[信じるに値する愛](ユキアカ)





幸村部長の病気が治って、全国大会が終わって、オレ幸村部長に呼び出されたんすよ。
フツー来年の話だろうと思うじゃないっすか。だから言われた通り屋上庭園に行ったんすよ。それで、告白されたんす。オレも一瞬、マジで頭にハテナマークが浮かびましたよ。
俺は赤也が好きだよって言われたから、オレもですよって返したら、いきなり近付かれてキスされそうになったんすよ? マジ部長いきなり過ぎだと思いません?
んでオレはそれで、部長の言ってる『好き』がオレの思ってる『好き』じゃないことに気付いたんす。
オレは先輩として好きだって言ったけど、部長はコイビトとして好きだって言ってた。分かったけど何だかよく分からないじゃないっすか。てかフツー分かんないっすよね、男同士の恋愛とか思いもしないじゃないっすかフツーは。
それでオレ、部長がいきなり近付いてきたから腰が抜けてぽかんとしてたんすよ。だったら部長は笑って、返事は好きな時にしていいよとだけ言ってどっかに行ったんす。
で、終わって真っ先に思ったことは『部長の話じゃねぇのかよ!』だったんすけど、オレ何も間違ってないっすよね?

んで、それが昼休みだったから、オレ午後からの授業中ずっと部長のことを考えてたんすよ。考えたんすけど、部長がオレにあんなこと言うなんてどうしたんだろうって、理由がよく分かんないのがなんか腑に落ちないっていうかなんていうか。
理由が分からないことには告白されたからって嬉しいとかオレ思えないんすよね。だってオレ男だし、普通の女の子みたいに幸村部長に好きになってもらう努力とかしたことないし、あんなこと言われる筋合い無いって言ったら無い訳じゃないっすか。
だから悩んでも仕方ないんで、今度部長に直接聞いてみることにしたんすよ。で、気付いた時には授業はいつの間にか終わってたんすけどー……。

けどその後中々部長には会えなかったんすよ。柳先輩に時間割聞こうしたら自分で調べろって言われたし、部長と同じクラスの人に教えてもらおうと思ったら仁王先輩が邪魔してきたし。
でも中々会えない間に、オレの中で部長への思いが固まってきた感じがしてきたんすよ。
オレにとって部長は単なる先輩で倒すべきバケモノで。でも、何かそんな言葉で割り切れるものでもない気がしないこともなくて。
でもそれがコイビトとかいうものなのかどうかもオレよく分かんなかったんすよ。ていうか、コイビトとかそういう話の前に、オレがあんまり人付き合いをしたことないことをみんな忘れてんじゃないっすかねー。オレも忘れてたんですけどね。


次に部長に会ったのはそれこそ退部式の時だったんす。オレが次期部長に指名されて、何か盛り上がって他の人達が出ていって、部室に2人きりになって。空気読んでくれたのかなーと思ったけど、そんなこと出来なさそうな真田副部長が先導で出ていったからやっぱりその辺はよく分からなかったんすけど。
でもまぁいいやと思って、オレは部長…まぁそん時はもう元部長だったんすけど、聞いてみたんすよ。何でオレのこと好きになったんすか?って。
だったら部長は、びっくりするぐらい綺麗な笑い方で、赤也だけがずっと傍に居てくれたからだよって言ったんすよ。いやいやそれはオレだけじゃないでしょって言ったんすけど、部長はいいや赤也だけだよって返してきたんす。オレ正直困ったっすよ。
だってオレは別に何もしてない訳だし。部長に嫌われることはともかく、好かれることをした覚えもない訳でー。
だから好かれる理由がないんすよって言うと、部長はふふって笑って、だから好きなんだよとか言ってオレのことを抱き締めてきたんすよ。
何だっけー……なんか、言葉があっても行動が伴わなければ意味が無い、赤也は言葉でも行動でも俺を救ってくれた。だから生きようと思えるようになった、赤也は俺の命の恩人だよ。なんかそんなこと色々言われたんすけど、何かよく理解しにくくて忘れたんすよ。さっきのは耳にタコができるぐらい言ってくるんで覚えたんすよ。
んー……でも、なんか、部長から漂ってる空気がなんとなくオレに『好き』っていう想いを教えてくれた気がしたんすよ。
柔らかくて優しくて、全てが溶けていきそうなカンジ。耳で鼻で目で肌で、その空気を感じて、不思議とオレは居心地がいいなって思ったんすよ。部長も男でオレも男で、同性同士だから気持ち悪いと思ったんだけど、実際は全然そんなこと無くてー…。

で、部長がオレに聞いたんすよ。俺のこと嫌い?って。オレは別に嫌いではないから首を横に振ったんす。
じゃあ好き?って言われたから、オレは首を傾げるだけにしたんすよ。だってなんかよく分かんなかったし。
だったら部長もうーんと苦笑いで首を傾げて、もう一回オレに聞いたんすよ。でも俺と付き合ってくれる?って。
で、オレはそれはいいと思ったから首を縦に振ると、部長は凄く嬉しそうな顔をして、抱き締めている腕を更に強く縮めたんすよ。ぎゅって感じだったのが、ぎゅーってな感じで。嬉しそうなのは別にいいんすけど、どー考えてもオレの息が続かなそうになるぐらいぎゅーって。
それでなんか部長が、俺を受け入れてくれてありがとう、ずっと君のことだけを大切にするよとか言ってて。告白した側なのに何言ってんだろこの人、とオレは思ったんすけど、抱きつかれた背中をタップするのでマジいっぱいいっぱいでしたもん。部長力すっげー強いから。


でも付き合ってみて、あの人も本当は一人ぼっちで寂しかったってことがなんとなく分かってきたんすよ。
なんかオレが言うのも違う気がするんすけど、なんかこう、部長も人付き合いがヘタっていうかうまくないっていうか。なんか思い込んだらそれだけ!って感じになっちゃうっていうか。
だからどれだけ強くてもどれだけ勝っても、余計に辛くなるだけだから、もう勝ちにこだわらなくてもいいよってあの人オレに言ったことがあるんですよ。でもオレは、それでも勝ちたいと思ったんす。
だって勝ちたいと思ったからみんなと仲良くすることができた訳だし、勝ちたいと思って吐くぐらい辛い練習してきたから強くなれた訳だし。それに、勝ちたいと思ったから、オレは部長に近付こうとした。オレにとってそれは変わらないことだし、これからも変わらないことだと思うんす。
やっぱどんなことがあったって最後にはあの人に勝たなきゃオレはあの人の傍に居られないと思うんすよ。だって、あの人そのせいで一人だと思ってるとこあるみたいだし。
だからオレにとって勝つことはあの人との絆と一緒なんです。勝ったらあの人はもう一人きりだなんて思わなくて済むと思うんです。だから、あの人をもう二度と一人にさせない為にも、オレは戦って勝つしかないんす。

でも最近この気持ちが、部長の言う『好き』なのかなって思うんすよ。
だってオレがそこまでして勝ちたいって思ってるのってあの人しか居ないから。あの人だけはなんかトクベツだって言うのは好きってことなのかなーって思うようになってて…。


「だからオレ、幸村部長が好きなんだなって、思ってるんじゃないかなって、そんな感じなんです。」



[End.]
エピローグ:その価値は貴方にだけ伝わればいい(ユキアカ&8937)


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