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吉良に膝枕して貰う

■ ■ ■

 とても、眠い。休日なのでのんびりとしていたのだが、その内に、睡魔に襲われた。瞼が重くて仕方なくて、先程から何度も閉じてはこじ開け、閉じてはこじ開けを繰り返している。
 昼寝と呼ぶには少々遅い時間であるし、今寝てしまうと、夕飯の仕度をしないまま夜まで眠りこけてしまいそうだ。とはいえ、睡魔もかなり手強い。気を抜けばすぐにでも夢の世界に旅立ってしまいそうだ。

 壁に寄り掛かって膝に本を置いたまま、うつらうつらとしていると、私の様子に気が付いたらしい誰かが小さく息を吐いた。「…ヒヨリ」と優しく私を呼んだのは、吉良さんだ。
 くっつきかけた瞼をこじ開け、重たい頭を動かして見上げる。吉良さんが私の顔を覗き込み、困ったような表情を浮かべているのがぼんやりと見えた。

「……きら、さん…」
「そんな端でうたた寝していては風邪を引くだろう。体も痛めてしまうぞ。寝るなら横になりなさい」
「…ん…でも、…もう少ししたら、夕飯のしたく…しないと…」

 ごし、と目を軽く擦ってみるけれど、やはり眠気は覚めない。顔でも洗いに行きたいところだが、体が重たくて仕方なかった。
 どうも、体は完全に眠る体勢に入っているようだ。参ったなあ、なんて頭の端でぼんやり思っていると、吉良さんがやれやれとばかりに息を吐いたのが聞こえる。

「…夕飯の仕度は良い。疲れているんだろう、ヒヨリ。今は寝なさい」
「………でも……」
「いいから、ほら。…おいで」

 腕を引かれ、眠気眼のままでのそのそ動くと、吉良さんが私の肩をそっと引き寄せる。されるがままになっていると、いつの間にか、吉良さんの膝の上に頭を乗せる形で横になっていた。俗にいう膝枕、というやつではあるまいか。ぼんやり思っている内に、吉良さんは近くにあった膝掛けに手を伸ばし、私の体に掛けてくれた。
 膝を借りるなんて、と頭の中では思っているのだけれど、如何せん体が動いてくれない。このままじゃあ本当に寝てしまう。容赦なく迫り来る睡魔に必死に抗っていたが、吉良さんが私の頭をゆっくりと撫で始めた事で、私はもうこの睡魔に勝てないだろうという事を悟った。

 するすると髪を梳いて、労るように、慈しむように、柔らかい手つきで頭を撫でられる。一定の間隔で頭を撫でられるその感触が、今の私にはまるで子守唄のように思えた。とても気持ちが良くて、心の底から安心出来る。おそらく私の口元はふにゃりと緩んでしまっているので、吉良さんに背を向けている形で横になっていて良かったと心底思った。
 はふ、と小さく欠伸を零してから、私はふわふわとした意識の中で、「吉良さん…」と名前を呼んだ。吉良さんは私の頭を撫でる手を止めないままで、「どうした?」と優しく声を返してくれる。私はそのまま、静かに言葉を繋げた。

「……吉良さんは、わたしの手を…すきだと、言ってくれますけど…」
「…ん?」
「…でも、わたし、…わたしは、吉良さんの手、すきです…。大きくて、あったかくて、…やさしくて…すごく、あんしん…するんです…」

 ふふ、と小さく笑えば、吉良さんの手の動きがぴたりと止まった。しかしそれも一瞬の事で、思い出したように再び頭を撫でられる。
 遠くなっていく意識の中、フェードアウトする直前、吉良さんが「…君は本当に、可愛い事を言ってくれるな…」と苦笑交じりに呟いたような気がした。