始まり




アドリビトム。自由を意味する言葉。
そのギルドに我が国の次期国王が入団したのを王国客員剣士であるリオンが知ったのはつい最近の事。
今回の任務がそのギルドの近くの遺跡で行われる事になっており、そう書簡に記せば、是非とも入って欲しい、迎えの者を向かわすとの返答を貰い、些か面倒だと思いつつも次期国王の命令とあらば従わざるを得なかった。






「リオン、待って…」


早歩きで進むリオンの後ろを必死になって少女が追い掛ける。
少女の声にリオンは立ち止まると、振り向き冷たく言い放つ。


「遅い。言った筈だ。遅ければ置いていくと」
「うぅ…、そんな意地悪言わないでよ…」


半べそ状態で少女はリオンを見上げる。
追い付いた彼女にぶっきらぼうに鼻を鳴らした後、再び歩を進めた。
少女はリオンの部下兼幼馴染みのルナ・ミール。
今回の任務も付いて来たはいいが、彼女は何処か抜けている上に鈍い為、リオンは少しだけ苛立ちを感じていた。


「(意地悪だけど…ちょっとだけ遅くしてくれてる。リオンはやっぱり優しいな)」


不器用な彼なりの気遣いにこっそり笑みを浮かべるルナ。
内面ではとても優しい人なのだと、ルナは長い付き合い故にわかっていた。


「ありがとう、リオン」
「?なんだ急に」
「ん、なんとなく!」


さっきまで半べそかいてた奴が上機嫌でにこにこ笑っているのを目の当たりにしたリオンは訳がわからないと言いたげな顔でルナを見る。
しっかり後を付いてきているか確認しながら、遺跡の中へ足を踏み入れた。









捕らえるべき人物を奥の行き止まりまで追い詰め、投降するよう話を持ち掛ける。
ここで素直に観念して大人しく捕まっていれば特に何かしようとは思わなかったのに、


「どっからどー見ても女みてぇなナリしやがって!あんま俺様を嘗めんじゃねーぞ!」


この台詞で考えが改まった。
細い腕、女みたいなナリ。どれもリオンが抱いているコンプレックスであり、特に後者は最大級の禁句であった。傍で聞いていたルナの顔の血色が少しだけ悪くなる。
静かにキレたリオンは挑発的な台詞を述べ、それに頭悪くも乗ってきた巨体の大男に回し蹴りをお見舞いし、撃沈させた。


「(蹴った…あのリオンが蹴った…。よっぽどの事だったんだ…)」


後から遅れて登場したもう一人の部下に連行を任せ、通路で見ていた人物に不機嫌なまま問い掛ける。
ルナもきょとんとした顔で通路にいる男性を見つけ、驚きで小さく跳ねた。


「い、いつからいたんですかっ」
「えーと、追い詰めてた辺りから?」
「(気付け…)」
「…あ、ウッドロウ様が手紙に書いてたアドリビトムっていうギルドの…?」
「うん、そうだよ」


にこにこと微笑みながら男は二人に近付く。
改めて挨拶を交わそうとした所でリオンの口が開く。


「お前の実力を査定してやる」
「え」
「ちょ…リオン!」
「お前は黙っていろ」


鋭い眼光でルナを睨み冷たい声で言えば小さい体が余計縮こまり、テントのような物の中へ逃げる。
あそこなら戦闘の邪魔にもならないし巻き込まれる危険も無いとリオンは一息吐き、剣二本を構え直し、男に向かって走り出した。





およそ十分後、膝を付いたのはリオンの方だった。


「成る程…それなりの技量はあるようだな」
「(負けた癖に偉そう…)」
「僕はリオン・マグナス。ウッドロウの下で客員剣士をしている。…因みにあそこでコソコソ隠れている女は僕の部下だ」


忘れられていた自分の存在を明るみにされ、ルナはおずおずとテントの中から出てくる。


「リオンが睨むからじゃない…。えっと、ルナ・ミールと言います。リオンみたいに強くないけど、一応戦えます。こんな私でよければ宜しくお願いします」
「僕はアレン。宜しく」


リオンとは正反対に礼儀正しく挨拶し頭を下げたルナに、アレンと名乗った男は握手を求めるように手を差し伸べながら近付く。
しかし、アレンが一歩近付くとルナは顔を青ざめながら同じ歩幅分後ずさる。


「ひ…っ」


明らかに近付いてくるアレンに怯え、リオンの背に隠れるルナ。
自分は特に怖がらせるような外見ではない筈、と思ったアレンはただ疑問符を浮かべるだけ。
異常とでも言えるルナの反応にリオンは溜め息を吐き、おもむろに口を開く。


「コイツは男が苦手なんだ」


その台詞にアレンはパチパチと瞬きをする。
一方のルナはリオンのマントを握り締め、ガタガタと震えながらアレンを泣きそうな目で見つめている。


「苦手…?」
「ご、ゴメンなさい…貴方が悪い訳では無いんだけど…」
「…え、でも…リオンには近付けてるというか、触れてんじゃん。…あ、まさか、さっき連れてかれた人が言ってたように、実はリオンって女」
「よほど死にたいらしいな、貴様」


アレンの台詞を最後まで聞かずにリオンは剣を抜き、アレンに突き付けた。
今にも襲い掛かりそうな彼を止めようとルナが慌てて口を開く。


「り、リオンは確かに顔は綺麗で体細くて背も低いけど、ちゃんと男の子だよっ!」
「お前はフォローになってない!」
「痛っ!なんで叩くの!?」


本当に悪気なくただ事実を言っただけのルナは殴られた頭を擦る。
怒りの矛先が自分でなくなった事に安堵する反面、代わりとなった彼女が少し可哀想だと思ったアレン。
兎に角、こんな魔物がうじゃうじゃいる所から離れ、アドリビトムのアジトであるバンエルティア号へ二人を案内するのであった。

















リオンにハマってマイソロ3ハマって書きたいと思いました。



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