2011年クリスマス企画 1

 絶賛準備中!



 年の瀬を迎える前に控えている一大イベント。ある人にとっては幸せなことであり、またある人にとっては辛い一日となる、天国と地獄が同居する日付けの名をクリスマスと言う。
 本来ならば神の子が生まれた事を祝福する日だが、そんなことは現代において関係無い。とにかく、馬鹿騒ぎ出来る日であるというのが大切なのである。
「お祭りなんだから、まずはトップから率先して、ってね」
 見渡す限りの常春を満喫しながら、目当ての人物がいるであろう方角へと足を向ける。綺麗な風景に綺麗なお姉さん。まさしくこの世のパラダイスに相応しい場所にありながら……というか、あるせいか、自堕落の体現者と成り果てている存在を今日こそ引きずり出してやろうではないか。
「今日和ー、ご主人様はご在宅です?」
 神殿前にいるニンフさんに話掛ければ、新米の人だったのか短い叫び声を発して神殿の奥へと駆けていってしまった。中途半端に出した行き場のない手が痛々しい。
「完全悪者って感じだなぁ……うーん、嫌味言われそう……」
 ため息をついても仕方ないと分かっているが、付かずにはいられない。そもそも神様である存在が、常春の世でまったりのんびり自堕落に耽っているということに問題があるのではないか。仮にもトップに立つ者が率先して動かぬから、中間管理職であるアノ人達にしわ寄せがいくのだ。繋がった眉が更に繋がってしまうような眉間の皺を思い出し、やはりこの計画は実行に移すしかないと重い足を動かす。
「中に居るのは分かってるのよ! 無駄な抵抗はやめて出てきなさーい!」
 わざとらしくヒールの踵を鳴らして歩けば、入り口で出会ったと思われるニンフさんにまた逃げられた。正直、可愛くて綺麗な人に逃げられるというのは心にグサリとくるものがある。ほんのり塩味の気持ちを噛みしめて、最深部へと続く扉を押し開けると眼前に広がるのは世の男性諸君の欲望を具現化したような光景。
「居たわね、自堕落一号」
 踏ん反りかえっている銀色の前で仁王立ちになり人差し指を突きつければ、竪琴を奏でる手が止まりニンフさん達が道を空ける。
「何用だクロノ――」
「沙希」
「……何用だ、沙希」
 言い直された呼称に笑みを浮かべつつ、手にしていた袋を視線の高さに持ち上げ前に突き出す。
「今日が何日か知ってる?」
「日付けなど」
「まぁ知らないと思うから言いに来てあげたんだけど、世間は十二月なの。師走なのよ」
 それがどうしたと言わんばかりに眉を顰めるタナトスに、袋の中から一つのアイテムを取りだして彼のいる上座へ続く段差を上る。
「だからね、はい」
 ぽすりと乾いた音を立ててタナトスの頭上に乗せたのは、赤に白いぼんぼんのついた三角帽子。事実を把握出来ず黙り込んだタナトスと、彼に向けられる微妙な視線が面白い。
「まだあるんだよー、えっと。これとこれと……」
 袋から取り出した数々の装飾に、傍目からでも分かるほどタナトスの機嫌が急降下していくのが分かる。だが、普段彼等が職務放棄していることによりしわ寄せに悩まされている冥界の人々の事を思えばなんのその。
「冥衣着たままでも全然構わないからね。むしろ翼とか出しておいてくれた方が引っかけやすいかも。って、どうしたのタナトス。美形が台無しな強面になってるよ」
「貴様、好きにさせておけば……」
 ヘッドパーツの側面にある羽部分に鈴の付いた星のオブジェを引っかければ、キラキラ光って以外と可愛い。これだから何を装備させても似合うイケメンは嫌なのだ。
「まぁまぁ怒らない怒らない。神様でしょ?  たまには脆弱な人間のお遊びに付き合うのも楽しいと思わない?」
 間近にある瞳を覗き込みながら問えば、透き通った銀の瞳が僅かに揺れる。自由気ままな神である存在に僅かであろうとも、己の意志以外の感情を与えるのはとても楽しい。まぁ、実際こんな無謀が許されるのは双子神と冥王のみだけれども。
「ほーら、いつまでも恐いオーラ出してないの。大事なニンフさん達逃げてっちゃったよ。気に入らないなら違う色のもあるから……って、何してるのタナトス」
 腰に回された手をペシリと叩き、中途半端に引っかかったサンタ帽を直す。タナトスは銀色だから赤が映えると眼を細め、そのまま背後に回した手で別の飾りを背の突起に引っかけた。冥衣は冥衣でも、双子神の纏うものは妙にキラキラしているから装飾が映える。早いところ動くクリスマスツリーを完成させねば、計画に支障が出てしまう。そのためなら少しのセクハラなど――。
「タナトス、随分面白い格好をしているではないか」
 背後から掛けられた声に、タナトスの纏う雰囲気が攻撃的なものへと変化する。人間の器を有する私から言わせて貰えば、攻撃的な小宇宙は冬場の静電気に匹敵するほど痛い。分かってて声を掛けるヒュプノスもヒュプノスだと思ったが、腐ってもこの二人は兄弟だったと認識を新たにした。
「今日和、自堕落二号さん。ご機嫌如何?」
「君の機嫌は悪いようだな、沙希。大方タナトスのせいであろう」
「俺のせいではない」
 悪戯を仕掛けたのは紛れもなく私だが、元を正せばエリシオンで悠々自適な生活を送っている二人が悪いのだ。少しは下々の辛さを体感すべきである。
「ヒュプノスも良いところに。あとでお邪魔しようと思ってたんだけど手間が省けちゃった」
 私の言葉にタナトスは口端を歪め、ヒュプノスは顔色一つ変えずに私達から一歩距離を取った。
「ちゃーんとヒュプノスの分も用意してあるから、心配しないでね」
 満面の笑みを貼り付け、手に装備するのはサンタ帽子。クリスマスの準備は、まだまだ始まったばかりである。
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