一人目攻略
それは突然沸き起こった。
ふと、今なら大丈夫じゃないかと思ったルナは目の前で勉強を教えてくれているルカを見つめる。
大きめな目で見られている事に気が付いたルカは鼓動が一回高鳴る。
「ど、どうしたの?どこかわからないところでもあった?」
「…ルカなら」
「え?」
「ルカ。隣、座っていい?」
「ええ?」
男性恐怖症であるルナ。
女のような見目であるルカに対しても例外ではなく、出来るだけ離れるよう机を挟んで向き合うように座り、教える時も触れないようにしていた。
それなのに突然の彼女からの申請。体が触れてしまう筈なのに隣に座ってもいいかと持ち掛けてきた。その事にルカは驚いた様子でルナを見る。
「でもルナ、前に怖がってたよね?」
「うーん…そうなんだけど…。自分でもわかんないけど、今なら大丈夫な気がして」
「そうなの?…あ、僕はその…構わないよ、隣に来ても」
そう言うなりルカは真ん中に座っていた体を横にずらす。
それを確認したルナは立ち上がり、ルカに近付く。
「……(大丈夫、…怖くない)」
「ルナ?無理しないでね」
「うん、ありがとう。えっと…、お邪魔…します」
ベンチタイプの椅子と机の間に体を差し入れ、ルカの隣に腰掛けるルナ。
ぴったりくっついてはおらず少しだけ隙間が空いており、ルナ自身も少し緊張している様子。
「大丈夫?ルナ」
「う、うん…。やっぱり大丈夫みたい。…少しだけ」
確かに最初の頃と比べると無理している様子は見られない。最初の頃は指摘する為に何気無く伸ばした腕にさえ反応して怯えていたのに、今は隣に来て腰掛けている。
「ルカ、続きやろ?」
「あ…、うん」
「あのね、これがわからないの。どうやったらこうなるの?」
ルナがわからないと言う例題を確認し、彼女にわかりやすいように書きながら説明する。一回で理解してもらえなければ教え方を変えて。
真剣に理解しようと取り組んでいるルナの期待を裏切らないようにルカは彼女が理解してくれるまで付き合う。
理解力が乏しいとリオンやキール辺りに呆れられて溜め息を吐かれ、最悪投げやりにされてしまう。
ルカは一切そんな事をしなかった。だからルナはつい彼に頼ってしまう。
「これをこうして…」
「……あ、そっか。つまり…こうなるの?」
「そうそう、その調子」
「となるとこっちも…」
浮かんだ答えを忘れないうちにペンを走らせる。
勉強に夢中になっている二人は気付いてないが、お互い無意識に距離が縮まっており、体の一部が触れている。
「………」
「ふ〜〜〜〜ん……?」
部屋の外、開いている扉の隙間から覗いている二つの影。
二人して不機嫌面を浮かべている。
「ちょっとリオン。ルナって男苦手じゃなかったっけ?」
「…その筈だが」
「なのに何よアレ。苦手な様子なんて無いじゃない。ルカはルカでデレデレしちゃってさぁ」
あ゛〜、なんかわかんないけどムカつくムカつくムカつくぅ!と喚き散らすイリア。
リオンはイリアと違って自分が何故腹立てているのかを把握しており、溜め息が零れた。
「嫉妬か」
自分の事は棚に上げ、そう指摘すればイリアはすぐさま噛みついてきた。
「はぁ?アンタバッカじゃないの?なーんであたしが嫉妬なんてするのよっ」
「ルナがルカに近付いてるから腹立っているんだろう。嫉妬以外の何がある」
「そんなんじゃないわよ!ルカのあの間抜け面が気に食わないだけ!」
弁明しているつもりらしいが、なってない事に気付いてないイリアを哀れむような目で見る。
なんでそんな目で見られなきゃいけないのかわからないイリアは目を吊り上げ、リオンを見下ろす。
「何よっ、アンタだっていつにも増して仏頂面じゃない。いつも男に怖がって傍に寄ってくる可愛い可愛いルナが他の男に近付いて悔しいんじゃないの?」
「っ!」
イリアの指摘は見事に当たっていた。リオンは自覚している分、その指摘に返す言葉が無く押し黙ってしまう。
図星を突かれ黙り込んだリオンにイリアは下卑た表情を浮かべる。
「あーらー?男が嫉妬だなんて醜い事。背が小さければ器も小さいわねぇ」
「黙れ、下衆女」
「なんですってぇ!?」
イリアの大声に気付いたルカとサチは扉の方を見る。
二人の目にはリオンに怒っている様子のイリアが映った。
何事かと思った二人は勉強を中断し、二人の間に入る。
「ストップストップ!何、イリアどうしたの?リオン、なんか言ったの?」
「…僕はただ事実を言ったまでだ」
「何が事実よ!」
「ま、まぁまぁ、イリア落ちつい…」
「大体ルカの所為なんだからね!」
「ええっ?僕!?」
完全に八つ当たりであるが、イリアに捲し立てられてるルカは弱冠涙目になる。
「イリアー。そんなに怒ったらルカが可哀想だよ」
「…うっさいわね」
不機嫌面のままルナを睨むイリア。一方のルナは何故イリアにそんな目で見られているのかわからない為ただ首を傾げるだけ。
ただ一人、事情を知っているリオンは特に何も言わず溜め息を吐いた。
「イリア…、なんでそんなに怒ってるの…」
「別に怒ってなんかないわよ。ちょっとイライラしてただけ。というかルナ。ルカに近付いて平気な訳?」
「あ…、うん!ルカなら平気!」
イリアの指摘にルナは明るい声で答える。リオン以外の男に怖がらなくなった事が嬉しいようだ。
リオンは嬉しそうに話すルナと傍で少し照れた様子のルカを面白くなさそうな顔で眺める。
「リオン!私、リオン以外の男の子に近付けたよ」
「…そうか」
「ルカって女の子っぽいから元々他の男の人より怖くなかったんだけどね」
「ええ!?そんなぁ…」
「ぶっ、あははははっ!!」
ルナの発言にルカは驚き、イリアはさっきまで不機嫌だったのが嘘かのように声を大にして笑った。
特におかしな事を言った覚えが無いと思い込んでいるルナは二人の反応に疑問符を浮かべた。ちなみにリオンは少しだけルカに同情した。
「んー、でも」
未だ笑い声を上げているイリアと半べそなルカを余所にルナはリオンの体に抱き付く。
突然の事に傍らで見ていた二人は目を丸くして驚き、当事者であるリオン本人は固まった。
「こうやってぎゅーって出来るのはリオンとジューダスだけなの。ね、リオン」
「っ!わかったから離れろ!」
「…素で出来るなんて凄いわ、ある意味」
「(いいなぁ…)」
同意を求めようとリオンの方を向けば、彼より背が低いルナは自然と上目遣いになってしまう。
突然抱き締められた事とその上目遣いを直に見てしまった事等でリオンは顔を瞬時に赤らめ、ルナの肩を掴み己から引き剥がした。
事の出来事を見ていた二人。イリアは少し羨ましく思いつつも呆れ、ルカは素直にリオンに対して羨ましく思った。
「多分、そのうちルカにも出来ると思うよ」
「え!?い、いいよルナ。ほら、別に抱き締める必要無い…、痛っ!」
「ルカの癖にデレデレすんじゃない!」
「イリア!ルカ叩いたらダメだよ!」
「うっさいわね!大体ルナ!あんたちょっと天然すぎるわよっ!」
わぁわぁと騒ぎ始めた三人を眺めるリオン。火照った顔を冷ますかのように手で扇ぎながら溜め息を吐いたであった。
ルカクリアしました。
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