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承太郎一行と再会する

■ ■ ■

 もう近所を散歩をするのは金輪際止めよう。そう思いながら、私は無言できりきり痛む胃を押さえた。目の前に居るのは承太郎くんと、男の人が二人、そして犬が一匹。深緑の学生服を着ているのは花京院典明、まるで柱のような不思議な髪型をしているのはJ・P・ポルナレフ、そして私には興味無さげに欠伸を零している犬がイギー――私は全員に見覚えがある。承太郎くん同様、エジプトのバス襲撃の一件で対峙した一行の面々だ。
 イギーを除く三人共私よりも随分と身長が高いので、自動的に見下ろされている形になる訳だが、何というか威圧感が半端ない。唇を真一文字に引き結んでぷるぷる震えていると、花京院典明が戸惑ったように承太郎くんを見て、それから再び私に視線を戻した。

「……えーと、その、大丈夫ですか…?何というか、すごく震えているみたいですが…」
「…………だ、だ、だいじょぶ、です、はい…」
「いや絶対大丈夫じゃあねーだろ!顔真っ青だぞお前!」
「ヒイッ!す、すみません!!ごめんなさい!!」

 ポルナレフのツッコミに、思わずびくりと肩が跳ね、反射的に頭を下げる。謝られるとは思っていなかったらしいポルナレフは目を丸くして、承太郎くんは「やれやれだぜ…」と帽子のつばを下ろした。
 何度も言うが、私のトラウマカースト最上位は今もDIOさんである。次点で承太郎くん。そしてその次が承太郎くんのお仲間でもある一行の面々なのだ。私は犬好きだけど、いつもなら愛でる対象に成りうるイギーですら怖い。

 承太郎くんは花京院典明達には既に私の事を話していたようで、彼らから敵意は向けられなかった。その点は有り難い。しかし、意識が此方に向いているのには変わりなく、胃がキリキリ痛むのも冷や汗が出るのも変わりなかった。それでも何とかこの状況を切り抜けようと、恐る恐る口を開く。

「……あ、あ、あの、…そッ、その節はどうも、ご、ご迷惑をお掛けしましたッ…」
「…………こいつ本当にあの時のバスジャック犯?全然違くねーか?」
「肉の芽を埋められてたと言ったろう。……僕達の方こそ、助けられなくてすみませんでした」
「そッ…そんな、とんでもないです……!も、元はと言えば私が仕掛けた事ですし、あの、…お、お気になさらないで下さい…ほんとに…」

 申し訳なさそうに謝る花京院典明に、私も慌てて首を振り、言葉を返す。承太郎くんの時にも思った事なのだけれど、あれはもう終わった事なのだし、こうして新しく生活を歩み始めた以上、もう引きずる事は無いのだ。いつまでも気にしていたって仕方がない。……まあ、体だけは正直というか、まだまだ絶賛引きずり中ではあるけれども。
 それから、お気になさらないで下さい、というのは、過去の話もそうであるが、現在の事も含んでいるつもりである。元々会うつもりも無かった訳だし、これ以上関わっていると私の胃が爆発してしまいそうだ。それに、彼らにとっても、私と関わっても何のメリットも無い訳だし。

 胃がキリキリと痛んだままでいい加減泣きそうなので、そろそろお暇したい。も、もう帰ってもいいかなあ……。ちら、と密かに承太郎くんに視線を遣ると、タイミングが良いのか悪いのか、彼と目が合ってしまう。ぴゃっと飛び上がって目を逸らせば、ポルナレフが驚いたように「なんだ〜?」と声を上げた。

「承太郎、お前やけに怖がられてんじゃあねーか」
「……やかましいぜ。お前らも同じようなモンだろうが」
「僕達は承太郎よりは怖くないと思うけどな。……ね、ヒヨリさん」
「へッ!?え、あ、…あの、えと…」

 急に話を振られた上に名前まで呼ばれ、心臓がギュッと縮こまった思いがする。おろおろとしていると、花京院典明が「困らせちゃったかな」と苦笑した。彼なりに何とか空気を和ませようとしてくれたのだろう。
 ポルナレフも「そう怯えんなって!な!」と人懐っこそうな笑顔を向けてくれたし、承太郎くん同様、二人共とても良い人らしいというのは直ぐに分かった。とはいえ、残念ながら、ビクビクしてしまうのはまだ治りそうにはないけれど。

 密かに思いながら、ふ、と息を吐く。ゆるゆると顔を上げたところで、花京院典明と目が合う。びくりと肩を跳ねさせた私に、彼は柔らかく笑みを浮かべながら、口を開いた。

「知っているとは思いますが、僕は花京院典明です。僕も勝手ながらヒヨリさんと呼ばせて貰っているので、典明で構いません」
「俺はポルナレフで良いぜ。で、そこで寝てんのがイギーな。…ま、今すぐとは言わねーけど、せっかくだから仲良くしてくれよ」
「…あ…え、と、……よ、よろしくお願い、します…」

 典明くん、と、ポルナレフさん、それから、イギーちゃん。ちら、と様子を窺うように視線を向けると、二人共にっこりと笑っていてくれている。ポルナレフさんの言った通り、今すぐにとは行かないだろうけれど、それでも彼らとも上手くやって行けそうな気はした。
 二人とも承太郎くんと連絡先を交換しているのを知っていたらしく、あれよあれよという間に連絡先を交換する事になって、電話帳に新しく二つの名前が増える。踏ん切りをつける為に以前までのデータは消去してしまっていたので、まっさらだった電話帳に名前が増えていくのは、何だか少し嬉しくもあった。

 携帯を握り締め、密かに口元を緩めていると、背後から伸びて来た手が私の頭に乗る。びく、と反射的に震えた私に構わず、ぽんぽんと頭を軽く撫でたのは、承太郎くんだった。

「……あ、…じょ、承太郎、くん…あの…」
「…前みたいに嘔吐かなくなったじゃあねーか。ちょっとは進歩したな」

 ぱちぱちと目を瞬いていると、承太郎くんは私から手を離し、ふいとそっぽを向いてしまった。ぷ、と典明くんとポルナレフさんが小さく噴き出したのが聞こえる。…おそらく、彼なりに労ってくれたというか、褒めてくれた、のだろう。
 まだ大きな手の感触が残る頭に触れてみたけれど、今は恐怖よりも擽ったい気持ちの方が大きい気がする。承太郎くんをからかい始めたポルナレフさんを横目に、私は密かにへにゃりと笑ったのだった。