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▼情あるひと

「なずな! ほら見て、待望の新衣装! の原案だぞー!」
「いや原案かよっ。まあいいよ、まだ時間はあるしな。ほら、に〜ちゃんに見せてみろ……♪」
「私たち同い年でしょ」

という至極全うな発言は、に〜ちゃんに華麗に無視されました。
私のスケッチブックを手渡し、ウサギマークの書かれた付箋のページをめくるなずな。しょっぱなから顔がスンッ……って微妙な感じに。

「おれの衣装だけフリルついてるのは嫌がらせか?」
「遊び心……」
「名前ちん?」
「ごめんなさい、に〜ちゃん」
「よろしい。……ま、フリルを取っ払ったらいい感じの衣装になるしな。これ自体は採用させてくれよ?」

そういって、ぽんぽんと私の頭をなでるなずな。

なんだかんだ言って、なずなは私の衣装を突き返したことはない。

もちろん、不必要なフリルやリボンは取っ払えと命じられるものの、基本的には私の原案を大事に尊重してくれる。そこが、彼を『に〜ちゃん』たらしめる由縁なのかもしれない。

「およ? おまえ、この隅のらくがき……」
「あっ、消し忘れてた!」
「これ、もしかしておれか……?」
「…………」

そりゃあ、右サイドだけ長い金髪、赤い目とくれば該当者は一人だけだろう。しまった、つい落書き癖のままになずなの似顔絵なんか描いちゃってたことを忘れていた。さすがの私も恥ずかしくて、かぁと頬が熱くなる。

そんな私を見ると、なずなは少しだけ慌てて声をかけてくる。

「そ、そんなに恥ずかしがらにゃくてもいいんらぞ!? 別に責めてる訳りゃないし、むしろ嬉しいっれ思ってりゅし!」

相変わらず慌てると噛む癖はそのまま。その様子を見てると、なんだかこちらが落ち着いてくるのだから不思議。くすくすと笑いだす私を見ると、なずなはむむ、と顔をしかめたけれど、すぐに安心したようなため息をついた。

「わ、笑うな! こっちは気遣ってやったのに……まったく。でも、うん。おれは名前ちんの絵が好きだぞ」
「ほんと?」

意外なお言葉だ。
別に私、そこまで絵は上手じゃないと思ってるけど。

「ああ、好きだよ。名前ちんがこういうくだらないことしてると、平和だなぁって思えて」
「……そっか」
「紙に書いてあるのが、敵の倒し方じゃなくて友達の絵。おれはこっちのが好き」

なずなは、私の描いた似顔絵を愛おしそうに撫でた。

あの頃、一年前。私たちはろくに会話も交わせなかった。近くにいたけれど、精巧な人形は一般人が触れていいモノでもなく。人形は、戦争をしに行く騎士の仲間には不必要で、不干渉であるべきだった。

不幸と悪意に調律が崩された、あの時までは。

「おれもおまえも、今はくだらないことして笑っていられる。ただそれだけでも、どれくらい幸せなのか、たまに思い出さないと。過去のおれたちが可哀そうだからな」
「うん。ほんとにそうだね」

なずなはやさしい、心を持った生き物だった。それを知ったのは、三年生になってからで。まだまだ、私たちには埋められる距離が、深められる理解が存在しているだろう。

「名前ちん、この開いてるページに描いて」
「ん、なにを?」
「Ra*bitsのみんな。あと、」

その二人組の名前をそっと耳元で囁く彼は、やっぱり情ある人間だ。

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