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▼染めたい

「ああああもう! セナのバカぁっ!」
「王様がちゃんと補講受けてないのが悪いんでしょ〜? 悪いけど、アンタにはきちんと卒業してもらわなきゃいけないからねぇ」
「今日はサボる予定だったのに! なんで椚を呼ぶんだ! この鬼! 悪魔っ! セナ!」
「俺の名前を悪口と同列に扱わないでくれる〜? チョ〜うざぁい」
「まぁまぁ、王様落ち着きなさいよ。早く名前ちゃんに連絡しないと、お祭り自体終わっちゃうわよ〜?」
「おお、そうだった! もう、俺のバカ! 天才だけど馬鹿ッ! セナ携帯貸して!」
「自分のを持ってきなよ、自分のを! まったく……」

泉が自分のスマホをレオに手渡した。

時刻は夜の八時前。泉がレオを、椚の補講へ連行したのが約2時間前だ。彼の幼馴染たる名前はというと、レオが補講があると知るや否やダッシュで違うユニットの練習へと向かってしまった為、現在『Knights』のスタジオには不在だ。

どうやらレオと名前は、今日地元である小規模な祭りに行く予定だったらしい。それでレオはいつも以上にピーピーと文句を言っているようだ。

「名前! うっちゅ〜☆」
『うっちゅ〜……ってうおわぁっ!? こらスバルくん、飛びつかない!』
「むむむ! そこに居るのは二年生の『Trickstar』とかいうやつらかっ!? おれと戦争がしたいなら受けて立つぞっ!」
『何言ってんのレオ。可愛い後輩を虐めたら許さないからね〜? ってまぁそんなことより、補講終わったみたいだね』
「ああ! 急いで行こう、今すぐ行こうっ!」
『たしか九時までだったよね? あれ町民会のお祭りだし……ダッシュで戻らなきゃだね。校門集合で』
「わかった!」

レオと名前の会話はあっちこっち飛んでややこしいが、本人たちはこれでスムーズに意思疎通できているのだから不思議だ。主にあっちこっちに飛ばしているのはレオだから、単純に名前の慣れなのかもしれないが。

レオは通話を切ったスマホを泉に押し付け、荷物を乱雑にとってスタジオから出て行った。相変わらず子供っぽいが、今日は一段と元気がいい。



「ちぇ……結局、ぜんぜん周れなかったじゃん……やっぱりセナの馬鹿ぁ」
「こらこら、泉のせいにしない。ほら、かき氷買えただけでも御の字でしょ」
「ブルーハワイおいしいぞ!」
「そりゃあ良かった。私もりんごあめ美味しいよ」

2人、行儀悪く歩き食いしながら帰路につく。お互いの家までもうすぐなので、たぶんおれの部屋に戻ってから、ちゃんと座って食べる機会もあるだろう。

名前の選んだりんごあめも美味しそうだ。すっごく迷ったけど、やっぱり夏は冷たいモノを食べたくて、結局かき氷を選んだ。それに頂戴って言ったら、名前はちゃんと分けてくれる。いつものことだから。

「んんー! 頭がキーンとしたっ」
「急いで食べるからだよ。まぁ、かき氷溶けちゃうから仕方ないかぁ……って、あっ」
「どーしたんだっ……?」

若干涙目になりながら聞くと、名前はクスっと笑った。さっきからあめを舐めていた舌がちろりと見えて、少しドキッとする。

「レオの舌、青くなってる」

彼女は少し出した舌を指さしてまた笑った。ああ、食べていたかき氷のシロップが移ったのだろう。それもまた、夏の風物詩、というかお決まりだ。

「ほんとかっ? あーあ、名前もかき氷買ったらよかったのに。おれは緑色になった舌が見てみたかった!」
「メロン味? そーねぇ、今度他のとこのお祭り行ったらね。でも私も、シロップはブルーハワイが一番好きなんだよね」

買うならそれがいいな、なんて呟く名前。また赤い舌が、真っ赤なりんごあめに這わされる。じっと見ていると、名前が首を傾げてこちらを見てきた。欲しがっている、と思われたらしい。

「はい、レオ。どうぞ」

差し出された赤いりんごあめ。それに顔を寄せるふりをして、さっと名前の手を掴んで引き寄せる。そのまま、電灯が照らしてないのを良いことにキスをすれば、彼女はぴしりと固まった。

ちょっとそれが面白くって、舌を入れて彼女の舌を捕まえた。数度ほど絡め合うと、衝撃から回復した名前が頬を赤くして、やめろとばかりにどんどんと胸板を叩いてくる。

渋々開放すると、開口一番怒られる。

「レオっ! こんな道端で、な、なにしてるのっ!?」
「キス」
「……なんで道端でしようと思ったか、十五字以内で述べよ」
「今したいと思ったから?」

字数以内で答えてみた。とはいうものの、もちろん彼女が気にしているのはそこではないから、意味ないけど。

でも、名前の困った顔が結構好きなので、これはこれで。なんて思ってること、きっと知らないだろう。

「も、もう……誰か見てたらどうするの。私嫌だよ、近所のおばさんたちにからかわれるの」
「良いじゃん。どうせスグにおれたちの母さんにばら撒かれる情報だし」
「ひ、否定できない……!」
「だろー?」

ご近所の情報網的に、どれだけ名前が恥ずかしがろうが時間の問題。少なくともルカたんには付き合ったその日にあっさりとバレてしまった。彼女曰く「お兄ちゃんたちってわかりやすいよね」とのことだった。レオだけではなく、名前もルカたんからすれば分かりやすいらしい。

なんて、いつ広まるだろうかと取り留めもなく思っていたら、ふと名前の舌がまたりんごあめを舐めようとしていた。

「あっ」
「こ、今度はなに、レオ?」

びく、と肩を跳ねさせた名前に苦笑する。

「名前の舌も青くなってる」
「へ?」
「おれの色、移っちゃったな」

ブルーハワイの青。真っ赤なりんごあめに這わされていた赤い舌を、薄く染め上げていた。舌は青く染まっても、彼女の頬はまた赤く染まりなおしたので、そのほっぺにもキスしたい、と思ってしまった。

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