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この容姿があまり好きではなかった。昔から気味が悪いと陰でコソコソ言われたり、ひどい時には面と向かってなじられた。
最近知り合って、友人とも呼べるかの人は、私の髪も瞳も綺麗だと褒めてくれた。
だから私は、この美しい友人の為にも、彼女を本に返してやらなければならないと改めて強く思ったのだ。
「(大丈夫。きっとなんとかなるし、なんとかしてみせる)」
覚悟を決めて二葉ダムのほとりに立つ。嗚呼、先輩と出会った時もこんなだったな。
「白雪、貴女の想い人はここにはいないよ。ここは夜叉ヶ池でも剣ヶ峰でもない。剣ヶ峰の若様に逢いたいならどうか本の中へお帰りなさって!」
両手を平げて猛り狂う白雪を抱きしめる。途端に水にとらわれてごぼごぼと息ができくなって、思わず顔が歪んだ。でも、きっと白雪だって苦しいんだと思う。
「(続きを…物語の続きを…語らねば、進まない……)」
声が出なくても、それでもと必死に言葉を紡ぐ。
“皆さん、私が死にます。言い分はござんすまい。―――晃さん―――ご無事で―――晃さん。”
「(先輩―――貴方の大事な人達を、大切な平穏を…)」
美しい水のひれが尾を引いて、淡い燐光を発しながら本へと溶けていくのを傍目に、私の意識はブラックアウトしていった。


―――ねんねんよ、おころりよ、ねんねの守はどこへいた、山を越えて里へ行った、里の土産に何貰うた、でんでん太鼓に笙の笛…

真っ暗なところにいる。ひんやりとしていて音のない、上下左右もよくわからない場所だ。
一体ここはどこなのだろうか。水底にも似た雰囲気に薄ら寒ささえ覚える。白雪を本に返してから私はどうなったのだろう、まさか死んでしまったのだろうか。
ぼうっとしているとやがてどこからともなく見慣れた白いものが現れた。白うさぎだ。
ひょっこり現れたその子はついてこいと言わんばかりにぴょこぴょこと耳を揺らして歩いてゆく。
「あっ、待って」
後を必死に追いかけるけど、水の中を歩くようで中々前に進めない。見失いそうで見失わない距離は縮むことも広がることもなく、いつしか私はうさぎを追いかけることしか頭になかった。

でんでん太鼓に笙の笛、起上り小法師に風車―――


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