XXIII:月について



 朝、ここ連日の日課になったワイドショーの確認のためにテレビを点けた。リモコンを片手に、適当にチャンネルを変えていくつかのバラエティ色が強いニュース番組やワイドショー番組を眺める。
 画面に踊るKnightsの文字。不倫報道直後とは打って変わって、夢ノ咲で起きた様々な出来事の中でも消えなかったメンバーの絆だとか、俺とあいつの推測の域を出ない恋の話だとかが、反吐が出そうなくらい綺麗な言葉で飾り立てられている。
 雑誌類も同じようなものだった。Knightsが崩れそうな時、その再起、今に至る道。ずっと静かに俺の隣にいたあいつ。誰だか知らない自称関係者が「瀬名さんの看病をするなら、たぶん月永さんの奥さんが1番良かったんだと思います。メンバーが風邪を移されたら大変だと思いますし」という、失礼なコメントを残している。

 「俺に任せていい」と伝えたその翌日の夜、帰宅したらリビングのテーブルに綺麗な真っ白い便箋が1枚置かれていた。以前ライブイベントで作られて関係者に配られた、Knightsのロゴマークにある駒を立体にした手のひら大のオブジェを重しにした便箋。" レオへ " から始まるその手紙を、俺はこれまでにないほど丁寧に折り畳んで、そして手帳に挟んでいる。


*


 環境が落ち着きを取り戻し始めている。テレビ、ラジオ、週刊誌、インターネット。そのどれもが、Knightsのメンバーの歴史を振り返り、彼らに起きた様々な出来事の上辺を紹介しながら、解散せずに今日に至ったことを賞賛している。同時に、彼らが辛い時期に傍に寄り添っていたと形容される私に対しても、好意的な声が増え続けている。インターネット上ではワイドショーや週刊誌に対する疑念の声が上がっている。
 僅かに安心しながら、それでも手は震える。瀬名先輩のマンションを知っていて、かつ私が瀬名先輩の部屋に行ったと断定できる人物に心当たりがないのだ。私がマンションのほかの部屋を訪問したとも、住民であるとも考えられるはずだ。それでも、私が単独でマンションに入り、そして退出する写真が出回った。Xデーが近いのではないか。両手を胸の前で握った。それはちょうど、祈るような形になった。


*


 " 悪かった " と王様が口にした瞬間に胸に去来したのは、言い様のない情けなさだった。王様の曲は、歌は、これまでと変わらずいいものだった。それを受け止めて理解して伝えなければいけない自分たちの、その役割を改めて目の当たりにした。それでも俺は、俺たちは何も言えなかった。王様をただ1人、悪者にしてしまった。
少しずつ日常が戻る日々の中で、楽譜を見下ろして睨んだ。これまで通りじゃだめだという現実。事務所からはっきりと「下がりつつある売上にテコ入れする」と告げられた瞬間の焦燥感。これまでみんなを、俺をただ黙って受け入れてくれていたはずのレコーディングスタジオが牙を剥く。馴染んたはずの場所が、急に居心地悪くなった。

 ふと、左手が空を掴んだ。彼女に触れたい。王様に守られてしまった彼女に触れて、抱き締めたい。だって、これまでずっと彼女の心の一番近くにいたのは、俺だったはずだ。


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