「あああっ、詩音、もういいって!やめときなよ!」
「退は黙ってて!あたしにだって、な、梨ぐらい剥けるもん・・・!」
「そう言いながらさっきから10cmも進んでねーじゃねーか」
「副長うるさいです!」
詩音は真剣に梨と向きあっている。
ここは大江戸病院の一室。
山崎が任務中に負傷し、それなりに深い傷だった為見舞いに来たのだ。
「詩音いいよ、後で自分でやるからっ!」
「駄目!退は怪我してるんだから、じっとしてて!」
「詩音もそのうち怪我しやすぜ、手先が危なっかしい」
「沖田隊長!そんなことないです、たかが梨ごときにあたしがっ・・・」
「その梨ごときにさっきから苦戦してるのは誰でィ。いいから借しなせェ」
「ああっ!」
結局梨と果物ナイフは沖田の手に渡ることとなった。
沖田はくるくると器用に皮を剥いていく。
「絶対剥けたのにー・・・」
「いや、無理だろ」
「無理じゃないです!ていうか副長だって絶対剥けないでしょ!」
「馬鹿か、なめんなよ。梨ぐらい剥けるわ」
「嘘だ!ぜーったい見栄だ!」
「五月蝿ェよ、おら総悟、剥き終わったんならナイフ貸せ」
「へーい」
土方は果物ナイフを受け取ると、こちらもくるくると器用にリンゴを剥き始めた。
「なっ・・・!」
「ていうかいつも剣握ってるくせに梨も剥けないお前が不思議だ」
「五月蝿いですよっ!」
「・・・あ、俺なんかミカン食べたくなってきた。詩音、ミカン剥いてくれる?」
「うん!」
さっきまでの梨への執着ぶりはどこへやら、詩音は嬉々とした様子でミカンを剥き始めた。
結局山崎のために何かできれば、それでいいらしい。
「山崎、じゃあ梨はどうするんでィ」
「どうするって既に食べてるじゃないですか、3分の2くらい沖田隊長の胃の中じゃないですか」
「山崎、これは」
「いやいらないですよ何考えてるんですか何でリンゴにマヨネーズかけてるんですか!」
「退、剥けたよー」
「あ、うん」
詩音がにこにこしながら山崎の口にミカンを運ぶ。
「おいし?」
「うん、おいしいよ」
その様子は、端から見ていると甘すぎていらいらする程。
「・・・あー、俺廊下で煙草吸って来るわ」
「土方さん、病院は全面禁煙ですぜ」
「チッ、・・・じゃあ外出て来る」
「俺も少し出て来まさァ」
残ったのは、首を傾げる詩音と苦笑する山崎。
「副長も沖田隊長も、変なの」
「ねえ詩音、食べさせてよ」
「今日は退が甘えんぼだね」「まあ、たまにはね」
嬉しそうにミカンを食べさせてくれる詩音を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
ミカンをゆっくりと食べ終わると、山崎はちょいちょいと手招きをした。
「ん?退、どうしたの?」
「いや、ごめんね」
「何が?」
「いつもみたいに頭撫でてあげようと思ったんだけど、ちょっと無理だった」
あはは、と笑う姿が愛しくて。
詩音はぎゅっと山崎を抱きしめた。
「詩音?」
「いーの、代わりにあたしが退のこと抱きしめてるから」
「・・・ありがと」
「いーえ、どういたしまして」
「詩音、すきだよ」
「あたしも退のことすきっ!」
そして二人の間には、今日も甘い甘い時間が流れるのです。
激甘警報、激甘警報
・・・土方さん、どうしやしょう
・・・俺もう一回煙草吸って来るわ
・・・俺も行きやす。
土方さん、ジュース奢ってくだせェ
なんでだよ!
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