紡がれた思い出は、いつも木漏れ日の中
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※永遠の時間のオズサイドです
暇だなぁ。
オスカー叔父さんは仕事でいないし、遊び道具もない。この大きな屋敷は、だだっ広いだけでつまらない、オレにとってただの牢獄と同じだった。
「はい、坊っちゃん。今日はいつもと違う香りにしてみました」
ギルに渡された湯気の立つティーカップを片手に、本のページをめくる。いつか父さんに認めてもらうために、と勉強しているけれど、最近は本当に認めてくれるのかどうか、疑問に思うことがある。
「本当に坊っちゃんは勉強熱心ですね」
「………」
「……?坊っちゃん?」
「……何でもない。それよりギル、お前オレが勉強してるときはいつも何してるんだ?」
「何って……坊っちゃんのサポートです!」
何の迷いもなくそう答えるギルに、オレは思い切り顔を歪ませた。
思えば、オレが本を読んでいるとき、視線を感じるときがある。あまり気にはならなかったけど、あれはきっとギルだったんだ。
つまり、ギルもオレに合わせて暇な時間を過ごしていたというわけで。
そう考えたら、勉強が手につかなくなった。
「………よしギル!もう今日は勉強やめる!遊ぶぞ!」
「ええ!?」
「まずはエイダを探しに行く!」
ぱっとギルの腕を掴んで、全力で走る。ギルは弱気な声を出しながら、一生懸命ついてきた。
名前を呼びながら走るが、エイダの姿はない。もしかしたら、部屋に籠って勉強させれているのかもしれない。
特に行くあてもなくなって、オレは庭にある大きな木が作った影に吸い寄せられるようになだれこみ、そのまま大の字になった。
「ぼ、坊っちゃん!服が汚れま………っ!?」
「いいんだよたまには。おっ、ダイナ。こんなところにいたんだな」
怯えた表情でダイナを見るギルに、これか?と笑ってダイナを向ければ、ギルの顔がもっと青ざめた。楽しくなってきて、もっといじめてやろう、とオレがギルに向かって腕を伸ばしたそのとき。
「あっ、ダイナ!」
するりと手から抜け出して、ダイナは瞬く間に消えてしまった。
「大変だ!探しにいくぞ、ギル!」
「えっ!大丈夫ですよ、そのうち戻ってきますって!」
「でも、これから部屋に戻っても、どうせやることないだろ?それに、ダイナがいればお前をからかって遊べるしな!」
わざと満面の笑みでそう言ってやると、ふにゃりと顔を歪めたが、そんなのは嫌です、と言いながら草を掻き分けているギルを見て、笑顔がこぼれた。
「おーい、ダイナー!」
「でっ、出てきてくださーい!」
ダイナのお気に入りの場所にも行ったが、見当たらない。
本当に、どこにいったんだろう。
『な、何するのっ離して!』
不意に、女の子の声が聞こえてきた。何か困ってるみたいだ。
いきなり駆け出したオレの背中に、ギルの慌てた声がかかったが、気にせずに声の方へと向かう。
確か、この辺で聞こえたはずだけど。
辺りを見回すと、ダイナの尻尾が塀の向こうから伸びているのが見えて、オレは思わず駆け寄った。
「はあ、はあ……ダイナ、こんなところにいたのか!………あれ、君は…?」
これが、オレとなまえの最初の出逢いだった。