或るふゆのはなし
「あー寒ィ。なんだよこれ温暖化とかぜってー嘘だろ騙されないよ銀さん」
ぶつぶつ文句を垂れながらも、銀時の表情からはうれしさが滲み出ている。
何しろ今から愛しの彼女に会いに行くところなのだ(しかも3週間ぶり!)。
(あー、健気に待ってんだろうなー、あったけーココアとか淹れてくれちゃってたりして!)
ふんふんと鼻歌を歌いながら、銀時は自然と足を早めた。
「詩音ー、入るぞー」
早くエアコンの恩恵を受けようと銀時がいそいそとドアを開けると、部屋のなかは外と変わらず寒かった。
そして、部屋の隅のベッドには毛布にくるまった人影がひとつ。
「・・・詩音、何してんの?」
「エアコンが壊れた。寒い」
「マジでか」
「これがマジじゃなかったら驚きだよ」
エアコンが壊れたお陰で、詩音の機嫌は悪い。この間銀時が呑み明かして帰って来た時ぐらい悪い。
・・・え、俺の存在ってエアコン並み?
「じゃあ、銀さんの家行こうぜ」
「やだ」
・・・二文字で却下された。
「今日はここでこうしてるもん、い、一歩も出てやらないんだからねっ!」
「口調だけツンデレ!?何お前、銀さんと快適さどっちが大事なの!?」
「あったかいの」
負けたァァァァァァ!
完っ全に布団に負けたァァァァァ!
「・・・あのさ詩音ちゃん、俺たち会うの3週間ぶりだよ?」
「うん、知ってるよ」
「銀さんはさァ、詩音といちゃつきたい訳だよ。このままだったら詩音不足で死ぬぐらいお前が欲しい訳、わかる?」
「・・・勝手に死んでろ万年白髪発情期」
「ちょっ、詩音ちゃァァァァん!?何その罵詈雑言、ダイレクトに傷つくんですけど!」
そこまで言うと、銀時は突然何かを思いついたようににやりと笑った。
じり、と詩音との距離を詰める。
「いいのかなァ、詩音ちゃんそんな口聞いて」
「折角こたつ出してんのになァ」
「・・・行く」
こたつ、の一言を聞いていそいそと準備をはじめる詩音に、銀時は嬉しいやら、悲しいやら。
ともかく、二人は万事屋へと極寒の世界に足を踏み出した。
「わー!こたつ!おこた!」
こたつを見るなり、潜りこむ詩音。
「詩音ちゃん!?ちょっ、寒いんだけど!」
「駄目!入ったら駄目!今日はこたつむりになるんだから!」
「イヤ知らねーよ!つーかこたつむりって可愛いなオイ!」
詩音を無視してこたつに入ると、「足がつめたい」と文句を言われた。
・・・いやいや、詩音の足もつめたいから。
「っはー、あったけー」
「こたつ発明した人って偉大だよねー」
「そだなー、詩音、ちゅーして」
「やだ。ねえ、眠い」
「やだって酷くね!?会うのどんぐらいぶりだと思って・・・え?」
「・・・ZZZ」
寝たァァァァァァ!
久しぶりのデート(と呼べるのかも怪しいが)にこたつに入って寝ちゃったよこの人!
「・・・しゃーねーな」
目の下にできている、薄い隅をあたたまった指でそっとなぞる。
仕事が忙しく、疲れていたのだろう。
(・・・デートなんだから、こんぐらいしても罰は当たんねーよな)
詩音を抱き枕にして額にキスをおとすと、銀時もとろりと目を閉じた。
「おやすみ」
「よく寝たー、ありがと銀時」
「おー」
詩音はマフラー(去年の冬、詩音が銀時と自分におそろいで編んだやつだ)をくるりと巻くと、にこりと笑った。
「貸し1な」
「馬鹿、あたしが寝てる時にちゅーしたんだからチャラよ」
「えええええ!?」
起きてたのか、と銀時が頭を抱えると、ふふ、と詩音は笑う。
「また暫く忙しいけど・・・クリスマスにはまた来るよ」
「ああ、銀さんと過ごしたいみたいな?」
「こたつに会いに」
「うん予想してたけどね、何この仕打ち、俺泣いていい?」
「嘘。・・・ちゃんと銀時に会いに来るから、待っててね」
「・・・おー、特大のケーキつくってっから」
「うん」
「なー詩音、ばいばいのちゅーして」
「・・・ん」
詩音が背伸びをして銀時の頬にキスをすると、銀時は「うっし、元気出たから送ってくわ」と笑った。
外は相変わらず寒いけれど、貴方が隣にいるならきっと。
或るふゆのはなし
ねえ銀時、
あ?
一番遠回りでお願い
・・・はい
(デレ来たァァァァァァ!)
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もも様キリリクでした。
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