ゴールドソーサーに向かうゴンドラの中。
高い位置から見える景色に、いつもなかなか見せない笑顔を見せて楽しそうにするクラウド。
それに向かって「子供だなー」などと言ったのはどこの誰だったか。
Child's heart
「次あれ!あれ乗ろうぜ!!」
いつの間にか園内の楽しげな雰囲気に乗せられ、まるで子供のようにはしゃぐザックスに手を引かれて、クラウドは苦笑しながら走った。
本当に18か?と思うような子供っぷりだが、こういう場で冷めているヤツよりはずっといいだろう。
でも。やっぱり。
「ザックス、ちょっとはしゃぎすぎだ!」
「おぅ!クラウドはもっとはしゃげ!」
一人で突っ走りそうなザックスに、恥ずかしいと言外に含めてそういうがまったく通じない。
それどころか、言い返されてしまった。
「………」
なにが『おぅ!』だか…。
そうは言われたものの、クラウド自身としては結構楽しんでいるのだ。
いつもよりも笑う回数は多いような気がする。多分。
「おっさん早くしろよ!もしかして、年でもう疲れたのか?」
ふと立ち止まって後ろを振り返ると、悠然と後を歩いてくるセフィロスに向かって揶揄うように言った。
空いたほうの手を腰に当て、ニヤリと笑う。
「全く…お前はまるで犬だな…」
「犬ぅ!?」
しかし、揶揄ったつもりが逆に揶揄われた。
「ホントにな…」
「な…クラウドまでっ」
さらにクラウドまでセフィロスの言葉に苦笑しながら同意を示す。
クラウドまでそんなこと言うなんて言われるなんて。
ザックスが、見るからに”ひでぇ”と言わんばかりの顔でクラウドを見た。
が。
「いや、冗談だよ…」
言いながらもクラウドの目はザックスを見ていない。
セフィロスはセフィロスでザックスに言われた言葉を意にもかけず、急ぐ気など全くないと言いたげにそのまま歩き続けて。
なんだか下手に口を出さない方がよかった感じだ。
おっさん呼ばわりがそんなにいけなかったのだろうか?
「ところでさ、ザックス。」
「…あん?」
「思わず手ぇ引かれて急いできたけど、”あれ”ってどれに乗る気だ?」
そういえば、と今更ながらに思い至って、尋ねた。
ちょっとイヤな予感と共に。
「ん?これ」
すぐそこに並ぶそれぞれへの入り口。
「まさか…ね?」
恐る恐るザックスの見上げたプレートを指し示して、どこか引きつった顔で振り返る。
「その、まさかだぜ?」
クラウドの指の先にある名前は”スピードスクウェア”
その先にあるのはシューティングコースターしかない。
やっぱり…?本気で……?
「いや、あの…」
返ってきた肯定の言葉に突然顔色を変え、口篭もる。
「おっ。もしかしてクラウド、怖いのか??」
「だから…っ」
「いいっていいって、俺が隣に乗ってやるから♪」
…そうじゃない!怖いとかそういうのじゃない……!
知っているくせに、浮かれているためか気づかないらしい。
クラウドも素直に言えばいいのに、下手な…いや、無駄なプライドが邪魔をする。
「何をしている。置いていくぞ」
いつの間にやら追いついたセフィロスが、2人を横目にそう言って歩いていく。行く先は分かっているのか。
歩くスピードもそのままに、アトラクションへ続くトンネルをくぐっていった。
「おっさん、そこ違う!」
「…なんだ、違うのか」
バトルスクウェアのプレートがあるトンネルから、なんでもないような顔をして戻って来た。
さりげなく、自己主張だろうか。
「セフィロス…」
なんともいえない表情でクラウドが思わずつぶやいた。
「ったくーわかんねぇなら、先歩くなよな?」
「…フン」
なぜかザックスが主導権を握り、気を取り直してスピードスクウェアに向かう。
途中で会話を切られたクラウドはそれ以上何も言い出せないまま、冷や汗をかいて。
「おねぇさん、3人ねー!」
笑顔で、受付のお姉さんに3本指を立てる。
それを聞いて、クラウドがザックスの袖を引っ張った。
「あの、ザックス…俺いいから…」
「何言ってんだ、大丈夫だって。怖くねぇから!」
そういった顔の、なんと爽やかなことか。
再度申し立てたクラウドの言葉を、ザックスがあっさりと一蹴。
いまだ思い当たることが出来ないザックスは、的外れなことを言っていた。
しかも絶対の自信を持って。
迷惑極まりない。
「いや、怖いとかじゃなく…ってちょっとこら、ザックス…っ!!」
「よーし乗るぞー!」
聞いていない。
(この浮かれバカザックス…っ!!)
普段より数倍増しされた強引さで、コースターへと引きずられる。
諦めるより他ないのか。
「…?あ、おっさん正宗置いとけよ?」
190cmを裕に超える身長よりもさらに長い愛刀を手に、そのまま乗り込んでいる。
当然、足元にも座席にも置くことが出来ない。
戦う必要のない今、ただの邪魔物だ。
というか、料金も払わないうちから乗り込んで。
(実はやる気満々か…?)
「別にかまわんだろう」
「…どこ置いとくんだよ。手使えなきゃ意味ないぜ」
このコースターは名前にもあるとおり、シューティングゲームを兼ねているのだ。
実際にコースターとは名ばかりで、そっちをメインとしているこの乗り物は絶叫系には程遠い。
ようするに、シューティングが出来なければ大して面白くもないということだが。
ザックスの言葉に、しぶしぶ荷物置き場に正宗を置く。
その顔は眉間にしわを寄せて、かなり不満そうだった。
セフィロスが前に、その後ろにザックス、ザックスの横にクラウドという位置で座る。
「シートベルトを閉めて、安全バーを下げてくださいねー。」
「はい、大丈夫ですねー。それでは出発しまーす」
みんな乗り込んだのを見て、安全を確認して。
係員のお兄さんが笑顔でコースターを出発させる。
「いってらっしゃーい!」
クラウドは、あんなに一日中笑顔を振りまいていて、顔が引きつったりしないのだろうかと、自分のおかれた状況すら棚に上げて感心する。
さっきから、ここのキャストの人たちの営業スマイルには恐れ入る。
自分はこういう仕事には絶対向かないな、と心の中でつぶやいて。
とにかく、今は酔わないためにゲームに専念しよう。
戦闘訓練で、狙撃訓練もした。
成績は結構いい方だったから、多少はやれるだろう。
「クラウド、あそこのUFO得点高いぞ!」
「え、どこ!?」
「あれあれ!!クラウドの右斜め上!」
ザックスが指差した方にそれを見つけて、発射口を向ける。
ピロピロピローーと、見事におもちゃな音を立ててレーザーが発射され、UFOが撃墜された。
標的が大きかったせいか、よく動く割にすぐに打ち落とすことができた。
そうする間にも、セフィロスはどんどん得点を稼いでいる。
が、ザックスはなんだか様子がおかしい。
突然、目元を押さえて下を向いた。
「ザックスどうした?」
「……おっさんの髪が…目に入った…」
結構痛いらしい。
涙目になっている。
確かに。
セフィロスは腰を越えて下肢まで伸びる髪の毛を、結びもせずにそのままにしていて。
スピードに乗せられ、それがものすごい勢いで靡いている。
いや、靡くなんて可愛いものではない。
そして、今もその髪はザックスを襲っている。
「おっさん、髪!!鬱陶しいんだよ!!」
周りの音に負けないように、ザックスが涙目のまま喚く。
後ろから聞こえた声に、セフィロスが振り返って、
「悪いが、あいにく俺は髪止めをもっていないのでな。」
それだけ言って、また前を向く。
セフィロスほどの長さがあれば、髪止めなどなくても自身の髪でまとめることができるはず…なのだが。
それに気づいていないのか、わざとなのか。
ザックスに構っていたクラウドは、結局無理やり意識の外に追いやっていた乗り物酔いに襲われ、ザックスはその後もやむ事のないセフィロスの纏わりつく長髪攻撃に襲われ。
なんの障害もなく、一人飛びぬけた得点をはじき出したセフィロスが、景品片手にほくそ笑んでいた。
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2003/8/17
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