くだらない日常



(あー、平和だなあ・・・)



2月にしては生温い風を頬に受けながら、山崎は虚ろな目で空を眺めていた。
ぷかぷか、ぷかぷか。
白い雲が、呑気に頭の上を流れていく。
いつも通りの1日だった。いつも通りすぎる程、いつも通りの。
ぱかっ、と携帯を開いてみる。「新着メール 0件」の文字がやけに目について、はあと溜め息をついた。
今日は、山崎の誕生日だ。誰にも気づかれなかったが。いつもは「誕生日おめでとう」と声をかけてくれる近藤でさえ、今日は妙にそわそわそわそわしていた。大方バレンタインとやらが近い為浮かれているのだろう。



(・・・帰ろうかな)



引退したバドミントン部の練習を見るのも、いい加減飽きてきた。
それに、このままここにいたら凍死してしまう。



(帰ろ、)



グラウンドにくるりと背を向けた、その時。



「あり?山崎じゃねーですかィ」



「沖田、」



やっぱり屋上は少し冷えやすねィ、とぶつぶつ言いながら、沖田がぺたぺたとこちらに歩いてくる。



「こんなとこで何してんでィ」



「そりゃこっちの台詞だよ」



「ここは俺の特等席なんでさァ。ま、山崎がいたんで助かりやした」



「は?」



「ちょいと頼みがあるんでさァ。いいですかィ?」



山崎がこくんと頷くと、急に視界が真っ暗になった。



「わっ!何、何これ!?」



「五月蝿いですぜ、ただのアイマスクでさァ」



試してみたかったんですよねィ、と実に楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
目が使えない為他が敏感になったのだろうか、ひゅう、ひゅうと風の通る音がやけに大きい。



「アイマスクしたまま階段を後ろ向きにひきずられたらどうなるか」



血が引いていく音を、山崎は確かに聞いた。



「えっ、いや、え?」



「いきやすぜ山崎。サド丸、発進!」



「ちょっ、ちょっと沖田・・・!いたっ!痛い痛い痛い死ぬって、あっ」












最後に一際大きく背中を打ちつけ、ぐえっと声にならない何かが漏れたところで地獄は終わったらしい。
アイマスクを上げると、沖田はいつものポーカーフェイスでにやりと笑った。



「ありがとうございやす。試しが終わったんで、次は土方で本番といきやすかねィ」



山崎が抗議しようとすると、沖田は「そこのドア開けてくだせェ」とそれを遮った。
ここ空き教室じゃ、という言葉を飲み込んで、山崎は言われた通り、ガラリとドアを開けた。



パァン!



鋭い音に思わず身を縮めると、降ってきたのは色とりどりのセロハン。



「「「「「山崎、誕生日おめでとう!!!」」」」」



「え、」



部屋を彩る飾りに大きなケーキ、そして零れんばかりの笑顔、笑顔、笑顔。



「み、みんな・・・」



ずびっ、と鼻を啜る。
目の水分量が僅かに増加しているのが、自分でもわかった。



「邪魔でィ」



「痛っ!痛いよ沖田!」



背中についた足形を恨めしく思いながら振り返ると、沖田はにやにやと笑っている。



「ジミー、さっさと入るネ!ケーキなくなっても知らなもぐもぐ」



「土方さん折角のケーキを犬の餌にしないでくだせェ気持ち悪い」



「何言ってんだよマヨネーズは森羅万象何にでも合うって知らねーのか」



「お妙さァァァァァん!どうか貴女の手で俺の口にケーキをぶごおっ」



「妙ちゃんすまない、五月蝿いゴリラがいたから」



「いいのよ九ちゃん、ついでにそのゴリラ動物園に送っといてもらえる?」



「ちょっ、この教室の使用許可取ったの俺だからね!?感謝の気持ちを込めて銀さんにケーキは!?ねえ!そしてヅラ、お前こんな時は鬱陶しいからそのヅラ外せー」



「先生、これはヅラじゃなk「先生ー!ケーキならあやめの納豆ケーキをあ・げ・ぐほあっ」



・・・ああ。
山崎は口元を綻ばせた。



いつも通りだ。



このくだらない日常


(でもそれはきっと、僕等のたいせつな、)





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