A.M.7:30。
今日はいつもより寒いな、と思いながら、詩音は制服のジャケットを羽織って寮を出た。
「おはよう、詩音ちゃん」
「おはよう、志摩くん」
寮を出るとすぐに志摩が笑って挨拶してくれる。
いつものことだけど、やはり嬉しい。
詩音と志摩は、他の学生のように夕方なかなか時間が取れない為、こうやって早朝デートが日課となった。
二人で並んで歩いていると、さり気なく志摩が手をつないでくれる。
そんなところが、すきだ。
「今日はちょっと寒いねー」
「そやなあ。コンビニで温かい飲み物かなんか買って行こか」
「うん!あたしココアー」
志摩は笑って、二人分のココアを買ってきてくれた。
中庭のベンチに腰をおろす。
「毎日思うけど、やっぱ静かやな」
「そうだねー」
ふたりきりみたいだ、と思ったけれど、照れくさくて言えない。
「なんや、ふたりきりみたい」
志摩の口から零れた言葉に、思わずくすりと笑ってしまった。
「え、何、なんか俺おかしいこと言った?」
「ううん、そうじゃなくて」
あたしも同じこと考えてたから。
そう言うと、「以心伝心や」と志摩は笑った。
それから、クラスや祓魔塾の話をしあって、くすくすと笑いあう。
そんな時間が、毎日のささやかな、でもとても大切な、幸せ。
「志摩くんて話上手だよね、す、勝呂くんてそんな人だったんだ、あははっ」
「何言うん、詩音ちゃんのした奥村くんの話なんか最高やわ、あー、今日からかわなあかん」
「もう、こんなおもしろいことからかったらかわいそうだよっ、あはは」
「これをからかわん手はないやろ」
「だっ、駄目、あたしパス。思い出すだけで笑っちゃう」
「詩音ちゃん、笑い上戸やなあ」
「周りにいる人がおもしろすぎるんだよっ、あはっ、あははっ」
なんとか笑いがおさまったところで、志摩がせや、と切り出した。
「詩音ちゃん、今週の日曜空いとる?」
「うん、空いてるよ」
「じゃあ、二人で映画行かへん?見たい言うとったのがあるやん」
「ああ!そうだね!」
「実はなー・・・じゃーん!」
「あっ、前売り券!」
「この間クラスの男子にもらったんよ、どう?」
「行く!行きます、行かせてください!」
「決まりやな」
志摩は嬉しそうに笑った。
その笑顔に、心臓がどくんと脈を打つ。
そろそろ、他の生徒も登校してくる時間だ。
向こうで、ちらちらとブレザーが校舎に入っていくのが見える。
「そろそろ、行かなあかんな・・・」
志摩の言葉にうん、と返し、名残惜しいが腰を上げた。
「詩音ちゃん、」
「え?んっ」
唇が、重なる。
志摩は暫くキスをやめようとはしなかった。
「しっ、志摩くん、誰かに見られちゃうよっ」
「しゃあないなあ」
本当に残念そうに、志摩は唇を離した。
そして、悪戯するこどものように笑う。
「ほな、次は誰もおらんとこでゆーっくりキスしような」
「なっ・・・」
「詩音ちゃん、見られんやったらええんやろ?」
にやにやと志摩が笑う。
「・・・意地悪」
「くくっ、ほら、行くで」
志摩に手をひかれて、こどものように歩く。
唇は離れたのに、頬の火照りはなかなかおさまりそうにない。
健全な僕等の健全な交際!
(え?これくらい普通ですけどなにか?)
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