目を真っ赤に腫らした彼女の頬は見た事が無いくらいに透き通った桃色をしているなと思った。俺の目はこんな色を直視した事がない。女の顔なんか真面目に見た事が無いからだ。好きだ惚れただと自分勝手な言い分を捲し立てる様に吐いては最後に罵声と共に走り去っていく女達はきっと泣いてたんだろうけど、そんな奴らの顔を見るのも面倒臭かった。

「そんなに泣いたら目ン玉融けるよ」
「融けてしまえばいいんだ」

こんな目、融けてしまえばいい。
鼻水でくぐもった声でそう吐き捨てると彼女はまたしくしくと泣いた。よくもまぁそんなに泣けるもんだと感心する。

「ミツバちゃんの事、恨んでる?」

冷んやりとした屋上のフェンスに凭れ付いていた背中を曲げ、膝を抱えて泣く彼女の顔を覗く。ああやっぱり真っ赤になってら。擦ったら駄目、とデリヘルの広告が入ったポケットティッシュを手渡す。受け取ったその細い指は寒さの所為か真っ赤になっていた。

「恨んで無い、倖せになって欲しいよ。けど遣る瀬無いの、自分が惨めなの」

唸る様に呟いたその言葉はやけにハッキリと聞こえた気がする。
校庭から野球部の元気な声が聞こえてきて、彼女がまた泣き出すんじゃないかと少し勘繰り、ポケットからウォークマンを取り出す。イヤホンを片方渡せば、彼女は鼻をセーターの袖で擦りながらそれを受け取り耳に嵌めた。流れる曲は俺の趣味が具現化した様なロックばかりで、こいつはこういうの聞かなそうだなぁとか何聞くんだろなぁとかぐるぐる考えてみたり。

「銀ちゃん、カラオケ行こうよ」
「おー、俺もちょうど思ってたわ」

外されたイヤホンをウォークマンに巻き付けて腰を持ち上げる。流行りの歌なんかわかんねぇしカラオケなんか好きじゃない。けどこいつが行きたいってんなら幾らでも行ってやる。どうせだったら渾身のラブソングでも歌ってやろうかと策を練った。

「オラ、いくぞ負け犬」
「うっさい白髪天パ」
「馬っ鹿オメーこのオシャレがわかんないの?つーか銀髪な銀髪、間違えないでそこんとこ」

腫れた目の彼女がくすくすと笑う。
この目元を撫でてやるのも、冷たくなった指を温めてやるのも、今の俺の役目じゃない。とりあえずフクヤマでも歌って朝イチであのマヨラーをぶん殴って、それからこいつを力一杯抱き締めてやろうと心に決めた。こんないい女をフった事を後悔しやがれそして天罰降れクソマヨラー。あと数ヶ月もしたらこうして屋上にくる事も出来なくなるんだから、二年分の愛を叫んだって許されると思う。
つーか許されないとこっちが困るんですけどカミサマホトケサマ。

2013.1210
dear NANASE






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