昨日の夜あんな事があったのに、酒場はとっても繁盛していてミランダさんは忙しそうに切り盛りしていた。
やっぱり手伝った方が良かったなぁ、と思ってたけど、不意に動かした左腕が痛んだ。

ダン先生の事だから注射をしてくれたんだろうな。いつもその後はズキズキ痛んでいた。これも効いてる証拠だよぉ、とか言われた気がする。

我慢をして。表情に出さずに辺りを見ればお兄ちゃん、レノが仲良くわいわい話している。ルードさんはそれに付き合ってるみたい。

レノはお兄ちゃんを避けていたと思っていたからあんなに仲良くなっていて驚いた。
自分の好きな人同士が仲良くしてくれるのは嬉しい。
思わず口元が綻んだ。

「楽しそうねなまえ」

「う?うん!楽しいよ」

私の隣にはシスネが座っている

ダーツはした事がないから興味はあるけど、まだ少しふらふらしているのを見られて心配させたくなかった。その為、悟られない様に見学兼応援をすることにした。

「体は本当に大丈夫?無理してない?」

シスネは心配そうな顔で言ってきた。
ミランダさんも気になってたのか顔を出してきた。
自分を気にして心配してくれるのは嬉しい。でも、迷惑かけてると思うと反省しないといけないな。
これ以上レノとルードさんに迷惑かけられないし
レノなんか、何回も無理すんなって言われたのに無理しちゃってさっきマジギレされちゃったしな···
さすがに次やったら····何されるか···あぁ···恐ろしい···

「うん、大丈夫大丈夫。結構やらかすけどこれはまだ良い方だから」

「結構やらかすって····」

「シスネにも無理しないって約束したのにごめんね。もう無理しないから」

「本当かしら」

「う···信用してくれないのは私のせいだから仕方ないけど···本当だから!明日でミッドガルともさよならだし無理しないよ」

「あら···そっか明日で···なんだか一週間あっという間だったわね···」

「え、なまえちゃん明日でミッドガルから出るの?!」

話を聞いていたミランダさんがビックリして接客していたお客さんを黙られて私の方へ来た。
ミランダさんお客さんがびびっちゃってるよ?!

「そうなんですよ。私、旅行でこっちに来てたので帰らなきゃ」

「そうなの····また来る予定とかは?」

「今の所は···でも、もう一度来たいなとは思ってます!」

「そう、···じゃぁまた来るの楽しみに待ってるわ!」

笑顔でミランダさんは私に言ってくれた。その言葉が嬉しくて勿論です!と勢い良く言った。シスネも私も待ってるって言ってくれて笑顔で返した。

するとミランダさんはそーだ!と何か思い付いて私に手招きをした何だろうと思いながら顔を近付けると小声で耳打ちをした。

「明日夜、腕によりをかけてご馳走作ってあげたいんだけど時間ある?」

「い、今の所は何も予定ないですけど···」

「じゃぁ明日、誘いたい人連れて来なさい?レノさんとかね?」

「え?!れ、レノ?」

驚いてミランダさんの顔を見ると凄く楽しそうに笑っている。

「最後の夜くらい好きな男と居ないと!」

ひぃ!!
好きな人と言うフレーズに異常に反応してしまう。
声にならない悲鳴をあげて無意識にレノの方を見てしまう。
レノもこちらを見ていてばっちりと目が合って反射的に目を逸らしてしまった。

「・・・なまえ今のは凄くわかりやすすぎよ・・・?」

「ち!違うの!ミランダさんがいきなり言うから・・・!」

「ふ・・・アハハ!そんなにいい反応してくれるなんて・・・ふふ」

「安心してなまえ、レノ凄い怪訝な顔してたけどバレてないバレてない」

「凄い怪訝な顔してるじゃん!絶対後で絞られるよ?!」

「ぶはっ、待ってなまえちゃん!アハハ。絞られるって!アハハ」

「そんなに仲良くなってたなんてねぇ···レノのどこに惚れたの?」

「ほ、惚れたって···!···え、えっと·········か、格好いいとことか···」

「顔!!」

ミランダさんが大爆笑。

「か、格好いいってゆーのは!顔もだけど!せ、性格も、し、仕草とか!話とかもしてて楽しいし!」

「なまえベタ惚れじゃない。でも意外だったわ。レノみたいな危険そーな男が好きだなんてね。純粋そうな顔して女豹?」

「女豹!!」

「な、何?!女豹って?!て、てかレノは危険そうな男なの?!や、優しくない?!」

「そうね。レノは優しくていい人よ?でも、それってやっぱ身内しか知らない事よ?見た目がやっぱどーみても不良じゃない」

「不良?!」

言われてレノをもう一度見る。丁度レノがダーツを投げている場面で姿勢良く真剣に一点を見つめる横顔。
目を奪われる位に格好いい。ドキドキと胸が高まって苦しい。やっぱり好きだなこれ。

投げられたダーツは綺麗な弧を描いて的のど真ん中に刺さった。
す、すっごい···

「あらら···ぞっこんねなまえちゃん」

「ザックスが知ったらまた騒ぎそうね。まだ気付いてないみたい」

「····え?」

レノに夢中だった私が二人を見たら難しい顔でこちらを見ていた。

「第一関門はお兄ちゃんよなまえ」

「うん??」

真剣な顔で言ったシスネだけど・・・何の事?!








「だーーーー!!なんで勝てねぇ!!!」

「いや、なんでもくそもねぇだろ。お前弱すぎ」

突然聞こえた声に驚いてそちらを見ると頭を抱えて座り込んだお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんにため息をついてるレノ。

お兄ちゃんってダーツやった事あるのかな?
話に夢中で見てなかったし応援すらしてなかった。ごめん。

今更だけどお兄ちゃんにがんばれーと声をかけると肩を落としていたお兄ちゃんは
笑顔で任せろ!と胸を叩いた。

「お兄ちゃんならレノに勝てるよ!私の分まで頑張って!」

「ったり前だろ!今のは肩慣らしだ!」

「何回やっても同じだぞ、と」

「もう一回だ」

「しつこいぞ」

「じゃぁスクワットで勝負だ」

「なんでだよ、ふざけんな。やるならルードと二人でやれ」

「・・・・おい。レノ」

「あ!逃げんのかよ!?」

「もう、不戦勝でも何でもいいぞ、と」

あー疲れたぁ。と呟いてレノがこちらに歩いてくる。
それを見たシスネはレノに文句を言っていたお兄ちゃんの方へと歩いて行ってしまった。
去り際にお得意のウインクをくれた。相変わらず美しいです。

「ザックス、任せて私がレノに勝てるようにダーツ教えてあげるわよ。ルードも付き合いなさい」

「俺に味方はいねぇのかよ、と」

全く自然に私の隣に座ったレノは私の飲んでいたジュースを一気に飲み干したと思ったらあめぇ、と文句まで言ってきた。

「わ、私のジュースが」

「また頼めばいいだろーが。ねえさん追加よろしく」

「はいはーい!ちょっと待ってねぇー」

手慣れた動きで用意したミランダさんは私にはさっきと同じものをレノには違う飲み物を出していた。
去り際にミランダさんは私に近付いてきて小声でごゆっくり、と言ってウインクした。
皆なんでそんな綺麗なん?てか、やめてくれ最近皆して意識させるような言い方しないでほしい。普通に話せてたのに一気に緊張するじゃん!!

「で?」

「え?」

いきなり話しかけられてレノを見ると頬杖をついてジト目で私を見ている。

「さっきのあれ、何」

「さっきの・・・?」

「物凄い勢いで目逸らしただろーが」

言われて思い出すと同時にミランダさんの好きな人発言を思い出して一気に頬が熱くなる。
どもった私の姿を見たレノはほー。なるほどね。っと何か納得している。
何が分かったの!?

「大体わかったからいいわ。」

「えぇ・・・うそでしょぉ・・・」

「相変わらずなまえちゃんが俺の事好きだということがな」

「ぶふっ」

「うっわ。汚ねぇぞ」

誰のせいだ誰の!!軽いノリで言わないで欲しい!
吹いたジュースをミランダさんから受け取った布巾で拭く。

ってかそうだったぁぁぁ・・レノは私がレノの事好きって知ってたぁぁぁ!
拭きながら頭は大忙しに動いている。
・・・じゃぁレノはどうなんだろう?・・・今まで自分の事ばっかだったから気にしてなかったけど・・・レノは?私の事どう思っているのかは言ったことないな・・・
まぁあんまり自分の事話さないけど・・・
そういえばあの時・・・

「なまえちゃん」

「ん?え?」

「何、人の顔凝視してぼー、としてんだよ」

「え、あ、ご、ごめん!」

頭を振った。危ない危ない。何してんだ自分!拭き終わった布巾をミランダさんの方に返して飲み物を飲む。
フルーツの甘味が口に広がって焦っていた心を落ち着かせる。
と、とにかくレノの気持ちがどうあれ今は後少しでミッドガルともさよなら・・・。きっと私が好きで、この楽しい時間も・・・思い出で・・・終わるのかな。
わかんないよね。明日の事なんて分かんないんだから。
今を楽しまなきゃ。

「なーに考えてんだよ」

レノが不意に小突いてきた。痛くはないけどビックリした。
慌てて首を振った。

「ううん、何でもないよ!そんな事より違う話しよ!」

「違う話?」

「うん!何がいいかな・・・」

結構強引な切り返しだったけど、レノと居る時間を無駄にしたくなかった。何を話そうか考えていたらレノは少し考えてニヤリ、と笑ってこっちを見た。

「・・・何から話してくれるんだろーなぁ、じっくり聞かせてもうぞ、と」

「え?な、何を?!」

「とぼけんなよ?なまえちゃん。ちゃーんと聞いたぞこの耳で。俺と話したい事沢山あんだろ?」

「え?···えー···た、確かに言ったような···?」

「よし、じゃぁまずは今日なんでぶっ倒れたか聞かせて貰おうか」

「そ、それは···怒らないで、聞いてくれる···?」

「大丈夫だぞ」

「ほ、ほんと···?」

「もう怒ってるからな」

「怒ってる!!!」

レノの顔は見たことも無いくらいニコニコしてる。
それが逆に怖すぎて思わず小さな悲鳴をあげて身を引こうとしてみたが、ガシィ、と頭を掴まれた。
あ、頭掴むとか!こ、怖すぎる!!

白状して今日あったことをかいつまんで話した。
寝不足であった事と神羅兵のクラウドの名前を言うのは控えた。

「ベヒーモス退治手伝うとかバカだろ?いや、バカだったわ」

「だ!だって放っておけないでしょ?別に退治したくてベヒーモス退治したわけじゃないよ?」

「普通ななまえちゃん。ベヒーモスはなまえちゃんみたいな人には倒せないんだぞ、と」

「わ、わかってるよ?でも良い考え浮かんだし···ルードさんや神羅兵のお兄さんが居たから、ね?」

「つーか、攻撃魔法まともに撃てねぇんじゃなかったか」

「いや、そうなんだけど、ちょっと裏技を使って···」

「なんだよ裏技って」

「···ひ、秘密」

「はぁ?」

「だって裏技だもん!そんなペラペラ喋れないよ!」

「あーはいはい。わかったぞ、と。裏技があるにせよ、バカスカ魔法を撃つのはやめろ」

「わ、分かってるよ···魔法撃って倒れたの初めてじゃないし····」

「わかってねぇじゃねーか」

「う···ち、違うんだよ。これは···特別···でもないけど」

喋りながらポーチからかみなりのマテリアを出す。
MAXまで育てられたそれを見て思い出すのは昔の事。

「私、まともに撃てないからずーっと練習してたんだけど···それがこのかみなりのマテリア。初めて手にいれたマテリアなの。おかげでMAXまで育っちゃって···唯一ね。ずーっと大切にしてるんだ」

初めてのマテリアに嬉しくて調子のって撃ちまくってぶっ倒れたし、正確に撃てなくて色んな人にも沢山迷惑かけた。父ちゃんに何度も怒られたけど。
やっぱり使いこなしたくて懲りずに何度も使ってた。

「····」

「でも、育ってる筈なのに、何回やってもサンダガが撃てなくて···。それで諦めて鞄の奥底に入れてたんだけど、今回これ見つけて、ベヒーモス倒すのにはこれ良いかも!使えなかったら諦めようと思ってた。だから使えて良かった・・・けど、使って分かったよ。サンダガ撃つ程の魔力が私には無かったんだって」

「裏技使ったから撃てたって事か」

「うん、裏技は私一人じゃ出来ないからもうサンダガを撃つ機会は無い、と言うことだから魔力切れもう起こすこと無いよ?」

「どーだか」

「な、なんだよぅ····」

「····取り敢えずそれ仕舞え。また盗られるぞ。大切なもんなんだろ」

「あ、うん。そうだね」

言われてかいふくマテリア盗られたのを思い出す。レノが取り返してくれなかったら帰り大変だっただろうな。と思うと苦笑いが浮かんだ。
急いで鞄の奥に仕舞う。

「それで?今日の事は分かったが、明日はどうすんだよ」

「明日?····うーんと、朝にバン先生が体調見にきてくれるって」

「あぁ、あの先生な···担当医だって?」

「うん、私がまだ小さかった時に風邪で寝込んだ時があったの。その時に丁度ダン先生が村に来てくれて治してくれてね。そこからずーっと見て貰ってるんだけど、ダン先生は世界中に患者がいるから忙しいんだって」

「世界中にねぇ···にしては名前聞いた事ねぇなぁ···風貌も喋り方も特徴があるから有名になりそうな気もするが」

「ミッドガルにはあまり来ないからじゃないかなぁ?」

「そんなもんか?まぁここは都会だけあって医者の数も足りてるしな···」

「うんうん。そいえばレノって生まれも育ちもミッドガルなの?」

「あー、まぁそんな所だ」

「めっちゃ曖昧だね」

「まぁな。子供の頃の事なんて忘れたぞ、と。気付いたらミッドガルに居てタークスになってたからなぁ」

「ふむふむ、成程ね」

「····なんだよなまえちゃん」

「ん?レノが自分の事教えてくれてるって思って嬉しくて」

「·······そーかよ」

凄く自然に自分の事を話してくれたレノは私に言われて自分でもビックリしているようだった。
それにしてもなんだか、今日のレノいつもと違うなぁ。

「そーいえば、なんか今日は普通だねレノ」

「はぁ?どーゆー事だよ」

「え?····えーと···近くない。何より今日はあんまりからかってこないなって」

「あー·····」

「いや、別にくっついてて欲しい訳じゃなくて!だってあの距離だと全然会話できないし!」

「···なまえちゃん、やっぱり刺激が強いのが好きなんだな、と」

「ねぇ、聞いてた?私、そんなこと言ってないよ?!」

焦って否定してみるが、レノは一向にニヤニヤするのをやめてくれないし、不意に私に近付いて耳元で囁いた。

「また、二人きりの時にな」

幾分低い声で囁かれた言葉に体がゾク、と反応する。一気に体温が上がり恥ずかしくなる。
思わずレノの肩を押して離れさせる。

「も、もう!言った傍から!!」

「ご要望にお応えしてやっただけだぞ、と」

にやり、と笑ったレノにもはや心の隅でカッコいい・・・と思ってる私は大分末期だと思う。
思わず脱力してカウンターに伏した。
丁度その時上から声がした。

「俺の前で妹に手出すなんていい度胸だな」

「・・・出た出た。シスコン」

お兄ちゃんだ。と思ったのと同時に背中に温もりを感じ、そのまま抱き上げられる。

「え・・・えぇ!?お、お兄ちゃん!?」

「お前はこっちだ」

私が座っていた席にお兄ちゃんが座り、その隣に私は座らされた。
軽々と持ち上げられた事といきなりの事に頭が追い付かない。

「・・・・お兄ちゃんもレノとお話ししたかったの?」

「どうしてそうなった」

私の言葉に二人して同じ様に苦虫をつぶした様な顔をしていておかしくて笑ってしまった。

「もー。ザックス!邪魔しちゃ駄目よ?」

「あ、シスネ」

「無理だっての!百歩譲って・・・いや千歩譲って俺が居ない時なら許すが居る時は許さねぇ」

「へいへい」

言って飲み物を煽ったレノ、お兄ちゃんもミランダさんに飲み物をお願いしている。
レノの隣にはルードさんが静かに座ってミランダさんからもらった飲み物をしっとり飲んでいた。

「もうダーツおしまい?」

「みたいね、ザックスがなまえが気になりすぎて全然集中しないのよ」

「えぇ・・・・」

「なんだよなまえ・・・妹の事気にしちゃ悪いか?」

「し過ぎだろ、と」

「・・・て、めぇ」

「別に」

「え?」

「私は全然いいよ?てかお兄ちゃんに気にしてもらえて嬉しいよ?私だってお兄ちゃんの事大好きだし。でも人に迷惑はかけちゃだめだよ?」

「なまえ〜」

お兄ちゃんは嬉しそうに私に抱き着いてきた。
それにレノがドン引きしてる。あれ、デジャヴ

「そこの兄弟はどっちもブラコンとシスコンかよ」

「仲がいいのよレノ。羨ましいからってひがまない」

「なんでそーなるんだよ」

「お兄ちゃん・・・どこでもかんでも抱き着くのはやめてよぉ・・・」

「細かいこと気にすんな!なまえが可愛い事言ってくれるからだろー」

「・・・・・」

「どうしたレノ」

「・・・・なんでもねぇ・・・」

その後も意外に話は盛り上がり、何故か男同士で誰が一番お酒が強いかなんて話になって、飲み比べが始まっていた。
何時間か経った頃。

「・・・ねぇなまえ」

「ん?何?シスネ」

お酒に酔ったお兄ちゃんが異常にくっついてくるので、引き剥がした所でシスネが話しかけてきた。

「そろそろ上に行く電車無くなるから帰った方いいかも」

「え」

言われて携帯の時間を見ると22時の文字。それでなくても病み上がりなのに早く帰って休まないと明日に響く時間だ。

「じゃぁお開きにすっか」

立ち上がったレノを見て驚いた、え、全然酔ってない!?同じくらい飲んでたお兄ちゃんはフラフラで私も気をつけなきゃって思ってたのに。
ルードさんも少し足元がフラフラしてる気がする。

驚いた私に気付いたレノは勝ち誇った顔で私に向けて言った。

「裏技だぞ、と」

裏技すげぇ。感心した私に隣でシスネがクスクス笑っている。
はてなマークを浮かべた私に何でもないわ。と言ってお兄ちゃんに肩をかした。

「ミランダさんお会計お願いしまーす」

「はいはい、さて誰が払うのかしら」

「俺が払う」

「お、お兄ちゃん」

フラフラになりながらも伝票を受け取ったお兄ちゃん、金額を見て嘆いていたので私も払うよって言ったら手で制された。

「お前らには妹が世話になったからな・・・ありがとな・・・」

ぼそ、っと言ったお兄ちゃんの言葉はちゃんと三人に届いていたみたいだ。
ルードさんは微笑んでサングラスを直し、レノはごちそーさんと少し笑顔で言った。
私とシスネは顔を見合わせて笑った。


「ありがとうお兄ちゃん」

「ん」

「・・・ね、明日」

支払いを終えたお兄ちゃんに近づく、皆には聞こえない様にお兄ちゃんの耳に口を近づけて小声で言う。

ミランダさんは誘いたい人って言ってたからいいよね?
私、こっち来てからちゃんと話してないもん。
ちゃんと話したいよ。だって
大切なお兄ちゃんなんだから

















「わざわざありがとう」

結局皆して私をホテルまで見送ってくれた。
手を振ったらお兄ちゃんに肩を貸しているシスネがミッドガル居る内にまた会えればいいわね、って言ってくれたので笑顔で頷いた。
そっか。明日会えなきゃ皆とはここでお別れなんだ。
お兄ちゃんとは明日約束したけどルードさんもレノも約束していない。
本当に寂しいな・・・

「レノもルードさんも本当にありがとう。まだ全然恩かえせてないのに・・・」

「残った恩はお兄ちゃんにでも請求しておくぞ、と」

「・・・だからお前は気にするな。帰りは気をつけて帰るんだぞ」

「気にするなって・・・」

ほんとごめんお兄ちゃん。二人共まじでやりそうだ・・・
お兄ちゃんの方を見たらもうなんか寝そうだ。疲れてるんだろうな。
なのにわざわざここまで来てくれてなんだか申し訳なくなった。

そう思った時、頭に重みを感じて振り返るとレノが笑顔で私の頭をポンポン叩いた。

「もうあんま無理すんなよ」

「え。う。うん・・・」

「そういや帰りはどう帰るんだ?」

「え・・・・・」

「・・・・」

「・・・・えーと。い、色々・・・」

行きを思い出す。特に無理してきた覚えは無いけどほんとに色んな手段を使ってきた。
普通なら移動車とか、傭兵雇ったりとかあるけど、私は違った。
それを言うのも引けたから誤魔化したけどそんな事で引いてくれる彼ではないのはわかっていて・・・

「・・・ほー・・・・う」

頭に乗った手が力強く掴まれた。
まって  痛い!!!

「い!痛い!!痛いよレノ!?」

「もーレノ。やめてあげなさいよ」

シスネは既に眠りに落ちたお兄ちゃんをルードさんに預けて私を助けてくれた。
ありがとう神様!!

「ったく・・・帰りは明後日か?」

「う・・・うん。明後日の朝には出ようと思ってる」

「わかった」

「う・・・うん」

「じゃーな、なまえちゃん。ちゃんと寝ろよ」

「え?う。うん?お。お休み・・・」

レノはあっけなくルードさんを連れて行ってしまった。
えぇ!?最後なのにこんなあっさり!?しかも最後のあれ何だったの!?

「なまえ」

「え?あ、シスネ」

「明日も明後日も会えないかもしれないから言うけど」

「う?うん」

「私たちはなまえの事好きで友達になったからね」

「え?う、うん。ありがとう・・・?」

「えぇ。また遊びに来てね。待ってるわ。それまで元気でね?」

「シスネこそ・・・お仕事、頑張って」

「えぇ、ありがとう」

そうだ、シスネに言わなきゃいけないんだ。

「ねぇ。シスネ」

「ん?何?」

「私・・・タークスがどんな仕事してるか・・・分かんないからさ・・・凄い無神経な事言ったと思うんだ・・・だから・・・もし怒ってたらごめん。私・・・」

俯いて言葉をゆっくりだが伝える。続きを言おうとした時、シスネが制して私の名前を呼んだ。顔をあげて見るとシスネはとっても優しい顔で私を見ていた。

「少なくとも私はなまえに言われた事で怒った事ないわよ。・・・タークスの事聞いたの?」

「聞いたって・・・噂程度だけど・・・」

「そう・・・聞いてどう思った?」

「え・・と。まず初めに申し訳ないこと言ったなって・・・・シスネにもレノにもピッタリな仕事だねって言ったし。凄い無責任に嫌な仕事でもやるしかないとか言ったし。噂を聞いて私、嫌の度合いが違いすぎて・・・」

「・・・・・そうね」

「でもだからって皆の事嫌いになんてならないよ?それはやっぱり自分事じゃないのかも知れないけど・・・でも皆優しいって知ってるから・・・だから。むしろ私を嫌いになってほしくないよ」

「なまえ・・・」

「偉そうに言ってごめん・・・」

「ううん。いいのよなまえ。・・・本当にありがとう。私やっぱりなまえの事大好きよ」

「え・・・えぇ!?」

「レノに嫉妬しちゃうわね」

「えぇぇぇ!?シ、シスネ!?」

シスネは微笑んで私に抱き着いた。女の人に抱きしめられるのは初めて。
シスネいいにおいする。

「うんうん。あの二人が抱き締めたくなる気持ちわかったわ」

「ど、どう言う事!!??」

「なまえが可愛くて落ち着くのよ」

言って離れたシスネはまた笑って私の頭を撫でた。

「帰っても連絡は出来るからね。仕事の合間に連絡していい?」

「う、うん!もちろん!待ってるよ!!」

「えぇ、じゃぁ引き留めてごめんなさいね」

「そんなそんな!レノが酷いだけだよ!あんなあっさりお別れするなんて!最後なのに・・・」

「あら・・・」

「ん?」

「ふふ・・・なまえ鈍感ね」

「え、何のこと?」

「ううん。大丈夫よ。きっとすぐ会えるわよ」

「え?」

「気にせずにお休み」

「う?うん・・・・お休み」

何の事だろうか考えながらもシスネに笑顔で手を振った。
ホテルに帰ってシスネに謝れた事とそれでも友達だと言ってくれた事に一つ肩の荷が下りた気がした。
でも、レノには言えず仕舞いだ。ほんとにあっさり過ぎてこれが最後な感じがしない。
私、どうすればいいんだろ・・・・また、電話していいのかだけ聞いとけばよかった・・・
でも、シスネまた会えるって言ってたし・・・信じて待ってみようかな・・・・・。

そんなことを考えている内にどんどん意識が遠のいて眠りについた。






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