紡がれた思い出は、いつも木漏れ日の中
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門にいた彼女は、どうやらダイナにポーチを壊されてしまったらしい。
珍しいものを見るかのような視線をオレに向けている彼女に、ついてきて、と声を掛けて、オレは客間へと案内した。
「ちょっと待っててね。ギル、来い」
目をぱちぱちさせている彼女にそう言い残して、オレはギルと一緒にポーチを取りに行った。
贈り物だと言われて、腐るほどポーチや鞄を持ってはいるものの、外に出る機会がないため全くと言っていいほど使っていない。これなら、彼女みたいに使ってくれる人の手にあった方がよっぽど有意義だ。
そう思って、ありったけのポーチを抱えて部屋に戻ってきたのだが。
『こ、こんなのもらえない』
ふるふる、と緩く首を横に振って、彼女はそう答えた。
「え、どうしてさ」
「失礼ながら坊っちゃん、いくらお礼とはいえこのようなものはさすがに……」
「うるさいぞギル」
ダイナを向けると、何も言えずに涙目になったギルに、こんなものオレが持ってたって意味ないだろ、と言おうとしてやめた。
彼女の前でそんなことを言ったって、受け取る気がないんだったら、意味がない。
「んー、どうしよっかな。これもらってくれないんなら………お菓子はどう?」
机に飾られたバスケットを指差すと、彼女はこくんこくんと頷いて、中のお菓子を引っ付かんでポーチに入れた。だが、破けているポーチがお菓子を支えきれるはずもなく、ばらばらとそのまま落ちていき、派手な音がオレたちを包んだ。
『……!』
「………ふ、あははは!いいよ、そのバスケットごと持ってきなよ」
『あっ、あのっありっ、ありがとうございます!』
何を慌てているのか、ぺこぺこと頭を下げながら、彼女はバスケットを手に取って屋敷を出ていった。
「あははっ。面白い子だったね」
「びっくりしました」
「………そんなにここは、子供にとって居心地の悪いところなのかな」
「えっ?」
「何でもないよ。それよりギル、ポーチ直すから手伝え!」
腕に持てるだけ持って、何度も廊下を往復する。やっと全部移動し終えて、オレはへとへとになりながらギルと並んで歩いていた。
「……ギル、今日の子、名前聞いた?」
「いいえ。聞いてません」
「そっかー。聞けばよかったなー」
今思えば、初めて友達になれたかもしれなかった子なのに。貴族とか、階級とか、何のしがらみもない、ただの友達。そんな存在が、オレのまわりにはいないから。
不意に、大きな影がオレを覆った。考え事をしていてどこかに行っていた意識が、ぐん、と戻ってきて、影を作った目の前の人物が、はっきりとオレの瞳にうつった。
「………父さん」