XLII:写真の一葉



「アタシ、凛月ちゃんとは昔からどうしても意見が一致しないことがあって」
 鳴上先輩がわざとらしく、右手を頬に当てて嘆息しました。一方の凛月先輩はあらぬ方向に視線を飛ばしながら、眠たげに瞼を瞬かせています。
「もうこればっかりはしょうがないってば。ねえ、ス〜ちゃんもそう思うでしょ?」
 ふと、Leaderがお姉様との " 間違い探し " に失敗したことを口にした時のことを思い出しました。前後関係がはっきりとは分からない私に、Leaderは確かに申し訳なさそうな眼差しを向けて、瞼を伏せたのです。
 鳴上先輩がちらりと凛月先輩を見やります。二人の間の秘密について、私は介入していいものなのかどうかもわかりません。二人とも、私には核心を告げる気がないように見えるので、今日も私は曖昧に笑って、ほんの少しのさみしさを胸に、楽譜に目を落とすことにしました。


*


 アタシね、今でもやっぱり、あの頃から地続きとは言っても違和感があるのよ。何って、王様の隣にあの子がいること。王様にもあの子にも、他にピッタリの人がいたんじゃない?って思っちゃうの。余計なお世話? そうね。わかってる。それでもやっぱり、アタシは恋に夢を見てるのよ。だって二人とも、あの頃から、今だって、ぜーんぜん恋とか愛の気配がないんだもの。なんで付き合うことになったのかしら。いえ、確かにあの頃、王様はあの子を随分気にしていたとは思うのよ。あの子もあの子で、ほら、人のお世話をするの、好きな子じゃない?そういう意味では、王様はあの子の庇護欲の対象としては正しかったかもしれないけど。それでも、あの子が辛そうな顔をしてたり、何か普段と違う気配がする時、あの子を連れ出したのは泉ちゃんだったのよ。それで、あの子も、泉ちゃんのブレザーの裾をね、控えめに摘むのよ。その様がね、もう可愛くて可愛くて。泉ちゃんと二人でそっといなくなって戻ってくる頃、あの子は安心した顔をしていたの。時々目元が赤くなってた。どういうことかわかる? あの子の感情の発露は、泉ちゃんにだけ向けられていたのよ。

 アタシはね、凛月ちゃんが思っているような覚悟を、あの子が持っているとは思えないの。……凛月ちゃんがあの二人をどう分析しているのかは知らないけど、きっと凛月ちゃんは、あの二人の選択を肯定するわ。わかるわよ、そのくらい。だからこそ、アタシは今でもずっと信じてるのよ。泉ちゃんとあの子の二人なら、きっと幸せになれるって。だから泉ちゃんは早く、あの子を攫ってしまいなさいって。王様には悪いけど、ね。これくらいの未来、夢見てもいいでしょう?


*


 セッちゃんが彼女に惹かれていくところを割と近くで見てきた身として言うと、「ばかじゃないの」って思うよ。正直なことを言うと、実際王様と彼女が付き合ったことも一緒に暮らすことになったことも結婚したことも、まあ俺には関係ないんだよね。ただ、王様がそうするって決めて、彼女もそうするって決めて、それで最終的に法的な形式に則ったわけでしょ。そういう意味では、今の状態は明らかにルール違反だとは思ってる。セッちゃんが彼女に惹かれていくところを見てたけど、結局学院時代にセッちゃんは明確には動かなかった。それなのに、なんで今更? って。もう、Knightsを壊す訳にはいかないんだよ。そんなこと、セッちゃんが一番よくわかってたはずなのにね。ああ、彼女への牽制? でも俺、別に彼女を責める言い方はしなかったよ。……ちゃんと本心だってば。俺の予想ではね、セッちゃんに唆されなければ、不倫なんてリスクしかないことに彼女は足を踏み入れなかったはず。結婚するって決めたのは彼女なのに、揺さぶって、本来感じなくていいはずの罪悪感を植え付けて、セッちゃんは何がしたいんだろうね。ん? 俺は知ってるよ。彼女がセッちゃんと不倫してるってこと。ほかのメンバーはわかんないなあ。ナッちゃんも、セッちゃんが彼女を好きでい続けてることはわかってるけど、どうかな。今の状態のことは、薄々は勘づいてるかもしれないけど、やっぱりわかんない。

 セッちゃんは弁えた方がいいと思ってる。王様と彼女は夫婦なんだよ。セッちゃんが入り込まなければ、あの二人はあの二人なりに試行錯誤して着地点を見つけられたはず。だからさ、セッちゃんは身を引くべき。そう思うでしょ?それが " ルール " だよ。だから俺は、二人の「やり直し」を推奨してんの。




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