][:愛について


 その言葉を聞いて真っ先に頭に思い浮かぶのは、いくつかのメロディだ。その次に浮かぶのは、Knights。ずっと親しんだそのロゴマークと、メンバー。俺の一部であり、俺の全てであり、俺の始まりでもある。だから俺は、伝える。愛してるぞ!と笑って言う。鬱陶しがる素振りに、少し照れくさそうな空気を隠す俺の仲間。"それ" について、俺は知っている。部屋に閉じこもって出られなかったあの時に、それでも俺に手を伸ばしたセナを想う。待っていてくれたナルとリッツを、泣きそうに宣戦布告したスオ〜を。それらを、俺は知っている。

 俺が愛と名付けたもの。俺はたぶん、愛することと愛されることを知っている。


*


 それについて、私が知っていることは多くない。私にとってそれはいつでも、与えるものだった。それを私の眼前に突きつけて、「それは愛だ」と定義した人物がいた。人から与えられるものに盲目になるのは、人間の特性だと思う。その人は違った。違ったからこそ、自分が私から受けたものを、あっさりと愛だと定義できたのだ。
 私が惹かれたのは、たぶんその一瞬の出来事に起因する。たぶん、惹かれたんだと思う。あのきらきらした学び舎で、苦難の底を知っているアイドルたちと向き合うために、自らに課した労働。その中にあって、私の中身を定義した人。「優しい」も「努力家」も「ワーカホリック」も、さほど響かなかった私の中に、波紋を作った人。

 それだけだった。それだけで良かった。その一瞬以外に、彼に求める事はなかった。ひとつも、望む必要はなかった。確かにあの瞬間、私の何かが満たされてしまった。たぶん、きっと、今になってそれを後悔しているとしても。


*


 その単語はとてもシンプルで、とても複雑だ。家族性、友人性、恋人性、すぐに思い浮かぶだけでも既に複数あって、その単語を一つ投げかけられただけでは、とてもじゃないが聴衆が満足する答えは提供できないだろう。
 だから俺は、いつも通りの口振りで、普段と同じ顔で言う。「ファンの皆さんが、俺たちに向けてくれる感情を、そう呼ぶんだと思います」そんなあまりにもつまらない答えにだって、俺を取り巻く大勢は笑みを浮かべる。
 ふと、彼女を想った。 "不特定多数のための俺" には興味のない、不器用で真摯な眼差しを湛える女性。変わらずにそこにあると錯覚していたのはいつだったか。いつの間にか、目まぐるしいほどのスピードで、他人の関知できない場所で、他の男と人生を結んだその人は、今なお遠くにいながら、それでも俺の隣に気配を残している。


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