[君の世界に愛は満ちて](ユキアカ)





赤也は最初、俺のこと凄く嫌いだったんだって。
まぁ出会っていきなりテニスで滅多打ちにされたら嫌いにもなるよね、まるで何処かの誰かさんみたいに。
2年の初めの頃は同じレギュラーなのに目すら合わせてくれなくて、話しかけたら身構えられるし。何か頑張って威嚇する猫みたいな雰囲気でそれはそれで可愛かったんだけどね。
俺はその頃から好きだったよ。今みたいに付き合いたいって感じではないけど、他の子とは違うなって思ってて。
ああ見えて頑張り屋さんだし、口に出したことは意地でもやり遂げようとするし、そのくせ自分の興味が無いことにはとことん興味無いし。だから俺と赤也ってテニス以外で共通の話題無いんだよね、それがまた良いんだけど。新しい物事を知るって意味でね。

俺が赤也を今みたいに好きになったのは入院した頃かな。ほら春くらいの検査入院の時、あれ結構長引いたでしょ。
あの頃さ、俺凄く怖かったんだよね。初めは10分かそこらで元通り動けたのに、その頃になると身体が凄く重くてろくに立てなくなったりすることもあってさ。
みんなと会ってたのは比較的調子が良い時だけで、他の時は検査とかリハビリとか言って逃げてたんだよ。本当はね。
ナースの人たちにはそれが何か健気とか思いやりがあるみたいに見えてたらしいけど、単なる現実逃避だよね。
バッグの中でラケット同士がぶつかる音とか、土で汚れたスニーカーとか、確実に日付が進んでる日誌とかを見る度、俺はみんなに憎悪の念を抱いていたよ。テニス出来るって良いな、普通に生きてるって良いなって。
勿論病気になったのは俺の身体の勝手であって、みんなを憎たらしく思うなんて随分と御門違いな話だと思うよ。でもね、身体が病気になると心まで蝕まれるんだよね。
全身が濁ったように不透明で、愚鈍で、腐敗してて。俺は普通に打ってるつもりなのに、あんなテニスになる理由もそこにあるんじゃないかなって。
多分俺、人として最悪な思考回路してるんだと思う。物事の悪いところばっかり目につくし、どう言ったら人が一番嫌がるか分かるし。だから気を付けてたんだよね、人を批判しないようにって。
でもテニスの時だけはつい言っちゃうんだよね。まぁそれがあったから、今まで俺はまともに生きてこれたんだと思うんだけど。
……ところでさ、何で俺今こんな話出来てると思う? 一番付き合いの長い君に、どうして俺があの時辛かったって言えなかったか、分かる?
…そうだね、一番付き合いが長いからだね。
君に弱味を見せるのは俺のプライドが許さなかった。お互い何もかも知ってるからこそ、俺は君に本当のことを言わなかった。俺は、『皇帝』より強い『神の子』だからね。
まぁあの時いきなり殴ってきた君には、充分理解してくれてる話だと思うけど。ねぇ、真田?

話を戻そうか。あの入院してる時、俺の誕生日があったろ。
3月5日。君たちは俺の家族に遠慮してくれて、6日に祝ってくれた。でも、赤也は5日に来てくれた、その事は君も知ってるよね。
そうそう、あの鉢植え持ってきてくれたこと。しかも君は知らないだろうけどさ、あれ、ホームセンターのレジ袋に入ってたんだよ。ラッピングとか一切無しのあのままで。
それでさ、赤也が来たことと鉢植えのプレゼントで俺ちょっと笑っちゃったんだよね。なんか、夢みたいで。
だったら赤也怒って出て行こうとしたんだよ。まぁ当たり前だよねぇ、わざわざ誕生日に4駅離れた病院まで来てプレゼントあげたのに噴き出したりしたら。
それで俺、慌てて赤也の腕掴んだんだ。だったら赤也ってばいきなり「オレ、部長のこと嫌いでした」って言い出すんだよ。もう意味分かんないけど、取り敢えず話を聞いてみたんだ。だったら、赤也、凄かったんだよね。
部長人好きじゃないでしょ、って。嫌い、じゃなくて、「好きじゃない」ってのが凄いなぁって俺思わず感心しちゃったよ。
それであまりにもご名答って感じだったから、俺ちょっと黙り込んじゃったんだよね。だったら赤也、俺が今まで思ってたこと全部言ってきたんだよ。
みんなが慕ってくれてるのにアンタは誰のことにも興味がない。そのくせ人に嫌われないようにきちんと言葉とか行動とかを選んでる。結局アンタは何でそんなに人が『好きじゃない』のかって。
アンタは俺が出来ないことが出来てて、俺に無いものを全部持ってる。それで居て1人の方が良いとか憎たらしいし、羨ましいとも言ってたんだ。その時俺、あぁって気付いたんだ。赤也と俺って似てるな、って。

真田は不思議に思わなかった? 昼休みに赤也がわざわざ3年の教室まで来てご飯食べたり、休みの日もブン太達と遊んでること。何か変じゃない?
…まぁ君もその辺では似たようなものだからいまいち分からないかもね。じゃあ、質問を変えようか。
君には立海で先輩か後輩の友達は居るかい? 居ないだろうね、知ってるよ。つまりそういうことさ。
普通の子だったら同学年同士で仲良くなる。でも赤也は明るくて俺達より遥かに人付き合いも良い筈なのに、同級生と付き合いがあるようには見えない。それで赤也と同じ小学校の子とかクラスの子に聞いてみたら、どうも赤也には同じ年の友達居ないらしいんだよね。
何でも小学校の頃は赤目が過ぎて学校一の問題児扱い、だからテニス始めるまでずっと1人。テニス始めても仲良くなれたのは同じスクールのおじさん達ぐらい。この状況、どっかで見たことない?
……俺だよ。俺も赤也も小さい頃からずっと1人だった。自分と周囲との違和感が埋まらないまま今まで生きてきた。
俺はそれでも良かった。昔から人が産み出すものとか自然とかにしか興味が湧かなかったからね。でも、赤也は人から好かれたいって思いがあった分、俺より辛かったと思うよ。だから、俺のこと余計に妬ましくて嫌いだったんだって。
それ聞いてさ、俺すっごく赤也のこと好きになっちゃったんだよね。何て言うか凄くいじらしくて、健気だなって。
それと同時にさ、俺以上に俺のことを理解してくれてるのって、もうこの世界には赤也しか居ないなって実感したんだよね。だってみんなから勝手に恐怖なり畏怖なり持たれて距離取られてずっと過ごしてきた感覚って、他の人には細部まで理解できないと思うよ。
君みたいに小さい頃から近くに居たとしても、俺と赤也が見てきた世界は絶対に分からない。今更分かって欲しいとも思わない。俺の世界には赤也さえ居てくれれば成立するって、今では思ってるぐらいだよ。

それで、その誕生日の日から俺、病気に絶対負けたくないって思うようになったんだ。
さっき言ったろ、俺と赤也に共通するのはテニスしかないって。俺も赤也もテニスが無ければここまで真っ当に生きてこれなかった、出逢うこともなかった、ずっと1人ぼっちのままだった。
もし、俺がテニスを辞めたら、赤也はまた1人に戻ってしまう。俺は、それを絶対に避けたかった。いや違うか、俺が赤也のことを絶対に手放したくなかった、つまりは俺のエゴイズムだよ。おかしいよね、分かってるよ。
……だから、手術してもテニスは無理だろうって医者が話してるのを聞いた時、俺は絶望した。赤也と俺を、俺の世界を繋ぐ糸が、切れて見えなくなった。そして忘れていた筈の恐怖が、俺の中でまた蠢き始めた。
日に日に重くなる身体、動かなくなる手足。それでも手術さえすれば、俺は絶対に赤也が居るコートへ戻れる。いや、戻らなくちゃならない。そう思ってひたすら耐えてきたのに、治らないなんて、信じたくなかった。
汚い話だけどさ、俺その夜食べた物戻したんだよね。
それまでいくら検査受けても薬飲んでも吐き気なんて催したことすらなかったのに、胃酸で喉が爛れるまでひたすら吐いた。吐いたって俺が治らないかも知れないっていう現実が変わる訳でもないのにね。
手術の日取りももう決まってるっていうのに体調は最悪。唯一の救いは君達が関東大会を順調に勝ち進んでることだけだった。
俺は、君達が約束を果たせば、手術が成功してまた元通りテニスが出来るようになると考え直すことにした。今思うと、ただに何かに縋り付きたかっただけなんだろうなって分かるけど、その時の俺はそう思い込まないと自分で自分を殺したくなるぐらい追い詰められてた。君達からすれば傍迷惑な話だよね、分かるよ。

でも、君達は負けた。蓮二は下らない情に流されて冷静さを失った。赤也はまだまだ未熟だった。そして君はこの期に及んで勝負と勝利の違いを分かっていなかった。
それを聞いて、俺の希望は無惨にも打ち砕かれた。俺は再び目の前が真っ暗になる。そして思ったんだ、『俺を救い出せるのは俺しか居ない』と。ある意味で君達への復讐心が芽生えたと言っても良かったかな、どう考えても完全に八つ当たりなんだけどね。
許可が出たその日から俺の全エネルギーはリハビリに費やされた。最初は昼間にやってたけど少しやっただけで医者がすぐ飛んでくるから、夜に練習するようになった。病院の駐車場とか近くの公園に行ったりしてね。
時々、夜に寝るとそのまま起き上がれなくなるってイメージが頭から離れなくなって、朝まで夜通し練習した日もあったよ。休まないと筋肉が成長出来ないって頭では分かってるのに、身体が言う事を聞いてくれなかったって感じかな。
でもね、不思議だったのはそれだけ身体を酷使してるのに疲れは全然感じなかったんだ。ナチュラルハイって奴だったんだろうね。
その頃俺の頭にあったのは、『絶対コートに戻る』ってことと『俺は常に勝者として存在しなければならない』って思いだけだった。
敗者となってしまった君達への復讐として、俺は勝者であり続けねばならない。絶対的な王者として君臨すること、それこそが『神の子』と称される俺の誇りであり存在意義であり、何より俺自身を救う唯一の方法だと思っていた。

……でも、俺は負けた。テニスを楽しむ彼に、負けた。
それは俺にとって存在することすら否定されたに等しかった。だって、俺テニスを楽しいだなんて思ったこと、一度も無かったんだから。
テニスとは俺自身、俺の人生、俺の全て。楽しいとか楽しくないとかそんなの関係無いものだった。だから、もうどうしていいか分からなかった。
そうやって立ち尽くしてる俺へ、最初に声掛けたの誰だか覚えてる? 実はね、赤也なんだよ。
消え入りそうな声で、部長、って一言だけだったんだけど、顔上げて見たら泣いてたんだよね。負けたの、俺なのに。
その瞬間さ、俺なんか全部どうでも良くなっちゃったんだよね。憑き物が落ちたって言うのかな、何でこんな『たかが1試合』に執心してたのかなって。
手術は成功して、リハビリも上手くいって、テニスも元通りに出来るようになって、別に勝ちに拘らなくても良かったんじゃんって思ったんだよねぇ。
そうなると俺が今まで戦ってきたのって、自分が勝手に作り出した恐怖って言う幻だったってことになるんだよね。それって、俺が今まで好きになれなかった奴らと一緒じゃんって気付いて。
結局俺も大多数の人間の一人に過ぎないって知って、なんか、今までプライドだの誇りだの思ってたのがどうでも良くなったんだよね。でもまぁ負けるのは相変わらず嫌いだから、試合で手加減しようとかは微塵も思わないけど。
そういう意味では俺を負かしたあのボウヤに感謝すらしてるよ。彼に負けなかったら俺は以前のまま、自分が特別な人間だと思ってたかも知れないからね。まぁ正直今でも君達以外の人からの扱いは変わってないから、それはそれで微妙な気分なんだけどね。

それでさ、その帰りに俺赤也と一緒に帰ってたんだよね。
会話する訳でもなく、どっか寄ろうって訳でもなく、普通に歩いて電車に乗ってまた歩いて。ずっと無言のまま2人で帰ってた訳。
それで赤也の家の近くになったから振り返ってみたらさ、なんか知らないけど赤也も立ち止まって俺のこと見てたんだよ。そこそこ人通り多い交差点でさ、俺と赤也の2人だけが立ち尽くして見つめ合ってるんだよ。正直邪魔だったろうね。
で、俺その時赤也が帰るんだろうなって思ったから、気を付けてねって言ったんだよ。だったら赤也「俺家まで送りますよ」って。えって思ってたら赤也横断歩道渡っちゃってさ。
仕方ないから後追いかけて何でって聞いたんだよ。赤也も試合して疲れてるだろうから早く帰りなって言ったんだけど、俺を家に送るまで帰らないって言い切られちゃって。その交差点から俺の家まで、軽く30分は掛かるのにね。
でも赤也も一度言い出したら頑固なのは知ってたから、まぁいいかと思ってまた歩き始めたんだよね。そしたらまた赤也無言で着いてくるだけでさ、流石に俺も少し困っちゃったんだよね。なんで何かする訳でもないのに、着いてくるんだろうって。
それからどのぐらい歩いたかなぁ。街抜けて海が見えてきた頃だから10分ぐらい進んだぐらいかな、いきなり後ろ歩いてた赤也が俺の横に並んだんだ。歩道に俺達しか居なくなったからかなって思ったんだけど、どうもそうじゃなかったみたいなんだよね。
幸村部長、って話し掛けられて、何?って返したら、すっごい真剣な目で俺のこと見たんだよ。それでね、何て言ったと思う?

「いつか、絶対にアンタを倒して、オレがナンバーワンになってみせます。」

…何か俺、その瞬間すっごい幸せだって思えたんだよね。
『いつか』っていう未来を望めることが出来るようになったこととか、赤也とまた同じ世界で生きられるってこととか。色んなことがもう本当に嬉しくて、嬉しくて。
気が付いたら俺、泣いてたんだよね。止めようと思ったんだけど、何で泣いてるのか考え始めたら、もう止まんなくなっちゃって。
さっき言ったみたいな嬉しさも勿論あったんだけど、何でボウヤに負けたんだろう、何で勝てなかったんだろうっていう悔しさも混ざってきてね。もうずうっと泣いてるんだよ、この俺がさ。
それでね、赤也は初めちょっとおろおろしてたんだけど、俺が赤也のせいじゃないよって頑張って笑って見せたら、嘘つかないでください!って怒り出しちゃってさぁ。
俺はアンタが笑わないぐらいで不安になったりとか怖いと思ったりとかしない。泣きたかったら泣けばいいでしょ。大体アンタ、自分の気持ちどっかにやりすぎなんだよって。
もう俺その言葉も嬉しくてさ、久々に嗚咽上げながら泣いたよ。近くにあったベンチに座って、タオルに顔押し付けて、必死で声押し殺したけど、多分赤也分かってたんだろうなぁ。泣いてる間中ずっと、何も言わずに背中さすっててくれたんだ。その手がまたあったかくてね。
俺、赤也のこと嫌いになることないなって確信したんだ、その時。
赤也は俺に生きる意味を与えてくれた。赤也は誰よりも俺が見ている世界を分かってくれた。俺以上に俺の感情を理解してくれていた。嫌いになる理由が見つからないよね。
例え赤也が俺のことを嫌いだとしても、俺のこの気持ちは変わらない。そう思ったから、俺は赤也に告白したんだよ。

まぁなるべくなら早い方が良いだろうなって思ったから、実際に告白したのは2学期の初めぐらい。屋上庭園に呼び出したらさ、赤也ってば何かそわそわしてるんだよ。多分時期が時期だけに、部長任命の話だろうと思ってたんだろうけど、俺そういう話は部活中にしかしないのにねぇ。
それで普通に君のことが好きだよって言ったら、俺もですよって言ってくれたんだけど、それがどう見ても「で、本題は何ですか?」みたいな感じなんだよ。何か餌が目の前にある子犬みたいな反応しかしてくれなかったから、あぁまぁそうだよね分かってないよねってことで近付いた訳よ。
で目の前に立って、肩に手伸ばしたらさ、え?って感じで俺のこと見上げてきたんだよ。まぁ可愛かったんだけど、無視だよね。
それでいざキスしようと思って顔覗き込むみたいな位置になるじゃん。そこで初めて赤也気付いたらしくてさ、タンマタンマタンマ!!って顔真っ赤にさせて、ばたばたする訳。もう本当にあれは可愛かったなぁ。
で、これ以上話すことないなって思ったから俺は改めて好きだよ、俺と付き合ってよ、返事はまた今度でいいからって言って俺は屋上から降りた。まぁ赤也座り込んだままだったから置いていくのもあれかなって思ったんだけど、俺も緊張しちゃってたからそこはごめんねって感じだったんだけどね。

赤也の返答は結構待ったかなぁ、2〜3週間ぐらい?
何か柳とか仁王とかが面白がってたけど、それもすぐに止めさせたしね。赤也あれでいて結構他人に影響されやすいところあるから。
で、付き合っても良いですよって返事貰えたのが退部式の後だったかな。そうそう君に「赤也と2人で話がしたいから」って部室から全員追い出してもらった時だよ。
勿論俺としては部長としての何たるやを聞かれるかもと思ってお願いしたんだから、そう怒らないでよ……正直8割はこの話をしてくるって確かに思ってたけどさ、うん。
でさ、赤也は「何でオレのこと好きになったんですか?」「オレ先輩に好かれるようなことしてないっすよ」って困った顔で言ってきたんだよ。もうね、人から好かれる行動が何かを意識してるって言うのが健気だよね。
ああその流れで行くと、君赤也のこと何も考えてない風に思ってるだろうけど、少なくとも君よりかはみんなの仲とか関係とかをきちんと観察して分かってるからね。だから俺は赤也を部長に推したってことは理解して欲しいかな。
それで話を戻すと、好かれる理由が無いって言う赤也に俺は、ずっと傍に居てくれたのが赤也だけだったからだよって伝えた訳よ。だったら今度は鳩が豆鉄砲食らったような顔になってさ、「いやオレより部長の家族とか副部長の方が長かったでしょ」って急に冷静な口調で言うんだよ。
もうね、そうじゃないんだよー!って凄いもどかしい気分なんだよ。端から見て分かるようなそういう物質的な長さじゃなくて、何て言うかこう、精神的な繋がりって言うの? 凄く誰よりも傍に居るっていうこの感覚が俺にとっては一番大事で、それが赤也だったんだよって言いたいんだけど、もう見えてる世界が違い過ぎてどう言ったら伝わるのかもうすっごく悩んでー。
……悩んでも分かんなかったから、抱き締めてみた。それで俺なりに赤也が何で好きかを端的に分かりやすく噛み砕いて説明してみたんだけど、やっぱりそこまで伝わってなかったみたいで、どうしたものかなーってまた考えた訳。
それで思い付いたのが、はいかいいえで答える方法。極端だけど、もう1ヶ月になろうかって感じだったから引き延ばすのも嫌だなーって思ってさ。
それでまず最初に「赤也は俺のこと嫌い?」って質問したら、ぶんぶんって首横に振ってくれてさ。まずそれが嬉しかったけど、そこはぐっと堪えて「じゃあ好き?」って聞いたら、赤也眉間に皺寄せてうーんって考え込んじゃったんだよね。その時にさ「嫌いじゃないんですけど」って小さい声で言ってて、あぁ素直だなぁって妙に感心しちゃったよ。
でもまぁ赤也が詰まっちゃったから質問を変えたんだよ。「でも俺と付き合ってくれる?」って。
別に俺のこと好きになってくれなくても良かったんだけどさ、付き合えた方がもっと赤也と一緒に居られるかなって思って。まぁ俺としては関係ないつもりだけど、やっぱり物理的な時間も大事になってくるんじゃないかなって。
だったらさ、赤也ちょっと考えてから、うんって頷いてくれたんだよ。どれだけ嬉しかったかはもう言わなくても分かるよね。

これで俺の話は終わり。
まぁ付き合い始める前も後もそんなに変わってないかなって言うのが今の実感。でも俺は、それが一番幸せだって思ってる。
赤也の傍に居て、赤也と同じものを見て、赤也と笑い合える。あぁ生きるってこんなに楽しくて、美しくて、輝いてるんだなってことを気付かされたよ。
それでね、そうやって幸せな今を積み重ねていけば、未来も幸せってことになるんじゃないかなって最近思ってるんだ。それもさ、赤也が俺に明日をくれたからだと思うんだよね。


「だから俺にとって赤也は命の恩人で、一番大切な人で、かけがえのない存在なんだよ。」



[End.]
エピローグ:この世界の価値は(ユキアカ+8937)


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