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▼破れない1月の紙

カレンダーの前で固まっていると、ふいに部室の扉があいた。

「先輩? どうしたんですか?」
「んあっ、名前ちゃん!?」

自分より一個下の、プロデュース科一年の少女は怪訝そうな顔で部室に入ってくる。転校生ちゃんが無断で入れば宗が怒るものの、彼女は怒られない。……彼女も列記とした手芸部部員であるから、だが。

さて、そんな彼女は、カレンダーの前で棒立ちになっていた先輩を怪しんで近くまで寄ってくる。慌てて逃げようとしたけどもう遅い。彼女はばっちりと、その違和感を目視した。

「ってみか先輩、もう今日は2日ですよ? いつまで1月のカレンダーにしてるんです〜?」
「あわっ、あわわ! 嫌や、変えんといてぇっ!」
「え?」

1月と書かれた紙を破り捨て、正しい日付をカレンダーに取り戻させようとしている後輩の腕に、みかは縋りつくように抱き着いた。その様子を見た名前は、ちょっと何かを察したようで……けれどすぐに微笑みを浮かべてみかを見据えた。

「どうして、カレンダーを直さないんですか?」
「ぐっ。……別に名前ちゃんに関係ないやろ……」
「そうですね。『Valkyrie』の一員ではないです」
「わ、分かっとるのに何で放っといてくれへんの!? 意地悪いわぁ、嫌いやわぁ!」

わざと拗ねるように言えば、名前は子供をあやす母のようにポンポンとみかの頭を撫でてきた。後輩のくせに、なんて思いながらも、その掌にすりすりと頭を摺り寄せてしまう自分は、猫のよう。

「ふふふ。ただ、先輩の気持ちも理解できるなあって思ったんです。

――あともう一回これを破けば、斎宮先輩たちが居なくなるのが怖いなぁ、って」

手に取った1月の紙を見ながら、彼女は呟いた。
3月。
それが来たら、みかは一人ぼっちになってしまう。どうすればいいのか、どうなるのか、全然分からない。人形師がいないのに、人形が動けるのか。全然理解できない未来は、けれどもうそこに迫っていた。

だから、カレンダーも破けなくって。

「おれ……不安やわ。なんかもう、不安を通り越して、理解不能やもん。どうなってしまうん? 『Valkyrie』も、おれも……」
「まぁまぁ、神崎先輩も『紅月』で一人の二年生ですけれど……それでも頑張って『紅月』を支えようと思っているそうですよ?」
「お侍さんみたいに強い子とおれ、一緒だと思わへんでよぉ」
「一緒ですよ」

そう言った彼女の言葉の後で、ビリィッ! と紙が引き裂ける音が聞こえた。悲鳴を上げる間もなく、1月という紙はカレンダーから乖離する。

「そして、みんな不安に思ってるけど、みか先輩は大丈夫です」
「え、な、なにがやねん……?」
「一人じゃなくて、私もついてますよ。ほら、私も手芸部ですし。先輩が寂しいときは、いつでも飛んできます!」
「は、はぁ? あかんやろ、皆のプロデューサーの自覚持たな……」

なんて、嘘だ。
ホントは嬉しくてたまらないその言葉。嘘つきで可愛くない自分でも、宗や名前には愛してもらえるのを知っていて、つい零れた。

2月の紙を破るときは、名前と一緒に破ろう。そう思いながら、みかは1月の紙を引き受けて、ごみ箱に行儀悪く放り投げることにした。

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