遥かなる旅路私が意識を取り戻し、承太郎くんとも晴れて結ばれ、ポルナレフさん達にもすっかり見届けられたあの日から、二日後。完治とはいかないまでも、怪我の具合も大分良くなったので、私達は揃って退院し、空港へと来ていた。それぞれ荷物を持って、空港のロビーで円を描くようにして集まる。 私と承太郎くん、花京院くん、ジョセフさんは日本へ、ポルナレフさんはイギーと共にフランスへ戻り、アヴドゥルさんはこのままエジプトに留まる事になっている。…本当にバラバラだ。これで本当に旅が終わって、皆とも離れ離れになるのだと思うと、何だか感慨深いような、寂しいような、少し複雑な心持ちがした。一ヶ月以上もずっと一緒に行動して来たせいで、こうしていざ離れる事になると、心にぽっかりと穴が空いたみたいだ。 そんな中、ロビーにフランス・パリ行きの飛行機のアナウンスが流れる。ああ、遂に時間が来てしまった。気を抜けばまた泣いてしまいそうで、私は密かに拳に力を込める。その横で、ジョセフさんがポルナレフさんに「どうしてもフランスに帰るのか?ポルナレフ」と声をかけた。 「もう身内はいないんじゃろう?よかったらわしの家のあるニューヨークに来ないか?」 「ジョースターさん…身内はいなくてもフランスはおれの祖国なんです…故郷には思い出がある どこへ行っても必ず帰ってしまうところなんです。何かあったら呼んでください…世界中どこでもすっとんでかけつけますよ」 ポルナレフさんがそう返せば、足元に居たイギーがふんと鼻を鳴らす。まるで「おれの存在を忘れちゃあいねーだろうな」なんて言っているように思えて、私は密かに笑った。ポルナレフさんも同じように思ったのか、イギーを抱き上げ、「それに、おれにはイギーもいるしな」なんて言って笑う。 横に居るアヴドゥルさんが、その様子を見て「随分と仲良くなったものだな」と笑みを漏らした。確かに、砂漠での第一印象はおそらく互いに最悪だったろうに、今ではポルナレフさんもイギーもすっかり打ち解けている。微笑ましいなあ、なんて思っていると、ポルナレフさんがイギーに顔を引っ掻かれながら、「あ、おいアヴドゥル!」と声を上げた。 「お前、あの館での約束忘れてんじゃあねーだろうな!」 「生きて出られたら豪勢な飯を奢る、だろう?…忘れちゃあいないさ」 アヴドゥルさんはそう言いながら私とイギーにも目を遣って、小さく笑ってくれた。約束の話を知らないジョセフさんや花京院くんはきょとんとしている。その様子が何だか少し面白くて、私はポルナレフさんと顔を見合わせ、思わず悪戯っぽく笑ってしまった。 「…そうだ、アヴドゥルさん。私、学校とか生活が落ち着いたら、今度はエジプトに観光に来たいって思ってるんです。その時は、案内して貰えますか?」 「ああ、勿論。メイには二度も救われているからな…何処へでも好きな所に連れて行くさ。…まあ、承太郎が許してくれればだがな」 私の言葉にそう返して苦笑したアヴドゥルさんに、思わず首を傾げる。どうしてそこに承太郎くんが出て来るのだろう、なんて思っていると、背後からぬっと伸びて来た腕に腰の辺りをがっしと掴まれ、反射的に「ヒイッ!?」と悲鳴が漏れた。ぎぎぎ、と音が付きそうなほどぎこちない動きで見上げれば、承太郎くんが何処かムッとした表情で居る。 承太郎くんは「…その時は俺も行くぜ」なんて言いながら私の腰を引き寄せ、ふんと鼻を鳴らした。目をぱちぱち瞬いていると、その様子が面白かったのか、花京院くんが小さくふき出す。その横のジョセフさんは「こりゃあ大変そうじゃのう…」なんてニシシと笑っていた。 再びアナウンスが流れ、私達の間には沈黙が流れる。きっと、各々この数十日間の旅での出来事を思い出しているのだろう。私達は互いに顔を見合わせてから、誰からともなく肩を組んだ。これで本当に、お別れだ。 「それじゃあな!!しみったれたじいさん!長生きしろよ!そして そのケチな孫よ!おれのこと忘れるなよ」 「また会おうッ!わしのことが嫌いじゃあなけりゃあな!…マヌケ面ァ!」 「忘れたくてもそんなキャラクターしてねえぜ…てめーはよ 元気でな……」 「それから、その孫の泣き虫な彼女!俺がいないからって寂しくて泣くんじゃあねーぞッ!おせっかいな占い師!約束楽しみにしてるぜ!意地の悪い友人よ!元気でな!」 「な、泣かないですよッ!ポルナレフさんもお元気で!イギーもね!」 「もう見たくないってくらい食わせてやるさ…また今度な」 「イギーに髪を毟られないよう、せいぜい気を付けるんだな。…ポルナレフもイギーも、元気で」 そう簡単には会えなくなるけれど、何もこれが今生の別れという訳でもない。だから、この別れには「さようなら」ではなくて、「またね」という言葉が相応しいのだと思う。また会う時まで、暫しの別れだ。私達は互いに背を向けて、それぞれの帰る場所へ向かって歩き出したのだった。 |