そのいちっ!





真選組の朝は、早い。
鶏がコケッコーとかコケコケとかクタバレヒジカタとか(あ、これは沖田隊長だった)いう奇声を発する頃、真選組監察・山崎退は廊下を走っていた。
曲がり角で危うく土方とぶつかりそうになる。




「おわっ!・・・山崎か」



「わっ、すみません副長!」



「どうした?会議遅れんぞ」



「はい、すぐ行きます!」




それからまた音もたてずに山崎が走っていった方向を見て、土方はああ、と納得した。




「まだ起きてねーのかよ・・・」











「詩音ちゃん、開けるよっ!」




一応了解を取って、山崎は勢いよく部屋に入る。
そこは殺風景な、年頃の女の子の部屋とは思えない程殺風景な部屋。
そう。
山崎の部下で唯一の女隊士・詩音の部屋である。
そして部屋の持ち主は、部屋の真ん中に敷かれた布団にくるまって寝息をたてていた。




「詩音ちゃん、早く起きて!」



「ふぎゃっ!なっ、何ですか山崎さん!あたしの恋人を返せ!ランデブー真っ最中だったのに!」



「ランデブーとかいいから!今何時だと思ってんの!?」



「むあ・・・?何時って山崎さん、ろく、じごじゅうよんふ・・・・・・え」



ちなみに会議は7:00からである。



「・・・ぴぎゃーーーーーーっ!」












「山崎さんの馬鹿っ、馬鹿馬鹿っ!何で起こしてくれなかったんですか!?」



「俺が何で君を起こさなきゃいけないの、お母さんじゃないのに!」



「えっ・・・違ったんですか、山崎さんってあたしのお母さんじゃなかったんですか!?」



「うんその衝撃の事実みたいな顔やめてくれる」



スパァーン!



「「・・・セッ、セーフ」」



時計を見ると、7:00ジャスト。



「遅刻じゃない!よかったね山崎さん!」



「うん元はというか明らかに君のせいだけどね」



「テメーら3秒以内に座んねーと切腹な」「「どうぞ副長始めてください」」















「はー、やっと朝ご飯!」




ここは食堂。
詩音は焼鮭をもぐもぐと頬張りながら、山崎の漬物に箸を伸ばす。




ぺしっ



「あげないよ」



「うー・・・」



「唸っても駄目」



詩音は渋々と漬物から視線を外し、味噌汁を啜った。
青い空が、食堂の窓からこっそりと顔を出している。




「大体詩音ちゃん、昨日何時に寝たの」



「え・・・」



詩音があからさまに視線を泳がせる。
ざぶんざぶん、という音が聞こえてきそうだ。



「に・・・2時・・・?書類やり始めたらそんな感じに・・・」



「詩音ちゃんは朝弱いんだからちゃんと睡眠とらないと駄目って、俺言ったよね?」



「・・・あは」



「今度朝起きれなかったら、朝食抜きだから」




山崎の静かな迫力に、詩音はこくこくと頷いた。
ヘタレのくせに、こういう時は地味に怖い。




「ジミーのくせに」



「詩音ちゃん上司を何だと思ってるの?」



「上司、上司・・・すみません、地味なヘタレ1匹しか見つけられませんでした」



「うん詩音ちゃん監察失格」「Σ嘘ですって!冗談ですよ山崎さんは素敵な上司ですってあは、あはははは!」



「そうだよ、会議に遅れる危険を冒してわ・ざ・わ・ざ部下を起こしに行ってあげる上司なんてなかなかいないよ?」



「・・・すみません」



「わかってくれたらいいよ。次はないからね」



「はーい」




笑顔の宣告を頭の片隅にしまって、詩音は獲物に狙いを定めた。
漬物が消化された今、狙うはーーー




「取ったどー!」



「Σあああああああああ!詩音ちゃん、それ俺のししゃも・・・!一番大きくて身のつまってそうなやつ取っといたのに・・・」



「ほふぁへのものはほれのもにょ、ほれのものはほれのもにょ!(お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの!)」


「そして口にししゃも入れたまま喋んな!」



「(ごきゅんっ)さあ、見回りですよ山崎さんっ!江戸の平和を満喫ツアー、今日も出発です!」



「・・・いや、何か違くね?」




山崎のししゃもは見事詩音の胃袋におさまり、山崎は急かす詩音に引っ張られて走り出した。
この大雑把で上司を上司と思わない部下と、そんな部下やユニークすぎる上司に振り回される上司。
ふたりは今日も、江戸の平和を守っている・・・の・・・か?



凸凹コンビ、始動!


オイ山崎テメー、俺廊下走ったら切腹って言ったよな?


Σふふふ副長!?
これは不可抗力・・・


部下のせいにするなんて・・・!
山崎さん、貴方を見損ないました!


うん事実だから!
てか君も走ってたでしょ、ていうか君メインで走ってたでしょ!


やだなあ山崎さん、あたしが主役とか照れるじゃないですか☆


・・・二人とも座れ、俺がまとめて介錯してやる

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