「リタ嬢、私がついて行く意味が特に見いだせないのだが」
しっかりとローブを掴んでいるところを見るに、ついていくのは決定事項らしい。
「はあ?さっきの術、明らかに展開式が違ったじゃない。間近で観察したいしそもそもあの黒いの、あんたの知り合いでしょ」
正論に対して反論する気が起きなかったのか、はたまた無駄な抵抗と知っての抗議だったのかアリシアはやれやれと肩をすくめただけでそれ以上何も言わなかった。

シャイコス遺跡は思っていたより随分と綺麗だった。遺跡と呼ばれるからにはそれなりの年月が経っているのだろうがそれを感じさせない白い石造りの“元”町は現存していたらそれだけで観光資源になりうるのではないか、とは身を守る術を当たり前に持つアリシアの感想である。
道すがらユーリから聞いた話によると、どうも魔核ドロボウの原因の一端は仕送りした金のようだ。アリシアは印税収入を得ている。しかし研究費用と生活費以外はどうせ使い道もないからとすべて箒星に―――ひいては下町に送っていたのだ。
それを今回調子の悪くなった水道魔導器の修理代として宛てがった(足りない分は下町の皆で出し合ったらしい)、しかし呼ばれたのは“貴族の魔道士モルディオ”だったようで魔核は盗まれ、追いかけたユーリはお城で優雅なひとときを過ごし城から抜け出すついでに、ユーリの友人であるフレンに危機を知らせたい貴族のお嬢様エステリーゼを連れ、さらに流れでギルドに所属しているらしいカロルを迎えここまで魔核ドロボウを追ってきたということらしい。
「それはそれは、私にも責任の一端があるわけだな。ならば魔核探しに私もついていくとしよう」
「おっ、天下の魔女が味方になってくれるたァ心強いね」
「また思ってもないことを…」
髪をかきあげながら呆れるアリシアをよそにエステリーゼはキラキラとした―――それはもう純粋無垢という言葉がふさわしいくらいに―――瞳を輝かせてアリシアは魔法使いなんです?と聞いてくるものだから、アリシアは隣の青年をひとにらみしてそれからにっこりと笑って無邪気な彼女に向き合った。
「もちろん。美しいお嬢さんをお姫様に変身させるのはいつだって不思議な魔法使いなのだからね」
ピンク色の髪を自身の長い指で掬い取ってさらりと流せば純真な少女は顔を真っ赤にさせていた。その様子に気をよくしたアリシアは横で呆れている青年も、妖しい雰囲気に飲まれ赤面している少年も、バカっぽいと鼻を鳴らす少女も、勝手にやっとけと言わんばかりにワフ、と吠えた犬も見なかったことにして満足そうに口角を上げた。
「ったく、遊びに来たんじゃないわよ」
機嫌のいいらしいアリシアはそんなリタにすら絡みにゆく。
「ふふっ、そう怒らないでくれたまえよma petite chatte(子猫ちゃん)」
ツイと指先で顎をなぞられたリタは色香を感じさせる切れ長の眼差しにムスリとする。
「だああああアンタは女を見たら誰彼構わず口説いて!聞いてるこっちが恥ずかしいってんのよ!」
おやヤキモチか、嬉しいねェなどと嘯きながら青いローブを翻して地下への階段を降りていく。どこか気品すら感じさせるアリシアの立ち居振る舞いを、少なくとも未だ熱冷めやらぬ少年と少女が気づくことはなかった。





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