そのきゅうっ!





白い無機質な天井が、自分をじっと見つめている。
そんな思いが浮かび、山崎はぶるりと身震いをした。




退屈だ。
あと一週間程で退院できると医師からは聞かされているが、一ヶ月ほどにも感じる。
土方が持って来た書類を淡々とこなし、疲れたら眠る。
無理をしてはいけないと、強く釘を刺されているのだ。




(・・・そろそろ、かな)




詩音の姿は、任務に行ったあの日から見ていない。
ただ、見舞いには来ているらしい。
・・・山崎が寝ている隙に。
いつも、昼寝の後には彼女が好んで使う洗剤の残り香が漂っている。




山崎は布団を被り、今日こそはと狸寝入りをきめこんだ。


























(・・・よし、寝てる)




詩音は辺りをきょろきょろと見回し、こそりと病室にすべりこんだ。
別に悪いことをしている訳ではないのだが。




穏やかな寝顔に、ふるっと頬の筋肉が緩む。
ちいさく一歩近づいて、触れそうになった手をぴくりと元の位置に戻した。
かわりに、ちいさくちいさく、起こさないように名前を呼ぶ。




「・・・やまざきさん、」




「何?詩音ちゃん」




「!」




お・・・起きてたァァァァァァァ!!!




「久しぶり、・・・って言っても、君はここんとこ毎日俺に会いに来てた訳だけどね」




ば・・・バレてたァァァァァァァ!!!
何故!証拠も何も残してなかった筈なのに!




「ねえ、詩音ちゃん」




「は、はい」




「・・・ごめんね」




すぐにあの日のことだとわかった。
塞がりかけていた傷口がずくりと疼く。




「無かったことにするのは簡単だけど、やっぱりそういうの嫌、だから。・・・俺の恥ずかしいこと人生ベスト3には確実に入るぐらいだから、本当は忘れちゃいたいくらいなんだけど」




「あれ、ほんと詩音ちゃんに非はないんだ。俺の、・・・嫉妬、だから」




「・・・しっと・・・?」




「あの日、俺ほんとは沖田隊長と一緒にファミレスいたんだ」




「・・・!」




「それで、旦那と楽しそうに喋る君見て、・・・なんか、無性に腹立って、」




「・・・・・・・・・・・・・・・」




俯いて話す山崎を見て、どくん、と心臓が高なる。
僅かな期待が首をもたげた。




「・・・ごめんね、俺のエゴで君のこと傷つけた」




「・・・ほんとですよ。めちゃくちゃ傷ついて、一晩中泣いてたんですから」




「・・・・・・ごめん」




「でも、」




「?」




「それより、こんな怪我してあたしを心配させたことを反省してください」




少し不機嫌そうな顔をして山崎の方を見ると、ごめん、とくしゃりと笑った。




「乙女の涙は高いんですからね」




「・・・ごめん、乙女なんて見当たらなかったんだけど」




「酷っ!」
「嘘嘘。詩音ちゃん、」




「?」




「おいで」




あんまりにやわらかく笑ってそんなことを言うもんだから、切り返すのも忘れておとなしく近づいた。
すると、山崎はきゅっと詩音の手を握った。
一気に顔に熱が集まり、詩音は下を向く。




「詩音ちゃん、」




「は、はい」




「俺の目、見て」




おそるおそる顔を上げ、山崎の目に視線を合わせる。
まっすぐでぶれないその瞳に、いつだって惹かれていた。




「君のことが、すきです」




やさしく、やさしく。
世界がひとつになる、音がした。




「・・・あたし、も」




「・・・・・・・・・・・・・・・え?」




「あ、たしも、すきですっ!」




「・・・・・・えええええ!?ってかちょっと待って、なんで泣いてんの!?」




「っううう五月蝿い!山崎さんの馬鹿!ヘタレ!地味!」




「Σ馬鹿と地味は余計じゃない!?」
「五月蝿い五月蝿いうるさいっ!嬉しくて涙が出たんじゃ悪いかバカヤロー!」




「・・・え」




「・・・・・・あ、・・・い、今のは忘れてくださ「やだよ」え、」




ぐんっと手を引っぱられ、次の瞬間には詩音は山崎の腕の中にいた。
上でいててて、と山崎が声を上げている。




「そんな可愛い台詞、詩音ちゃんに頼まれたって忘れられないよ」




「なっ・・・!か、可愛っ・・・!」




「遠回りして、ごめんね」




「・・・・・・それは、お互い様ですから」




「ねえ、」




「何ですか?」




「キスしても、いい?」




そして、ふたつの唇は、想いは、




重なって、ひとつになる。




結局ゲロ甘ハッピーエンド!


(きっとこのすきの重さ、)

(天秤なんかじゃ量れない!)

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