輝く星の裏側
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『……んー、翔ちゃんの声はまっすぐだから、高音の那月くんのハモりに支えてもらった方が目立つと思うよ』
「それもそうだな。おい、那月はどう思……ってお前!なまえから離れろ!」
「あぁ、なまえちゃん!今日もちっちゃくてかわいいです!」
『あはは、ありがとう那月くん』
「なまえ!お前も笑ってないで拒めよ!」
『はっはー、翔ちゃん嫉妬?』
「なっ!ちげーよ!」
けらけら、と笑いながら、腕の中にあった温もりは消えていった。
からかっているけれど、翔ちゃんを見るなまえちゃんの表情を見れば、彼女が翔ちゃんのことを大好きなことくらい、僕にだってわかる。
その気持ちは、僕のこの気持ちとは違うものなのかな。
『あっ、それか那月くんの主旋律を多くして、翔ちゃんにハモってもらうのもいいかも』
「えっ、僕が主旋律ですか?」
「おお、いいじゃねーかそれ!」
『……那月くん?嫌だ?』
「………いえ…」
「さっきからあんまり意見言わねーな。どうしたんだ、那月?」
何でだろう。なまえちゃんの曲を、翔ちゃんとデュエットで歌えるのに。
僕は、ずっと気が晴れないまま、隣にあったぬいぐるみをもてあそんでいた。
『……気分転換しようか。紅茶いれてくるよ』
「そうだな!じゃあ俺も行」
「僕が行きます」
勝手に口が動いて、僕は何よりも自分に一番驚いた。
しどろもどろになりながら、もたつく口を動かして必死に言い訳をする。
「ぼっ、僕は、誰にも負けない紅茶を、作れる自信があります!」
「……確かに、紅茶は那月がいれた方がうまいもんな!」
『そうなんだ!じゃあ一緒にいれよう』
翔ちゃんの顔は曇りひとつない笑顔で、ふっと反らした先にあったなまえちゃんの顔も同じくらい楽しそうに笑っていて。
もやもやと沸き上がってくる黒い感情に気付かないふりをして、僕はなまえちゃんの後を追った。
『わぁ、たくさん茶葉がある』
楽しそうにそう言うなまえちゃんがかわいくて、抱きつこうとしたらするりとかわされてしまった。
『えーと、カップはこれ使っても……那月くん、どうかした?』
「………いいえ」
やっぱり、あなたは手に入らないんですか。
そう口をついて出ようとした言葉を、ぐっと抑えた。
何を考えてるんだ、僕は。
てきぱきと作業をするなまえちゃんの指はとても綺麗で、握りたくなった僕は一緒に紅茶をつくるふりをして手を触る。
そのときふと、彼女の細い指にはまっている指輪に気付いた。
シンプルな模様のついた、赤みがかった小さな指輪が、右手の薬指にちょこんと居座っている。
その指輪かわいいですね、と言おうとしたけれど、小さな違和感を覚えて、僕は口を閉ざしたまま翔ちゃんの元へと紅茶を運びに行った。
「はぁい翔ちゃん、お待たせしました」
「おう、悪いな」
そのカップを受け取る右手の薬指には、銀の指輪がはまっている。
……考えすぎだよね。なまえちゃんのしているものとは、色も違うし。
「……ん?な、何だよ」
「え?あ、その指輪、素敵だなぁと思ったんです」
「……ああ、ありがとな」
素直に本当のことをしゃべってしまった僕に、翔ちゃんは照れたように鼻をかいた。
その瞬間、手の甲の側から見える指輪の模様に、僕は目が離せなくなった。
それは、さっきなまえちゃんの指にはまっていたものと、同じもの。
「……おい、那月!?どうした!」
『…………え、なに……那月くん!?』
僕の思考がある考えに至ったとき、ふっと視界が歪んで、心配そうに僕に近づくなまえちゃんの姿を最後に、僕の意識は途切れた。