I:世界について


 二人の関係を、どういう言葉で表したら的確なのか、もうわからない。手を繋ぐことも、腕を組むことも、肩が寄り添うこともない。ただそこにあって、そこにいて、時々衝動的に、時には義務感に駆られて体を繋げるだけの、何者でもない女。俺の中のそいつは、もうずっと、そういう存在だ。
 レコーディングスタジオのガラスの向こうでマイクに向かって歌うセナを見ながら、ソファに体重を預けた。 今朝、ナルから言われた言葉が思考のずっと外側をふわふわと所在無く巡っている。悪戯な表情を浮かべて笑うナルに悪気がないことくらい、よくわかっている。それでも、その言葉を向けられて俺が一番最初に感じたのは、言いようのない気持ち悪さだけだった。


*


 二人の関係について、あまりきちんと考えたことはない。少なくとも私は、特にレオでなければいけなかった理由も見当たらないまま付き合った。そして一緒に住んで、その内に将来を考えるならばきちんと考えた上でなんらかの結論を出さなければいけないと漠然と思う年齢に迫った。だからレオがつまらないテレビ番組を無表情で見つめながら、こちらをちらとも見ずに「籍を入れよう」と口にしたのを、どこか遠い国の何の縁もない人間に起こった出来事のように思いながら、機械的に受け入れた。
 一番聞かれて困る質問について、唐突にぼんやりと考えを巡らせる。二人で住むマンションの、それぞれに分けられた個室。そこでローテーブルに肘をついて、窓の外を眺めている。例えば、交際のきっかけ。例えば、結婚の経緯。例えば、今後の家族計画。例えば、二人の行く先。


次話
Main content




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -