満月の夜のシンデレラ〜moonfesta〜

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とある満月の夜のことです。
貴族の社交会として、ダンスパーティーが行われました。噂ではあの四大公爵家の皆様も訪れるとか。
その豪華なパーティーに、混ざるはずのない人物が、紛れ込んでいました。


わたしの名は、なまえ。
外からパーティー会場を覗いていたら名前を聞かれたので、そう名乗った少女。
その名前は、偶然にも到着が遅れているある貴族の令嬢と同じだったのです。





『(ど、どうしよう)』





平凡な少女は、慣れない服に身を包まれ、いきなりきらびやかな世界に放り込まれてしまいました。
ですが、そんなことなど知るわけもない貴族の皆様は、当たり前のように少女に挨拶をします。





『(もしかしてわたし、実は貴族の子供なのかも!)』





そんな錯覚を起こさせるほどの、夢のような時間。自然と、少女のふるまいも上品でおしとやかになって、もう綺麗な令嬢にしか見えません。

素敵なそのひとときを楽しんでいる少女の前に、すっと差し出された手。





「なまえさん、俺と踊っていただけますか」

『喜んで!』





彼の手を取った瞬間、ざわめきが起こりました。ですが、それも気にならないほど、少女は彼に釘付けでした。
自分と同じくらいの歳なのに、純白のタキシードがとてもよく似合っている彼は、夢に見た白馬の王子様そのものでした。

シャンデリアに照らされた二人は、まるでどこかの王子様とお姫様。
くるくると回る。まわりも祝福してくれているように感じながら。
ステップなんて気にもならないほど、華麗に、綺麗に。踵を鳴らしながら踊る。


このまま、夢が覚めなければいいのに。


願いは口にしなければ叶う、と聞いたことがあった少女は、いくらそう思っても口には出しません。
しなやかな金髪と透き通る緑色の目を持つ彼が誰かはわからないけれど。
楽しいはずなのに何故か心から楽しめないけれど。
口に出さなければ終わらないから、少女は何も言いません。


満月の下、一緒に踊っている彼を見れば、眩しいほどの笑顔。
初めて着た黄色いドレス。初めて履いた、羽根のように軽いヒールの靴。
そのどれもが、この暗闇の中でも少女を輝かせています。

この、素敵な王子様との素晴らしい未来を夢見る少女のステップが、止まることはありません。
ですが。





「さぁ、お家に帰るんだ」





彼のこの一言で、夢は覚めてしまったのです。






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