XLIX:内側について


 私は、二人が想い合っていることを知っています。けれど私は、二人がその関係に答えを求めていないと考えています。どうしても私の中の瀬名先輩とお姉様は、倫理を犯す人間にはなりません。………事実には、さほど興味がありません。仮に二人が倫理を犯したとして、あの頃の私なら、きっと軽蔑したでしょう。ですが、例え二人が想い合うことが他の誰かを裏切る結果になろうとも、二人が私に向けてくれた優しさも愛情ゆえの厳しさも一緒に過ごした時間も、なかったことにはならないのです。
 私はKnightsのメンバーの前では、純粋な末っ子の面を強調します。まるで何も知らなかったあの頃のように。本来は既にその気配はほとんど失われているのにも関わらず、です。なぜでしょうか。そうすると、自分でもなぜだか安心するのです。
 
 瀬名先輩がお姉様を慕い、お姉様はレオさんと結婚されている身だからその想いには応えない。レオさんはお姉様に正しく向き合い、生きていく。それが、私が皆さんに向けて発信している、私の " 理想論 " です。

*

 アタシは、泉ちゃんがあの子のことをずっと、ずうっと好きで居続けていることを知ってるわ。あの子も、たぶん泉ちゃんを憎からず想ってる。でも、あの子が選んだのは王様だった。今でもよくわからないの。でも、アタシを含めてみーんな、二人が結婚するって聞いた時、嬉しかったし安心したのよ。でもね、アタシは知ってるの。結婚するって王様が口にして、アタシも含めてたぶんみんながあからさまに安堵の表情を表に出したわ。その時、あの子、微笑んだの。結婚の報告をした時でもなく、おめでとうと言われた時でもなく、あの子が笑ったのは、アタシたちが安堵したその瞬間だった。それがどういうことなのか、アタシはわかった。わかったからこそ、泉ちゃんにはあの子を攫って欲しいと思ってるの。いえ、………攫うべきだわ。

 泉ちゃんはあの子に恋をしている。あの子は泉ちゃんを選ぶべき。王さまのためにも。それが、アタシがみんなに向けて発信している、アタシの " 二人への祈り " よ。

*

 俺は、二人が不倫関係にあることを知ってる。セッちゃんは彼女が好きで、彼女もセッちゃんに揺らいだ。その理由ははっきりとはわからない。でも、王様との関係性だったり、王様への感情だったりに起因してるのは明白でしょ。一度は王様と結婚するって決めたんだから、彼女にはきちんと覚悟があったはずなんだよ。それを揺らがせたのは、他でもない王様とセッちゃん。婚姻関係にあるんだから、その責任を取るべきはセッちゃんじゃなく、王様であるべきだった。
 解せないのは、セッちゃんがいくらストーカー気質で粘着質だからって、いくらなんでも執着しすぎてること。つまり、結局のところは彼女も思わせぶりにセッちゃんから離れずにいるってこと。じゃあ、なんで彼女は王様と結婚したんだろう。なんでセッちゃんは、好きな人に不倫をさせて平気なんだろう。………なんで王様は、今になってようやく彼女に手を伸ばそうとしているんだろう。

 セッちゃんは、彼女を潔くあきらめるべき。解放してあげないと、このままじゃ彼女も王様もダメになる。……彼女はともかくとして、もう、王様が壊れるところは見たくないんだよ。それが、俺がみんなに向けて発信してる、俺の " セッちゃんへの気持ち " 。

*

 三人でテーブルを囲んで、楽譜を指さしながら歌声を確かめ合います。音程と音量、息継ぎ、声の伸びを。それと同時に、そうと知られぬように探り合います。一体誰が、どんなことを、どこまで知り、何を想っているのか。そんなことを考えながらおふたりと接するのはきっと、私自身に薄暗いところがあるからでしょう。そして、おふたりにも同じ気配を感じます。つまり、おふたりもそれぞれ、他のふたりが何かを探っていることに、気づいているはずなのです。けれど私たちは、直截に訊ねることはしません。声にしてしまったら、何かが終わってしまうような、もしくは何か恐ろしいことが始まってしまうような、そんな予感がするのです。
 二人と目が合い、何も知らないような顔で微笑みました。二人も同じように微笑んで応えてくれました。少なくとも私は、私だけは、最後までKnightsを形作る全ての味方でいたいと思っています。……嘘偽りなく。







次話
Main content




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -