。シーザーさんは怪訝そうな表情で、「何だJOJO、どうしたって言うんだ」と声を掛ける。……ン?JOJO…?

「会った事はねーのよ。でも、仗助達に話は聞いてたんだよなァ…あの荒木荘の新しい住人って、アンタなんだろ?」
「なにッ!?荒木荘って…」
「そ、そうです、けど…あの、…ジョセフさんって、もしかして……」

 ジョセフさんはこくんと頷いた。もしかしなくとも、彼も荒木荘の住人と因縁の深いジョースター家の一族らしい。ファーストネームがジョースターの時点で気が付くべきだった…。シーザーさんもジョセフさんから少し話を聞いていたのか、「き、君があの荒木荘に住んでいるのかッ…!?」と驚いたように声を上げている。
 苦笑しながら、「は、はい…一応お世話になってます…」と答えた時だった。私の肩越しに何かを見付けたらしいジョセフさんとシーザーさんが、一瞬目を見開く。そして、私がきょとんとしたのと、ほぼ同時。

「ヒヨリッ!」
「わッ…!?」

 背後から突然名前を呼ばれて、思わず肩が跳ねる。振り返った先には、早足で此方にずんずんと近付いて来るカーズさんの姿があった。漸く見慣れた姿を見付けてホッとしたのも束の間、何やら険しい表情のカーズさんにおかしな汗が滲んだのが分かった。

「探したぞ、ヒヨリ。きょろきょろしているから逸れるのだ」
「ご、ごめんなさい…」
「…それに、よりにもよって何故こいつらと一緒に居るのだ」

 どうやら、カーズさんは私がジョセフさんとシーザーさんと一緒に居るのが気に食わないらしい。ちらと視線を遣れば、ジョセフさんもシーザーさんも先ほどまでとは違い、何処かピリピリとした空気を纏っている。どうも、運の悪い事に、カーズさんと因縁が深いのは彼ららしい。

「お前が目を離すから、ヒヨリちゃんが逸れちゃったんじゃあねーの?俺らはなァ、ヒヨリちゃんが変な男共に絡まれてんのを助けて、一緒に行動してただけだっつーのォ!」
「…何?絡まれた、だと?」
「ひえッ…!ほ、本当です、すみません…!」

 本当か、と聞きたげにじろりと視線を向けられ、思わず背筋が伸びる。いつになく機嫌の悪そうなカーズさんにおろおろとしていると、それに気が付いたらしいシーザーさんが「…話はここまでだ。彼女が怯えている」と助け舟を出してくれた。
 カーズさんはフンと鼻を鳴らすと、私の腰にその大きな手を回した。反射的に飛び跳ねた私に構わず、カーズさんは眉間に皺を寄せたまま、ジョセフさんとシーザーさんを見据えて口を開く。

「…今回だけは礼を言ってやろう。行くぞ、ヒヨリ。吉良とディエゴが心配している」
「え、あ、はいッ…!あ、あの、ジョセフさん、シーザーさん、色々とありがとうございましたッ!」
「おう!またな、ヒヨリちゃん!」
「今度お茶でもしよう、シニョリーナ!」

 二人に手を振ってから、カーズさんの背中を追う。まだどうも機嫌が悪いようでムッとしているものの、歩く速度はいつもよりも遅い。どうやら私が逸れないように歩調を合わせてくれているようだ。それが何だか擽ったくて、密かに笑ってしまう。
 カーズさんの横に並んで、彼の服をきゅっと掴めば、一拍置いて「吉良とディエゴに怒られてしまえば良いのだ」と小さな声が聞こえて来る。二人に合流する前に機嫌を直して貰わなければ、と、私は一人で苦笑したのだった。