「なっ、アリシア!?何でお前がここに…」 珍しく動揺するユーリに少女はお知り合いです?と可愛らしく小首をかしげた。 「まあな。それより、駆け落ちにしてはそちらの少年が気になるところだが…」 ユーリのかわりにアリシアが返事をして、ついでに疑問をぶつけた。 落ち着きを取り戻したのかユーリも、呆れたように駆け落ちじゃねぇよと突っ込む。 カロルは依然としてアリシアと呼ばれた女とユーリの関係性が掴めず互いの顔を交互に見比べていたしエステルはにこにことしていた。 「私、エステリーゼって言います。あなたがモルディオさんですか?」 「はじめまして、エステリーゼ。私はアリシア、アリシア・ド・ヴェルハーレンだ。モルディオは我が家主殿の家名さ」 こなれた様子でエステリーゼと握手をしながらさらりと爆弾を落とすアリシア。 「それで、家主殿に用があるのはわかったが下町の青年が貴族のお姫様と旅慣れた少年を連れて何の用だ?」 「ああ、それなんだがな…」 ユーリが口を開きかけたその時。 「………うるさい………」 地を這うような低い声に、その場の誰もが固まってしまう。 赤みを帯びた光を纏いながら展開されてゆく術式に誰もがこれは危ないと察知した。 「邪魔するやつは…ぶっ飛べ!!」 怒りとともに発せられるファイアボールにすかさずアリシアは水で対抗した。貴重な本を焼かれては堪らない。 爆風でフードが捲れ、褐色の髪を揺らした。見慣れぬ術式に驚いているリタに刀を突きつけるユーリ。 「んなっ!?アンタ…」 「お、女の子っ!?」 エステルはリタが年若い少女だということに驚く。面倒なことになったとアリシアは壁際まで退き呑気にも紅茶を飲みだした。 「こんだけやれりゃあ、帝都で会ったときも逃げる必要なかったのにな」 「はあ?逃げるって何よ。なんで、あたしが逃げなきゃなんないの?」 「そりゃ、帝都の下町から魔導器の魔核を盗んだからだ」 「いきなり、何?あたしがドロボウってこと?あんた、常識って言葉知ってる?」 「まあ、人並みには」 「勝手に家に上がり込んで、人をドロボウ呼ばわりした挙句、剣突きつけるのが人並みの常識!?」 もはや言葉のドッジボールを軽く超えて言葉の銃撃戦とでも評したほうがそろそろあっているのではないか、と優雅に紅茶を飲みながらアリシアは静観していたし、カロルは一触即発の雰囲気にハラハラしていた。 そんな中エステルは先程アリシアにしたように進み出て 「わたし、エステリーゼって言います。突然、こんな形でお邪魔してごめんなさい!……ほら、ユーリとカロルも」 とおっとりかつマイペースに話をはじめたので流石のリタも勢いが削がれたらしい。 「で、あんたらなに?」 落ち着きを取り戻したリタに紅茶を片手に近づく。 「下町の魔核が盗まれたものだから追いかけてきたようだ」 リタの咎めるような視線をよそに、ユーリに目で続きを、と促す。 「魔核ドロボウの特徴ってのが…マント!小柄!名前はモルディオ!だったんだよ」 「ふ〜ん、確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」 「だが、私の記憶する限りリタ嬢はここ数日間引きこもって研究に勤しんでいたが…なぁ?」 どうせそこまで疑ってはいないのだろうとユーリを見遣れば意地の悪い表情をしていた。 「……そういえば。……ああ、そういうこと。ついてきて」 何やら納得したらしいリタに皆で首をかしげる。 「協力要請にきた騎士から聞いたんだけど、シャイコス遺跡に盗賊団が現れたって話よ」 フレンだろうかと問うエステルにだな、と同意するユーリ。 決まりだろうかと傍観していればローブを引っぱられた。 「捕まる、逃げる、ついてくる。ど〜すんのかとっとと決めてくれない?」 …我が家主殿はたいそうご立腹のようである。ティーセットを消してからアリシアはもう一度ため息をついた。
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