愛で染まる世界

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足音が聞こえてきた。
さく、さく、とリズムよく聞こえるその音は、少しずつ近付いて、一度止まった。
待ちきれなくて、わたしから近付いていく。





『ジャック』

「…!! なまえ!」



しゃがみこんでいたジャックは、わたしを見つけると花が咲いたような笑顔になった。





『……? 何をしているの?』

「あぁ、ええとね……なまえ、ちょっとこれを見てくれないかい」





ジャックが指差した先をしゃがんで覗くと、そこにはひとつだけ四つ葉のクローバーが咲いていた。





『……わぁ!四つ葉のクローバー!!』

「ふと見つけたから、なまえに届けてあげようと思ったんだけれどね。摘んだら、すぐに枯れてしまうだろう?」

『だから、しばらく立ち止まって悩んでたのね』

「……どうすればいいんだろう」

『………』

「…うーん……」

『……どうもしなくていい、このままにしときましょう』

「え?」

『…………』

「いいのかい?」

『ジャックと二人で見られたから、いいの』

「………」

『ん?』

「………君の、そういうところが、私は大好きなんだ」





不意に、わたしはジャックの腕に包まれた。優しく頭を撫でる彼に、心がぽかぽかしてくる。この瞬間が、とっても幸せ。





『ふふふ』

「……? 何かおかしいかい?」

『………四つ葉のクローバーは、幸せを運ぶのよね』

「そうだね」

『でも、いつもわたしに幸せを運んでくれるのは、ジャックなの』

「……!!」

『それがおかしくて。わたしには四つ葉のクローバーは必要ないのね』

「……なまえ」

『ん、何……』





顎に手をかけられた、と思ったら、ジャックの唇がわたしのそれを塞いでいた。





「ん……」

『……、ちょ、ジャック』

「……何だい?」

『こ、ここでは、嫌』

「どうして?」

『だって、外、だし』

「私は別に構わないよ」

『わたしが嫌なの!』

「………」

『んっ! だ、だから、嫌だって……』

「……あはは、顔が真っ赤だよ、なまえ」

『……!!!』

「からかいすぎたね。ごめんよ、なまえがかわいくて、つい」

『な…!』





少し顔を赤らめながら、ジャックが笑った。この笑顔は、わたしの嫌なことも辛いことも、全てを洗い流してくれる。心に幸せな気持ちが溢れて、大好きなジャックがわたしを見て笑っているのがたまらなく嬉しくて、奇跡のような時間だと思う。





『ジャック……』

「何だい?」

『部屋、行こう』

「……え?」

『言ったでしょう、ここは嫌だって』

「……そ、それって」

『………な、何度も言わせないで』





ジャックの手を取って、赤くなっているであろう自分の顔を見せないように、わたしは早歩きをした。それさえも見透かされているようで、後ろからくすくすとジャックが小さく笑っているのが聞こえる。仕返しに、腕を引き寄せて一瞬だけ唇に触れてみると、ジャックの顔は瞬く間に赤く染まった。
それを見て満足したわたしは、もう一度彼の手を引いて歩き出した。








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