XL:網目の一目について


 二人の関係を、どういう言葉で表したら的確なのか、今でもわからない。手を繋ぐことも、腕を組むことも、肩が寄り添うこともない。ただそこにあって、そこにいて、時々衝動的に、時には義務感に駆られて体を繋げるだけの、何者でもない女。俺の中のそいつは、随分長いこと、そういう存在だった。

「間違い探しをしてみたらいいんじゃない」
 リッツが言う。神妙な表情でリッツと俺の顔を見比べるナルと、コーヒーカップに視線を落として視線だけでリッツを見たセナ。3人の様子を横目に、自分でも珍しく困惑した。
 昔からプライベートで集まることはほぼなかった。ちらほらと、時々誰ともなく集まることを提案するようになったのは、たぶんおれとセナが夢ノ咲を卒業したあとに、みんながフィレンツェまで来てからだったと思う。その頃はそれぞれ忙しかったし、物理的な距離もあったから会うことはほとんどなかったけど、それでも会う時間を作ろうと思うきっかけにはなった気がする。スオ〜はまだ来ない。集合時間を一人だけ遅く指定した。聞かれたくないという気持ちが先に来て、不意にあいつがスタジオにノートパソコンを届けに来た時の、スオ〜の言葉を思い出した。「きっとあの四人には、秘密があるんでしょうね」、確かにそう言ったのだ。さみしそうに、はっきりと。
「王様が間違ったこと、それをちゃんと見つけて、一つずつ向き合っていくしかないでしょ」
 リッツの口調は穏やかなのに、その提案はおれを責める響きにも聞こえた。そのことについて何も感じないでもなかったけど、おれは神妙な表情を見せることしか出来ずにいる。間違い探し、そして、スオ〜にも話を聞いてもらうべきだったんじゃないか、その2つのことが、頭の中をぐるぐると廻る。
「……そうなんだろうな」
 笑って言おうとしたはずなのに、その言葉はどうしてか悲壮な重さを持って空気に溶けた。窓の外は橙にぼんやりと包まれている。


*


 二人の関係について、あまりきちんと考えたことはなかった。少なくとも私は、特にレオでなければいけなかった理由も見当たらないまま付き合ったと自分に言い聞かせている。真実がどうあれ、だ。私はたぶん間違えたのだと思う。それでも、間違えた中にだって真実はある。他人が思うよりずっと複雑で、シンプルなのだ。

『今日はセナのとこ泊まってく』。会社を出て、満員電車で辛うじて掴まることのできた吊り革を握りながら、もう片方の手で携帯通信端末を握ってレオからのメッセージを見下ろした。このままでいることは出来ないのだと、ぼんやりと考える。レオの変化、瀬名先輩の変化、そして、私の変化。露呈に恐怖してみたり、あるいはほんの少し考えを変えてみたりはしたものの、結局のところ不安定でも同じ結果に行き着いてしまう。トンネルに入った電車の窓に、疲れた顔の私の顔が映った。強ばった表情と、そんな資格はないのに、もしかしたら泣いてしまいそうな顔をしている。
 自宅にレオがいない安堵と、レオと瀬名先輩が一緒に過ごすという妙な胸騒ぎが、心臓の鼓動を早くした。けれど同時に、私が、わたしたちが恐れていることは起きないという確信もある。なぜなら、レオが一緒に時間を過ごす相手は瀬名先輩だから。私は瀬名先輩を信頼している。一度目をぎゅっと瞑って、そうしてゆっくりと瞼を開けた。電車は緩やかにスピードを落として、自宅近くの駅のホームに滑り込んだ。




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